日外会誌. 126(6): 535-542, 2025
特集
外科志望者を増やす取り組み
6.当科における消化器外科医を増やすための取り組み
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京都大学 消化管外科 山本 健人 , 肥田 侯矢 , 笠原 桂子 , 小濵 和貴 |
キーワード
消化器外科, 消化管外科, リクルート, ハンズオン, 研修医
I.はじめに
2025年2月に公表された日本消化器外科学会ワーク・イン・ライフ委員会からの報告によれば,2002年に比べて医師の総数は3割以上増加した一方で,消化器・一般外科の医師数は2割以上減少している1).この傾向が持続すれば,10年後には消化器外科医は現在の4分の3に,20年後には現在の半分にまで減少するとされる.
また,同学会会員を対象としたアンケート調査では,自分の子供などの身近な存在に消化器外科を勧める,と答える人はわずか14%であり,この驚くべき調査結果は全国ニュースでも報道された2).同じ外科系でも,呼吸器外科医や心臓血管外科医は一律に増加傾向なのに対し,消化器外科医だけは唯一減少傾向にある.こうした現状を見ると,その原因を探索し,消化器外科医の減少を食い止めるための施策を講じることは,現役世代である私たちに課せられた使命と言える.
当科では従前より,医学生や臨床研修医を対象に様々な取り組みを行ってきたため,その現状を報告する.
II.医学生・臨床研修医向けワークショップ
当科では,医学生・臨床研修医を対象として,手術機器の体験ができるワークショップを定期的に開催している.2025年3月1日には電気メスや自動縫合器などの手術デバイスを用いた手術機器体験ワークショップを午前と午後の二部制で行い,医学生13名と臨床研修医4名が参加した.午前に電気メスを用いて豚肉や鶏肉,タコの切開や剥離操作を体験してもらい,午後には自動縫合器を用いて模擬腸管の吻合を体験してもらった.特に腸管吻合は,消化器外科における基本的かつ奥深い手技の一つで,再建を伴う外科の魅力を実感してもらいやすく,消化器外科への興味が深まることを期待できる.参加後アンケートでは,満足度はすべての参加者が最高点の5点を選択した.また,将来の専攻を決めるのに影響する要因として「自分の興味(16/17, 94.1%)」に続いて「体験してわかる面白さ(12/17, 70.6%)」が挙げられており,実際に体験してもらうことの重要性を再認識することとなった(図1).
また,医学生対象のロボット手術シミュレータを用いた手術体験会も年に2回行っている.Da Vinci Surgical System(以下,DVSS,インテュイティブサージカル社)とHugo RAS system(メドトロニック社),およびガデリウス・メディカル社のロボットシミュレータの計3機種を用い,当科に所属する消化管外科医の指導のもとで10〜20名の医学生がシミュレータ体験を行っている.2024年7月27日に行われたロボット手術シミュレータ体験会には,第一部と第二部に合わせて14名が参加した.終了後のアンケート調査では14名全員が「またやってみたい」と回答し,さらにアドバンスなコースがあれば「ぜひ参加したい」と71%が回答するなど,大変高い満足度を得ている.
本年も7月12日に同様のイベントを行い,好評のうちに終了した(図2).


III.エコーガイド下静脈穿刺ハンズオンセミナー
上記のような手術に関する手技のワークショップには,すでに外科に興味のある医学生や臨床研修医が参加する傾向があり,まだ確たる関心領域がない後輩たちには訴求しにくい点が課題と言える.実際,医学生時代に内科系や産婦人科,泌尿器科などを志望していても,クリニカルクラークシップや臨床研修中に消化器外科に志望を転換する人は少なくなく,こうしたポテンシャルのある後進ともコミュニケーションを取ることは大切である.こうした観点から,京大病院で研修する全臨床研修医を対象に,総合臨床教育・研修センターとの共催で,エコーガイド下静脈穿刺シミュレータを用いたハンズオンセミナーを年に約3回実施している.
エコーガイド下静脈穿刺は,今やどの診療科でも必須の手技であり,志望する進路を問わず臨床研修医からの関心は非常に高い.一人一人に十分な時間を使って手技を体験してもらうため定員は上限6名としているが,毎回定員を超える応募があり,抽選を要している状況である.
消化器外科医がこうした一般的な手技に関するセミナーも主導することにより,外科に強い関心がなかった臨床研修医でも,手技に対する心構えやコツを学ぶ過程で外科領域の魅力に気づける可能性に期待できると考えている.
IV.小中高生向け大学病院見学ツアー
当科では,医学生や臨床研修医のみならず,中高生を対象としたイベントも定期的に行っている.その一つが,毎年恒例の病院見学ツアーである(図3).午前の部・午後の部の2部構成とし,それぞれ定員10名として当科のスタッフが当院内の外来棟や救命救急センター,手術室などを案内したのち,縫合実習やロボットシミュレータを体験してもらう.参加者にとっては,手術用ガウンを着て写真を撮ること自体も貴重な体験になり,満足度も非常に高い.
2025年5月6日に行った同ツアーでは,参加者のうち約3割が京都府内の学生で,他府県からの参加が6割以上を占め,中には関東地方からの参加者もいたほど幅広い層に訴求ができた.終了後のアンケート調査では,縫合体験,ロボットシミュレータ体験ともに満足度は90%を超えており,大変人気のあるイベントとなっている.
中高生を対象とする場合は,参加者が直接的な消化器外科医リクルートの対象となるわけではない.しかしながら,地域の学生に手術の魅力を発信したり,現役消化器外科医たちがこうした活動に積極的に取り組んでいる事実を社会に発信したりすることで,この業界の開かれた雰囲気が伝わり,消化器外科の良いイメージの普及にも繋がるものと期待している.

V.SNSを用いた医学生向け情報発信
2023年9月より公式Instagramアカウントの運用を開始し,当科スタッフ4名体制で定期的に発信を継続している.現在フォロワー数は1,000人を超え,徐々に発信力の向上が実現できている.また,2025年4月からは公式Xアカウントの運用も開始し,Xユーザーへの発信も行っている.発信内容は大きく分けて以下の通りである.
・イベントの告知や開催報告
当科主催のセミナー告知や開催報告を行う.例えば前述の小中高生向け病院見学ツアーでは,Instagramの告知を見て参加した学生も複数おり,特に若年層へはSNSの集客効果が期待しやすいと考えられる.
・論文の紹介
当科スタッフが執筆した論文を定期的に紹介する.学術的なアクティビティに関心のある後進にアプローチできると考える.
・留学中のスタッフの紹介
当科では海外留学中のスタッフが常に複数名いるため,インタビューコンテンツを掲載することで,留学に関心を持つ後進への訴求効果を狙う.
・医学生向け国試対策コンテンツ
医師国家試験の過去問のうち,消化器外科領域の問題の解説コンテンツを作り,「外科医が解説!」と銘打って発信する(図4).特に高学年の医学部生は,遠い将来の進路より,近々の国家試験対策に追われているケースも多い.こうした学生に役立つコンテンツを提供することで,当科アカウントに関心を持ってもらえることを期待する.
・病院見学者募集への取り組み
当科への見学者募集を呼びかけるコンテンツを積極的に作成し,医学生に対する敷居を下げ,相談しやすい雰囲気を発信するよう心がけている.本年からは,当科ホームページとも連動して特にその方向性に注力した結果,例年の3倍以上のペースで見学者希望があり,一定の効果が得られていると考える.

VI.クリニカルクラークシップ学生へのアプローチ
京都大学では,5年生でクリニカルクラークシップを行っている.手術見学では,事前に解説担当の外科医を定め,手術支援AIシステム(EUREKA,アナウト社)を用いて外科解剖を解説したり,患者の臨床情報,デバイスの仕組み,外科医のキャリアなど様々な話題を共有したりすることで,学生が消化器外科への理解を深められる時間になるよう努めている.
当科では,DVSS,Hugo RAS,hinotori(メディカロイド社)の3機種を用いて手術を行っており,学生にロボット支援手術を見学してもらう機会が多い.手術そのものには関心が薄くても,手術支援ロボットには関心を示す学生は多く,手術支援ロボットの歴史や機種ごとに異なる特性を解説することで,多くの学生が熱心に見学に参加してくれている.
特にHugo RASはオープンコンソールを特徴とする新規手術支援ロボットであり,コンソールサージョンの後ろで学生が同じ画面を見学できるのが長所である.術者が直接学生に解説しながら手術を行うことも容易であり,より臨場感を伴った手術見学ができることから,学生にも好評である(図5).
私たちが学生の頃は,解剖も理解できないまま手術室に長時間滞在したり,術野が見えないまま鉤引きをしたりなど,体力的にも精神的にも厳しい手術見学が少なくなかった.近年,SNS等で学生たちの声に触れると,こうした旧来的な,いわば「体育会」的な指導体制に抵抗感を示す人も多く見受けられるのが現状である.現役世代の私たちは,多様な価値観を意識し,今の学生のニーズに合った教育を提供することが求められる.

VII.日本外科学会手術体験イベント「オペスル」への参画
2024年11月17日,日本外科学会は初めて,市民公開講座の一環として小中高生向け手術体験イベントを行った(日本科学未来館,東京都江東区).「オペスル」と名付けられた同イベントでは,ロボット手術シミュレータ体験,縫合実習,内視鏡シミュレータ体験,腹腔鏡手術手技体験など,全15社の協力を得て様々なブースが設置された3).
同イベントの実行委員長と講演への登壇を当科スタッフが務めたほか,3名のスタッフが子どもたちの指導役(ファシリテータ)として参加することで,前述のイベント実施経験を活かせる良い機会となった.
なお,このイベントは当初,目標集客人数を150名と設定していたが,参加登録開始からわずか3日間で700名を超える申し込みがあり,手術体験イベントのポテンシャルをあらためて認識することができた.当科としては,今後もこうしたイベントに積極的に参加して企画の発展に貢献するとともに,そこで得られた知見を当科主催のイベントにフィードバックし,より魅力的な企画立案に繋げたいと考える.
VIII.解剖実習における消化管外科臨床スタッフによる指導
医学部2年生を対象に行われる肉眼解剖学実習において,本学では以前から消化管外科臨床スタッフによる学生指導の機会が設けられている.その目的は,学生の骨盤内解剖や上腹部解剖の理解を深めることにあるが,消化管外科臨床スタッフが,実際の外科手術における解剖理解の重要性を直接学部学生に「手取り足取り」指導することで,外科手術への興味も深まると考えられる.消化器外科の志望者を増やすためには,もともと消化器外科に興味を持っている学生に対して,その知的好奇心をすくすくと伸ばし,取り残すことなく導いていく必要がある.その観点から考えると,肉眼解剖学実習で外科臨床に則した指導を外科医が行うことは,大変有用であろう.実際に,「臨床スタッフの指導により解剖学実習に活気が出た」「外科医のスゴさが伝わった」などの声があり,消化器外科医を目指す学生への良いモチベーションにつながっているのではないかと考えている.
IX.働き方への意識
手術体験イベントを通して,消化器外科領域そのものの魅力を多くの人に感じてもらうことは可能だが,一方で働き方や報酬面が障壁となって消化器外科を進路に選ぶ人が減少している可能性にも留意する必要がある.医学生や臨床研修医は現役世代の私たちの働く姿をよく観察しており,最も身近な消化器外科医が現状に対して不平不満を口にしたり,過剰に疲弊したりしている姿を見れば,消化器外科に進むことを躊躇するのも自然なことと思われる.
当科では働き方改革の観点から,チーム制を導入し,一人の患者を一人の主治医が抱え込むことなく,チーム全体で分業しながら診療に当たっている.土日祝日は交代制とし,回診担当者以外は登院せず,完全な休暇を取ることができる.病院の取り組みとして,定時以降の緊急手術では,3時間未満の手術で1.5万円,3時間以上の手術で3万円が支給されるインセンティブ制度が導入されており,可能な限りホワイトな職場環境の実現に努めている.
結局のところ,現役消化器外科医が仕事に満足を感じ,幸せに勤務できることこそが,消化器外科の志望者を増やすことに繋がるものと考えている.
X.課題
ここまで書いてきた通り,当科では,後進に向けた情報発信やイベントの実施を積極的に行っているが,開催実績が増えれば増えるほど,当科スタッフの負担も増えるジレンマがある.
特に前述した病院見学ツアーでは,大勢の小中高生が院内を移動する性質上,外来患者の多い平日勤務時間帯での実施が難しく,必然的に休日での実施とせざるを得ない.また,医学生や研修医を対象とした場合でも,講義や臨床研修との兼ね合いから,平日の開催が難しいという事情もある.熱意のあるスタッフは休日も厭わず参加するものの,長い目で見れば,持続可能性の観点から懸念も大きい.報酬面も含め,行政や学会等の組織との連携も考慮に入れ,スタッフが日常臨床と両立しながら企画を継続できる仕組みづくりが今後の課題である.
XI.おわりに
本章では,当科で行っている外科医を増やす取り組みについての現状と,今後の課題についてまとめた.今後は各大学でのアイデアを集約し,密に情報交換をしながら,質の高い取り組みに昇華させていくことが大切である.
利益相反:なし
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