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日外会誌. 126(6): 595-597, 2025

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定期学術集会特別企画記録

第125回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「医療の質と医療安全:人口減少時代の外科医療の集約化と均てん化」 3.外科医減少の地域格差と地域枠制度が与える影響について

広島大学 消化器・移植外科

唐口 望実

(2025年4月10日受付)



キーワード
外科医減少, 地域枠制度, 地域偏在

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I.はじめに-日本における外科医減少の現状
日本では医師総数が増加している一方,外科医のみが減少している現状が深刻な社会問題となっている.われわれの解析でも,手術件数は増加しているにもかかわらず外科医数は減少しており,需給バランスの悪化が示唆された(図1).さらに今後はロボット手術など新技術の導入がさらに進むことが予想され,外科医の減少は社会にとって致命的である.
いわゆる外科医離れの要因として,長時間労働や緊急呼び出しといった「制御不能なライフスタイル(uncontrollable lifestyle)」が若手医師から敬遠されていることが挙げられる1) 2).また,腫瘍内科・麻酔科・救急科といった関連領域の人材不足により,外科医が本来の業務以外を担わざるを得ない現状も外科医減少の大きな要因となっている3).さらに2024年に導入された働き方改革関連法に伴う労働時間規制も,外科医不足を一層深刻化させる懸念がある.

図01

II.外科医の地域偏在とその影響
今回の解析では,外科医減少は都市部より地方の方が進んでいることが明らかとなった.ただし人口10万人当たりの外科医数で補正すると有意差はみられず,これは人口減少に見合った外科医数の減少であることを意味していた.すなわち外科医不足は都市・地方を問わず全国的に同じ速度で進行していると考えられる.
外科医の分布をみると,都市部に偏在していた.背景には都市部に手術件数が集中する傾向がある.症例数の多い施設での手術は死亡率の低下に結びつくことが知られており,都市集中には一定の合理性がある.一方で患者が遠方まで移動して手術や通院を行うことは,時間的・経済的負担が大きい.したがって外科医の配置には,ある程度の均衡が不可欠であり,都道府県単位での分布を継続的に観察する必要がある.

III.国際的視点から見た日本の外科医の特性
日本は米国より人口当たりの外科医数が多いと報告されている4).それにもかかわらず外科医不足が問題となるのは,日本の外科医が手術だけでなく周術期管理,化学療法,救急対応,さらに患者・家族への説明にまで従事しているためである.欧米ではレジデント制度の充実やタスクシフトが進み,外科医の負担軽減が図られているのに対し,日本では外科医の役割が過度に広範であり,業務過多の状態が持続していることが大きな相違点と言える.

IV.地域枠制度と外科医養成への貢献
本研究で特に注目されるのは,地域枠出身医師が外科を選択する割合が一般枠の医師よりも高いという結果である.地域枠制度とは,地元出身の学生を対象に医学部に入学し,卒業後一定期間を中山間地域の医療機関で勤務することを義務付けた制度であり,日本独自の政策として導入されている.地域枠では女性医師の比率が高く,一般的に外科を選びにくい傾向を踏まえると外科志望は少ないと予想されていた.しかし,実際には外科を選択した医師が多いことが示された(図25).この背景には,僻地で幅広い疾患に対応する経験がジェネラリスト志向を強め,一般外科への関心を高める可能性があることが考えられる.また一部の大学では外科を診療科指定枠とし,僻地勤務免除などのインセンティブを与えていることも要因とみられる.

図02

V.外科医減少に対する政策としての「地域枠制度」と今後の方向性
地域枠出身者は外科に進む医師が多いという結果により,外科医減少対策としての地域枠制度の重要性が示された.第一に,地域枠定員の維持が必要である.現在,政府は医師数過多に対して医学部定員削減を検討しているが,地域枠定員は医師不足県へ再配分しつつ総数を維持する方針が示されており,この方向性は極めて重要である.第二に,外科を「専門性とジェネラリスト性を兼ね備えた魅力ある分野」として学生に伝え,制度内で重点的に位置づける取り組みが有効と考えられる.
今回のアンケートで得られたように,現場の医師による認知度が不十分という結果はある程度予測しており,また,筆者自身も一度政策に関わった経験がなければ,果たして政策に興味を持つ機会があっただろうかと改めて考えさせられる機会となった.医療現場への政策の浸透については,まだまだ多くの課題が残されていると感じた次第であった.

VI.おわりに
外科医不足は日本全国で進行しており,今後さらに深刻化することが懸念される.本研究で示されたように,地域枠制度は外科医確保においてプラスに働く可能性が示唆された.今後は制度を維持・発展させ,外科医療の持続可能性を確保することが求められる.

 
利益相反:なし

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文献
1) Khoushhal Z , Hussain MA , Rotstein O , et al.: Prevalence and Causes of Attrition Among Surgical Residents: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Surg, 152(3):265-272, 2017.
2) Brandt ML : Sustaining a career in surgery. Am J Surg, 214(4):707-714, 2017.
3) Takami H , Kodera Y , Hirano S , et al.: The shortage of surgeons in Japan: Results of an online survey of qualified teaching hospitals that take part in the surgical training programs for board certification by the Japan Surgical Society. Surg Today, 54(1):41-52, 2024.
4) Matsumoto M , Inoue K , Kajii E , et al.: Self-employment, specialty choice, and geographical distribution of physicians in Japan: A comparison with the United States. Health Policy, 96(3):239-244, 2010.
5) Karakuchi N , Matsumoto M , Ohdan H , et al.: Decline in the surgical workforce in urban and rural Japan and the regional quota system as a potential solution to surgeon shortages. Surg Today, published online: 01 July 2025.

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