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日外会誌. 81(3): 264-280, 1980
原著
消化管吻合部補強法としての遊離腹膜パッチの効果に関する実験的研究-とくに阻血腸管吻合に対する効果について
I.内容要旨異常環境下の消化管吻合とくに全身的局所的poor risk下にある食道再建術では高率に縫合不全が発生し,その原因の一つに食道ならびに再建臓器の血行障害があげられている.また,食道が漿膜を欠くという点も吻合のマイナス面として指摘されている.そこで,食道再建術の場合を想定し,実験的に血行障害をおこさせた腸管(阻血腸管)を作製し,吻合部治癒過程において消化管壁各層の果す役割について各種吻合法の優劣を比較検討した.また,食道吻合部に人工的に漿膜を付加する操作として吻合部を自家遊離腹膜片(腹膜パッチ)で被覆補強する方法を採用し,本法の有効性について実験的に検討した.
その結果,腹膜パッチはとくに外翻1層吻合部に対して補強効果があり,腹膜パッチの漿膜面を外側にして吻合部を被覆する“smooth side out”法の方が,腹膜パッチの漿膜面を内側にして適用する“smooth side in”法よりも力学的強度の面からも周囲臓器との癒着が少ないという点からもすぐれていることがわかつた.また,“smooth side out”法腹膜パッチは消化管瘻孔や阻血腸管吻合部という異常条件下でもすぐれた補強効果を示した.
つぎに,阻血腸管吻合における各種吻合法の検討では,漿膜接合をはかる吻合法の方が粘膜下層の接合をはかる吻合法よりも縫合不全が少なかつた. この実験結果を腸管壁各層の血流分布,吻合部の血管連絡,組織学的検索および漿膜癒合力の面から解析した結果,粘膜・粘膜下層は漿膜・筋層に比べて阻血の影響を強く受けることが明らかになり,また,阻血状態での漿膜癒合力は正常状態に比べて劣つていないこと,阻血腸管吻合部の血管連絡は漿膜筋層を介するものがよく保たれていることが示された.
以上,阻血状態での消化管吻合では漿膜接合の意義大なることを明らかにした.
キーワード
消化管吻合, 腹膜パッチ, 阻血腸管, 吻合部補強, 創傷治癒
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