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日外会誌. 126(6): 604-606, 2025

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定期学術集会特別企画記録

第125回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「医療の質と医療安全:人口減少時代の外科医療の集約化と均てん化」 6.地方都市における病院統合による外科集約化の光と影

加古川中央市民病院 外科

金田 邦彦 , 大嶺 拓海 , 高橋 京佑 , 栗花落 直人 , 有村 尚人 , 野添 洋平 , 辻 泉穂 , 西川 大志 , 服部 寛之 , 増田 蒼 , 時國 寛子 , 吉岡 佑太 , 渋谷 尚樹 , 有本 聡 , 西村 透 , 阿部 紘一郎 , 上月 章史 , 田中 智浩 , 新関 亮

(2025年4月10日受付)



キーワード
病院統合, 集約化, 働き方改革

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I.はじめに
人口減少化時代を迎えて全国的に病院を統廃合し集約化することで医療資源の効率化を図り,地域医療の提供体制を維持する方向性が示されている.10年前に病院統合を行った当院での経験を踏まえて統合による外科集約化の光と影の部分について概説する.

II.当院統合の経緯と現状
当院のある加古川市は人口約26万人,高齢化率28.6%の兵庫県南部の地方都市である.当院設立の経緯は,公立の加古川市民病院の内科医不足に端を発し同じ医療圏にあった民間の神鋼加古川病院と診療機能を補完する形で両病院を経営統合したことに始まる.2016年に現在の加古川中央市民病院を開院し,来年で10年を迎える.
現在600床34診療科,医師数290名,初期研修医34名,専攻医81名と若手医師が増え活気のある働き方をしている.筆者の所属する消化器外科医師数も,統合直後の9名から現在20名に増え,特に当初1名であった専攻医は現在3学年合わせて9名となった(図1A).

図01

III.病院統合による「光」の部分
統合による「光」の部分として統合後は,専攻医を中心とした医師確保が可能となり外科医師の増加につながった点と医療圏域が拡がり圏域全体の手術件数が増加するとともに当院の圏域内のシェア率も増加した点があげられる.
2020年から当院を基幹病院とする外科専攻医プログラムを策定し,独自の専攻医募集が可能になり,現在まで心臓外科志望の専攻医と合わせて毎年コンスタントに4人前後の専攻医を集めることができている(図1B).
統合前は当医療圏には統合した2病院を含めて四つの公的病院があり,それぞれの病院で比較的均等に手術が行われており,2病院を合わせた消化器外科手術のシェア率はちょうど50%であった.統合後は圏域外からの患者も増え圏域全体の手術件数自体も20%増加するとともに圏域内の当院のシェア率は70%を超える状況となった(図2A).ただ統合により他の2病院の手術件数が減り統合病院への一極集中が鮮明となり,当院の役割が大きくなりすぎて周辺の病院の力をそぐ形になっていることも否めない.

図01図02

IV.病院統合による「影」の部分
「影」の部分として夜間休日における救急受け入れ体制の受け皿の縮小,悪性腫瘍手術の待機日数の延長,外科医の働き方改革に対する逆行の3点があげられる.救急車の受け入れ台数は8,000台を超える一方で不応率も16%で高止まりしており,救急車が殺到するためにどうしても応需できないケースが発生している.特に夜間休日の緊急手術症例は,統合前は2病院で対応可能であったが,統合後は受け入れ体制が2病院から1病院に減る状況になっている.その結果,統合前にはほとんどなかった緊急手術症例に応需できないケースが出てきている.その場合は圏域外に患者を搬送せざるを得ない状況が生まれ当圏域の医療サービスの低下を招いている.
もう1点は悪性腫瘍手術症例における初診から手術までの待機日数の増加(平均26日から48日)があげられる(図2B).当院は市民病院であり悪性腫瘍の手術以外にも胆石やヘルニアといった良性疾患の手術も数多く行っている.手術枠に上限があるため良性疾患を手術に組み込んでしまうとどうしても悪性腫瘍の待機時間が長くなってしまうというジレンマを抱えている.もちろん良性疾患の手術に制限をかければ解決できるが,専攻医が在籍しているため若手が経験できる症例を減らすことはできないというのが悩みの種である.
次に外科医の働き方改革の点から考えてみたい.当院は3年前から医師の働き方改革に取り組んでおり,医師事務作業補助者や特定行為修了看護師を多く配置して医師の負担軽減を図ってきた.それにも関わらず増加する手術症例や緊急症例に対応するため消化器外科医の超過勤務時間はなかなか減らすことができず,専攻医,指導医とも超過勤務時間は月間80時間前後で推移している.

図02

V.今後の方向性
これら外科集約化により新たに生じた問題点の解決策として私見を述べたいと思う.まず集約化・拠点化を行うだけでなく圏域内の病院間の機能分担をすすめる必要がある.現在は病院の規模や外科医の数にかかわらず各病院で悪性,良性,救急疾患まで広く対応している場合が多い.今後はがんや救急疾患に主として対応する病院あるいは良性疾患や救急を主として担当する病院あるいは良性疾患しかみない病院というように疾患別に圏域内の病院の機能分化を行うべきである.
それに加え専攻医を中心に各病院間で人的交流を行うシステムを作る必要がある.現状は指導医・専攻医とも豊富にいる病院もある一方で若手がおらず比較的高齢の医師が少人数で外科を運営している病院もある.そういう病院に症例を振り分けるとともに専攻医をパートや短期間で派遣して手術経験を積んでもらう.そうすることで連携病院での手術症例も確保できるとともに基幹病院は悪性疾患や高難度症例に注力できるのではないかと考える.
このようなシステムの構築には設立母体の異なる各病院間で利害関係が絡み調整に難渋することは十分予想される.特にこの調整役をどの立場の組織が行うか等解決しないといけない問題は多々あると思われる.ただ今後人口減少化の中で各病院が生き残っていくためには一つの圏域内でいくつかの病院が連携し,それぞれが役割分担をして地域全体で医療を支える意識を持つ必要があると思われる.

VI.おわりに
消化器外科医の減少が進行している中で統合による一極集中だけではなく,疾患別(悪性,良性,救急)に近隣病院との連携や機能分化をはかるとともに連携病院間で若手医師を中心に流動的に配置,教育する体制を構築して医療圏域全体で外科医を育て守る体制作りを行うことが必要である.

 
利益相反:なし

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