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日外会誌. 126(6): 598-600, 2025

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定期学術集会特別企画記録

第125回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「医療の質と医療安全:人口減少時代の外科医療の集約化と均てん化」 4.都市部の専門病院と地域の一般病院をつなぐ遠隔手術支援

1) 国立がん研究センター東病院 大腸外科
2) 鶴岡市立荘内病院 外科
3) 鶴岡市立荘内病院 婦人科
4) 国立がん研究センター東病院 婦人科
5) 新潟県厚生連糸魚川総合病院 外科

塚田 祐一郎1) , 坂本 薫2) , 竹下 修由1) , 末森 理美2) , 島田 哲也2) , 矢野 亮3) , 竹中 慎4) , 澤田 成朗5) , 長森 正和5) , 鈴木 聡2) , 伊藤 雅昭1)

(2025年4月10日受付)



キーワード
遠隔手術支援, 遠隔手術指導, 高齢化, 外科医不足, 均てん化

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I.はじめに
都市部の専門病院では外科専門領域が細分化され,各専門領域において手術の質の向上が推進されている.一方,地域の一般病院では外科医不足により各専門領域の外科医を揃えることが難しく,手術の質の維持や向上が困難なことがある.しかし,地域の高齢患者にとって都市部の病院で手術を受けることは負担が大きく容易ではない.また,地域で働く若手外科医を確保するためにはその病院で魅力的な外科教育を提供する必要があるが,専門外の領域に関する十分な教育の提供は難しい.近年の高速通信技術の発達により遠隔地からでもリアルタイムに手術支援や教育を行うことが可能となり,これらの問題の解決に寄与する可能性がある.本稿では高速通信技術を用いた遠隔手術支援(テレメンタリング)のこれまでの実績と今後の展望を記載する.

II.遠隔手術支援の背景
本邦の高齢化は進んでおり,現在の全国の高齢化率(65歳以上の人口割合)は約29%である1).高齢患者は地元の病院で治療を受けたいというニーズが特に強いと思われるため,そのニーズに応えるためには地域の医療レベルを維持・向上していく必要がある.また,消化器外科医の減少も重要な課題である.日本消化器外科学会の分析によると,日本消化器外科学会の新規入会者が最近の状況のまま推移し,高齢医師がリタイアしていくと仮定した場合,65歳以下の学会会員数は10年後には現在の4分の3に,20年後には現在の半分にまで減少すると予想されている.外科医の減少は地域の病院ほど深刻であると考えられる.
このような状況の中,地域医療への貢献と地域におけるがん医療の高度化を図ることを目的に,2020年7月,国立がん研究センター東病院(東病院)と鶴岡市立荘内病院(荘内病院)は医療連携に関する協定を締結し,その一環として,専門医がいない病院における手術の質の均てん化および若手外科医の教育・確保を目的としてリアルタイム遠隔手術支援(テレメンタリング)を開始した.この遠隔手術支援(テレメンタリング)は遠隔手術ガイドライン2)においては「遠隔手術指導(Telementoring)」に該当する.荘内病院と東病院との間では「指導」より「支援」の方が地域に伝えやすいという理由で「遠隔手術支援」もしくは「遠隔アシスト手術」と呼んでおり,本稿でも遠隔手術支援と記載する.

III.遠隔手術支援の実際
図1は腹腔鏡下S状結腸切除術を遠隔手術支援している実際の様子である.受講者側の手術室ではメインモニターの横にサブモニターを配置し,受講者はサブモニターにリアルタイムに映し出される指示線を参考にしながら手術を進める(図1A,B).音声コミュニケーションを良好にするために受講者にピンマイクをつけることも有用である(図1C).また,サブモニターに指導者の顔が映ることも良好なコミュニケーションには重要である(図1B).指導者はノートパソコンのみで指導ができる(図1D)(図の壁面モニターは必須ではない).

図01

IV.これまでの実績
2022年12月~2025年3月に荘内病院で施行された23件の腹腔鏡下大腸切除術および8件の腹腔鏡下子宮全摘術において遠隔手術支援を実施した.大腸外科症例は若手の執刀が多く(23例中19例),婦人科症例は中堅の執刀が多かった(8例中6例).大腸外科症例の術式は腹腔鏡下S状結腸切除5例,腹腔鏡下高位前方切除5例,腹腔鏡下低位前方切除4例,腹腔鏡下右半結腸切除4例,腹腔鏡下回盲部切除4例であり,婦人科症例は全例腹腔鏡下子宮全摘術であった.遠隔手術支援あり/なしの手術成績の比較では両群に特に大きな差はなく,遠隔手術支援は安全に実施可能と考えられた.これまで大きなシステムトラブルも起こっていない.
実際に指導をうけた荘内病院の若手外科医からは,「術者主体の手術やトラブルへの対応が以前より可能になったと実感.タイムラグはほぼ気にならない.画面に指示線がでるため,直接指導よりわかりやすい,復習しやすい.技術認定医のいない施設でも技術認定取得を意識した修練が可能である.」といったポジティブな意見が多かったが,一方で,「指導者の直接的な助けがないため,ある程度腹腔鏡手術の経験がある場合は,執刀医主体の手術が可能になり,技術の向上につながるが,腹腔鏡手術に慣れていない場合は執刀医にストレスのかかる手術になるかもしれない.」といった率直な意見も出された.荘内病院の上級医からは,「地方で研修している若手外科医のモチベーションが向上した.手術のクオリティーや安全性を担保しながら若手に術者を任すことが出来る.手術の心構えや考え方等についても指導があり,いわば外部講師からの Off The Job Training の側面もあり,特別感を提供でき,満足度も高い.指導医の交通費や宿泊費が不要(コストパフォーマンスが良い).遠隔手術支援をより一般的なものとし,地理的制約や施設の枠を超えて,各施設・各専門分野の指導医から,専門的で個別最適化した指導を多くの若手外科医に経験してもらいたいと考えている.」といった意見が出された.指導医の意見としては,「利点:線で図示できるため,指導内容が伝わりやすい.指導者の拘束時間が短いので,何度も教えられる(タイムパフォーマンスがよい).欠点:目が疲れる.会えないためお互いの人柄や性格が分かりづらい.」といった意見が出された.
地元の新聞や医学雑誌に取り上げられたり,テレビの全国放送がされるなど,メディアからも注目され,社会ニーズに合っていると考えられた.

V.今後の展望
2024年3月からは糸魚川総合病院外科の遠隔手術支援も開始し,これまでに3件施行した.今後は更なる施設拡充や領域拡充を考えている.また,持続可能な体制構築も重要であり,指導医に対する報酬・指導医確保・マネジメント業務などが課題と考える.

VI.おわりに
遠隔手術支援は,集約化によって蓄積された知見を地域に効率よく伝えることで,外科医療の均てん化に寄与すると考えられる.

 
利益相反:なし

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文献
1) 内閣府ホームページ.2025年9月9日. https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/index-w.html
2) 遠隔手術ガイドライン.2025年9月9日.chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://jp.jssoc.or.jp/uploads/files/info/info20220622.pdf

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