日外会誌. 126(6): 588-590, 2025
定期学術集会特別企画記録
第125回日本外科学会定期学術集会
特別企画(1)「医療の質と医療安全:人口減少時代の外科医療の集約化と均てん化」 1.北海道の外科医療集約化と均てん化における大学病院の使命と役割
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1) 旭川医科大学 外科学講座肝胆膵・移植外科学分野 髙橋 裕之1) , 長谷川 公治2) , 横尾 英樹1) (2025年4月10日受付) |
キーワード
地域医療, 北海道, 外科医療, 集約化, 均てん化
I.はじめに
周知の通り北海道は広く,東から西までの距離は東京~大阪間に相当するが,交通網は未だ十分に整備されてはいない1).よって,その広大さから都道府県に一つずつとされる3次医療圏は,北海道では六つに設定されている.各々の3次医療圏の範囲は一つの県なみに大きく,旭川医科大学(以下,旭川医大)が担当している道北・オホーツク医療圏の人口は計約100万人である.旭川医大は,その教育理念にもあるように地域医療のために建学されており,その役割は道東道北における高度医療の提供と地域医療への医師供給である.
II.実状
筆者の故郷はオホーツク医療圏の湧別町という小さな町である.オホーツク医療圏は新宿区と同等の人口を抱え,岐阜県と同等の面積の3次医療圏で,農業生産高は道内2位,水産・林業生産高は道内1位と日本の1次産業を支えている地域である.
オホーツク医療圏の医療事情は,北海道庁の試算で必要病床数2,500床とされているが,200床の遠軽厚生病院が筆者の小さい頃より故郷周辺の地域医療を担ってきた2).遠軽厚生病院から旭川医大までの距離は120kmと東京から静岡県の熱海までの距離に相当するが,遠軽厚生病院は推定必要病床数800床とされる300km2・人口20万人の範囲を200床の病院でまかなっている.北海道ならではの広大な土地上,自然災害・事故の発生も時に起こるが,災害拠点病院としてDMATも整備し対応にあたっている.
地域医療における必要な医療技術は適切な内科診断学と他科へのコンサルト能力だけではなく,時には緊急手術・災害対応を含めた救急診療・化学療法・緩和ケアなど広範であり,これらの能力は外科医として独り立ちするまでに修めるべき必須事項である.また,地域医療における外科医の役割は,たとえ大きな手術ができなくとも,生命に直結する急性腹症手術の対応や,災害・外傷・院内急変対応を含めた救急・集中治療であり,地域医療にとって外科医は最後の砦といえる.旭川医大消化器外科は遠軽厚生病院を筆頭として,地方都市を中心に十分な派遣を行い,地方中核病院の管理職としても医療体制の整備に貢献してきた.
遠軽厚生病院の現状であるが,筆者の幼い頃は全て旭川医大からの派遣で概ね全科がそろい医師数も充足していたが,徐々に医師数が減少し常勤医不在の科が増えている3).救急医療は主に外科が主科で担当しているが,診療科の減少と共に外科医の負担が増加,さらに外科の入局者減少により,状況は厳しくなるばかりである.
外科医が減少し救急医療体制の維持が困難になれば,救急における外科のバックアップ力低下により他科のactivity低下を招き,activityの低い地方病院への異動希望者は減少,医師の都市部への偏在化を招き,地方病院は縮小,最終的に当科としては関連病院が減少する.このような流れの中での医局員増加は望むべくもなく,外科医が減少すると,当然のことながら地域医療への医師供給ができない.旭川医大としても,当科としても対策が急務となった.
III.北海道の医師を増やすために
① 旭川医大の取り組み
旭川医大としては,現在,道東・道北特別選抜として毎年10名,その土地の出身者を,北海道特別選抜として毎年32名,北海道の高校卒業者を受け入れている4).これらの選抜方式の入学者は将来の地域医療従事と旭川医大での卒後臨床研修を確約して入学しているが,入学後に心変わりした場合の明確な罰則はないため,定期的に卒業後の足抜けをする者がいて問題となっている.
② 旭川医大外科の取り組み
外科医減少の状況を打破するために,2016年に外科学講座が統合され六つの外科専門分野の入り口が一元化,外科志望者が入りやすい環境が整備された5).初期研修は柔軟に各専門分野のローテーションが可能で,将来の進路変更にも柔軟に対応するようになっている.講座統合後,各専門分野への入局者は少しずつ増加傾向となり,一定数の外科医を確保できるようになったが,消化器外科への入局は思うように増えず,疾患母数を考えると不十分なままであった.
入局者を増やすためには学生の入りやすい外科教室作りがなされていることは大前提であるが,待っているだけでは若手は増えない.学生は「外科になりたい人」ばかりではなく,多くが「何科になろうか迷っている人」であるため,直接のリクルート活動を行って学生に外科の魅力を伝え,「外科になりたい」と思ってもらうことが重要である.2021年までは「外科になりたい」学生が来てくれるのを待つ受け身の勧誘であったが,2022年からは教授を筆頭に積極的に勧誘活動を行い,学生に外科の魅力を伝え,「外科になりたいと思ってもらえる」ように変革した.攻めの勧誘で2024年は8年ぶりに4人の入局者を獲得,2025年も2人の入局者を確保できることとなった.
外科医が増えることは地域医療の充実を図るために必要不可欠な地方基幹病院の人員増加につながるだけではなく,若手外科医・指導医双方にとって医師教育を通じたモチベーション増加につながり,外科医能力の向上につながる.そうすれば地域医療も活性化,充実した修練を積んだ若手が大学へ戻って活躍することは学生勧誘の大きな力になり,スタッフの充足は大学病院での安全な高度医療の持続提供に欠かせない.つまり,北海道において地域医療を活用したサステナブルな外科医療を実現するためには,新人外科医の獲得と地域医療維持が必要不可欠である.
IV.旭川医大に求められていること
近年,SDGsの方針としてかかりつけ医と大病院の連携が推奨されている.旭川医大では,地方ではなく大学での手術希望と術後の経過観察希望が増え,大学病院の負担が増している.北海道の地域医療は本来地域住民のかかりつけ医であるため,理想の形は大学病院が大手術・研究活動・学生勧誘担当で,地域医療が大手術後の療養・経過観察・緊急手術対応と考えられる.また,旭川医大は数年前の騒動で現在大学病院改革プランを実行中であり6),北海道の医療課題を解決するため,マルチタスク型地域医療医を育成しようとしている.マルチタスク型地域医療医とは地域医療のニーズを十分に理解し,幅広く対応できる医師のことであるが,地域医療における必要な医療技術が1人前の外科医に必要な医療技術であることを鑑みると,旭川医大の育成したいマルチタスク型地域医療医とはまさに外科医のことであろう.
V.おわりに
医療の集約化と均てん化は相反するテーマであるが,北海道においては両立しなければならない命題であり,これらの達成は国からも,道からも,地域からも,住民の皆さんからも望まれ続けている.
北海道の外科医療集約化と均てん化における大学病院の使命と役割は「サステナブルな新人外科医の獲得と地域医療維持」である.これらを維持できなければ北海道,特に道東道北の外科医療は成り立たない.
利益相反:なし
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