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日外会誌. 81(2): 164-174, 1980


原著

腸内細菌叢と下部消化管に関する外科的形態学の研究

近畿大学 医学部第2外科学教室

久山 健

(昭和54年5月17日受付)

I.内容要旨
無菌生物は次の様な生活条件のもとにあると考える.胎児は無菌・腸内細菌叢欠落状態にあって胎盤により完全静脈栄養をうけている.成人は腸内細菌叢完備,経口栄養の状態にある.この無菌生物は腸内細菌叢欠落しているにもかかわらず経口栄養している.子宮内の胎児が経口栄養している様なものである.無菌生物はこう言う原因のため盲腸の巨大化が生じる.本研究はこの様な人工的に歪みを作つた動物における胆汁酸と17KSの分布を検討し巨大盲腸を切除し下部消化管を再建し術後の変化を観察する方法によつて行われた.その目的は下部消化管の形態的機能的変化をもたらす外科的疾患と腸内細菌叢の関係を明確にすることである.この様な無腸内細菌叢と言う状態では小児のヒルシュシュプリング氏病にみられる以上の巨大化が盲腸に生じる.しかもいくらその巨大盲腸を切除し消化管を再建しても腸管の拡大は再び生じることを認める.腸内細菌がなければ下部消化管拡大をさけることは出来ない.これは経口栄養と言う条件のもとで認められる研究結果である.無菌生物学の現在可能な技術では無菌生物の完全静脈栄養飼育はどの国においても成功していない.最近の研究でもこの研究においても盲腸内胆汁酸総量に腸内細菌の有無によつて大差を認める.しかも雌においてその差は大である.腸内細菌が欠除していると盲腸に胆汁酸がプールされるのである.たとえその巨大化した盲腸を切除し消化管を再建しても再び結腸にプールされ巨大化する.下部消化管拡大の原因は腸内細菌欠落にともなう胆汁酸代謝異常である.この巨大化は盲腸壁の形態的,組織学的変化を伴うものであつた.次に盲腸内容における胆汁酸濃度の雌雄差を腸内細菌叢欠落するとき著明に認められ肝内17KS量は無菌マウス雄で有菌のそれより低い.KS排泄量も無菌では雌雄差を認めない.盲腸巨大化,胆汁酸代謝, 17KS腸内尿中代謝と腸内細菌叢の4者の相関は否定できない.

キーワード
腸内細菌叢, 無菌動物, 胆汁酸毒性, 巨大盲腸, 全盲腸摘出

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