[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (2195KB) [全文PDFのみ会員限定][検索結果へ戻る]

日外会誌. 126(6): 548-552, 2025

項目選択

特集

外科志望者を増やす取り組み

8.小児外科医を増やす取り組み―医学生の志に火を灯せ:小児外科の魅力を伝える取り組み

旭川医科大学 外科学講座小児外科

宮城 久之

内容要旨
北海道では小児外科専門医の数が極端に少なく,広大な地域に対して限られた人数で対応している.筆者は2018年に赴任後,厳しい労働環境を乗り越えつつ,医学生への教育や魅力的な講義,臨床実習などを通じて人材育成に尽力した.幸いにも志ある若者が入局し,全国学会・国際学会への参加などを通じて成長している.地方医療の中で経験症例を確保するため,国内留学の推奨や将来的なローテーション体制の構築も構想中である.大学の使命として臨床の他に研究・教育も重視しAcademic pediatric surgeonの育成を目指している.今後は働き方改革に即した体制づくりや専門医のポスト確保が課題であり,質の高い小児外科医療の維持に尽力していきたいと考えている.

キーワード
小児外科, リクルート, 医学生, 外科医, 地域医療

このページのトップへ戻る


I.はじめに
2014年の日本小児外科学会の報告によると,北海道は人口100万人あたりの小児外科専門医数が全国で最も少ない(0.73人/100万人)と指摘された1).2025年4月現在,北海道における小児外科専門医は8名で1.57人/100万人と依然少ないだけでなく,この数で広大なエリア(日本国土の約22%)をカバーしていることも付け加える必要がある.さらに北海道における日本小児外科学会認定施設・教育関連施設は札幌に3ヵ所(うち1ヵ所は教育関連施設),旭川に1ヵ所の4ヵ所のみであり,当施設の担っている役割は非常に重い.そのような状況の中,当施設では約30年間弱,専門医1名,専従医1名の2名体制で道北・道東地方の小児外科医療を守ってきた.2018年にわたくしが赴任し,まず小児外科医のリクルート活動に着手した.

II.夜明け前
「そんなに勧誘してどうするの?」と言われることがよくある.
われわれは空白の約30年間,新入局者が無く,そのため2名で365日のオンコール体制で,夏休み中も臨時手術で呼び戻される時代を経てきた.小児科医師達の協力無しにはとても語れない.教育機関である大学病院で研究も全くできておらずacademic surgeonとはほど遠い,単なる労働だけのような日々を経験してきた.
一般的に小児外科専門医・指導医取得までに最低10〜15年を要する.すなわち種を蒔いてから15年程度でやっと一人の指導者を得る.そのうち不規則な激務と緊張感の持続に身体を壊す者もいれば,他の診療科に興味を持って移っていく者,研究の道に進む者,いろいろな道に分かれていくことも考えられる.さらに,初期研修医制度や働き方改革などを経て空洞化した小児外科医の世代分布に,地域の小児外科医療は耐えられるのであろうか.

III.方法
まず始めに,医学生に対する医学教育から着手した.記憶に残る授業をしたいと思った.学生時代を思い出すと,以外と脱線した話は覚えていたりするもので,自分も医学生に脱線話や失敗談などを中心に講義を展開した.嬉しいことに講義を完コピしてくる学生もでてきた.
あとは臨床実習で実際に術野に入ってもらって説明したり,外来で患児の両親とのやりとりも診てもらった.随時,クルズスを挟んで小児外科の魅力を伝えられる限り語った.
幸いにも,小児外科の領域は医学生が喰い付くようなインパクトある材料には事欠かず,講義後にも興味を持って話しかけてくれる学生も次第に増えた.臨床実習では最終日に学生にスライドを用いて症例報告をしてもらった.特に秀でていた学生には日本外科学会や日本小児外科学会が企画してくれた「学生セッション」で発表してもらった.上手くいかなかったときは反省会で杯を酌み交わし,受賞したときには祝杯をあげた.今の時代,宴席は必ずしも学生にとって良いとは限らないが,苦楽を共にした後の食事会は距離が縮まって何でも熱く語り合えて良かったと考えている.共に喜び,興味をもってくれる者は入局してくれた.そうでない学生ももちろん沢山いた.決して百発百中では無かった.入局まで決意してくれた者は,すなわち志を共にする同志であり,どこまでも投資しようと思った.それはわたくしも先人達にして頂いていたことだったから(図1).
さらに,入局者には早い時期から積極的に国際学会に参加してもらった(図2).そこで海外からの影響はもちろん,そこで出会った国内のトップランナーである先生方から得る刺激は,もの凄いモチベーションを奮い立たせるものであったようだ.国際学会から帰ってくると目を輝かせて「次の手術ではこんな工夫を取り入れたい」,「こんな治療法はどうか?」,まとまったら学会発表し論文投稿したい,など志に火が灯って炎のように燃え盛っている.武冨教授(日本外科学会理事長)が「下の者が活躍する場を作るのが上の役目」と仰っていたのを思い出し,自らを奮い立たせているところである.手術と一緒で場を作ることが指導医にとって重要であると考えている.
そうしているうちに仲間が増えていった.わたくしは恥ずかしながら,くも膜下出血で倒れたことがあったが,幸いにも完全復活という機会を与えられ「もっと働け!」ということだと解釈した.さらに全国各地から同志が集まってくれて助けてくれている.わたくしも命をかけてみんなに恩返ししていきたいと考えている.

図01図02

IV.外科学講座の中の小児外科
外科という大講座の中では,小児外科としていろいろな思いをされてきた諸先輩方の中には「小児外科は外科のappendixだ」とやや自虐的に例えられる先生方も居られた.確かに小児外科は緩急の差が大きく,緊急時には寝ないで患児に寄り添っていることも多々あるものの,比較的ゆったりした時間をとれる時期もあり,多忙な他領域の外科医師の中には面白くなく映ることもあったかもしれない.外科学講座のバランスから,なかなかポストも与えられなかったり,誰もやりたがらないような仕事を割り振られたり,悔しい思いをされた小児外科医もいたかもしれない.とはいえ,下を向いていても若者は入って来ず,負のスパイラルに陥るだけであり,わたくしは積極的に外科学講座の執行に参加して貢献していくことを目指した.但し,わたくしは非常に恵まれていた.北大時代には武冨教授,旭川医科大学では東教授が小児外科を大切に配慮して下さっている.わたくしは好き勝手に振る舞うことができ,教授たちはそれをあたたかく応援して下さっている.

V.ロードマップと未来
経験症例をどのように確保するか.わたくしは関東の小児病院へ2年間,国内留学する機会を頂いた.そこでの経験症例数は北海道の各施設で1年間に経験する約10倍であり,さらに外来患児など含めると希少疾患などほぼ経験することができた.また,地域においては得意不得意な領域もあり,経験する疾患に偏りも生じやすいと考えている.自分の後輩達には少なくとも2年間は出生数の多い関東や関西へ国内留学する機会を与えてあげたいと考えている.希少疾患も経験した上で,地域を守っていって欲しい.
また,大学の使命として,臨床の他に研究,教育があるが,研究においてはできれば基礎研究で学位取得を目指して欲しい.Academic surgeon,Academic pediatric surgeonになって欲しい.さらに国内留学・海外留学を経て,学生達に自分たちがした貴重な経験を伝えていって欲しい.
地方でそんなにたくさんの小児外科医が必要か,という問いには,大学病院は臨床・教育・研究の場であり,それぞれに人員は必要である.そして働き方改革に対応するため,交替で休める体制も整えなければならない2).特に研究においては,小児外科領域で解明されていないことは多く,研究者不足も課題と考えている.
経験症例数の確保による臨床レベルの維持のためには執刀経験も大切な要素であり,将来はハイボリュームセンターとのローテーションなどを目指している.また,数十年前とは異なり胸腔鏡下・腹腔鏡下手術の発展により術野がきれいな動画として共有でき,オンライン講習会3)や,さらにはドライラボ,ウェットラボ,カダバートレーニングなども盛んになっている時代であり,地方においても技術の維持も可能ではないかと考えている.
近い未来,ロボット手術などの展開による遠隔医療の可能性もあるかもしれないが,希少な小児外科疾患への対応は,小児外科医が直に診察・診断して,工夫して手術していくことがしばらく続くであろうと考えており,小児外科医の確保は重要であると考えている.
課題としては,他診療科からも“直美”などへ転科する医師も多いと聞いているが,小児外科医のポストの確保・維持が大切と考えている.

VI.おわりに
数十年,2名体制であった当小児外科のメンバーも5年間で8名となり,そのうち大学は4名体制で道北・道東地域の小児外科医療を守っている.
志ある小児外科医をリクルートして維持すべく,学生に興味を持ってエネルギーを注ぎ,研修医・専攻医教育に全力を注ぎ,地域を守っていくことはもちろん,一人でも多くの小児外科専門医・指導医,研究者を国内外へ輩出していきたい.
謝 辞
なお,リクルート活動に当たっては恩師である日本外科学会理事長の武冨紹信教授(北海道大学),日本小児外科学会の歴代理事長である田尻達郎教授(九州大学),小野 滋教授(京都府立医科大学),家入里志教授(鹿児島大学)に感銘を受けて手法を学んだ.
また,本学の病院長・血管外科の東 信良教授(日本血管外科学会理事長),心臓外科の紙谷寛之教授,肝胆膵・移植外科の横尾英樹教授で形成されている一般社団法人 旭川医科大学外科学講座教育支援機構(AMUSE)という組織により企画や財政面で非常に大きな恩恵を受けている.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


文献
1) 平成23,24,25年度日本小児外科学会教育委員会:日本小児外科学会 小児外科卒前教育アンケート調査.日小外会誌,50: 842-849,2014.
2) Treffalls RN , Yan Q , Treffalls JA , et al.: Systematic review of vascular surgery recruitment strategies for medical students and general surgery residents. J Vasc Surg, 76: 837-843. e4, 2022.
3) Jackson TN , Wheeler TP , Truitt MS , et al.: Recruitment & Retainment of Vascular Surgeons: Prophylactic Measures to Improve the Current Workforce Crisis. Ann Vasc Surg, 85: 219-227, 2022.

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。