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日外会誌. 126(6): 529-534, 2025

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特集

外科志望者を増やす取り組み

5.上部消化管外科医を増やす取り組み

北里大学医学部 上部消化管外科学

熊谷 厚志 , 比企 直樹

内容要旨
わが国では,少子高齢化に伴い医療需要が増大する一方で,消化器外科医,特に上部消化管外科を専門とする人材の確保が大きな課題となっている.National Clinical Databaseの解析では,食道癌手術など高難度手術の中央集約化が,術後合併症や死亡のリスクを有意に低下させることが報告されている.一方で,このような集約化は,手術症例が特定の高次医療機関に集中することで,そこで勤務する外科医の負担増加や,地域における診療体制維持の困難といった新たな課題を生じさせている.筆者はスウェーデンおよびノルウェーにおいて,子どもの迎えなど家庭での役割を果たすために早く帰宅することが当然とされる勤務環境と,それを可能にするシフト勤務やチーム医療の文化を経験し,外科医が健康と生活を守りながら高水準の医療を継続する可能性を実感した.当院ではすでに術中交代や当直明け勤務免除を導入し,外来診療や外勤についても柔軟なシフト制の構築を進めている.また,研究活動や教育への支援により,臨床のみに偏らない多様なキャリアパスを提示し,若手外科医の成長と動機づけに寄与している.こうした取り組みは,外科というキャリアの魅力を広く伝える土壌ともなる.今後は,集約化と働き方改革の調和を図り,外科医が「この道を選んでよかった」と実感できる環境を整えていくことが不可欠である.

キーワード
消化器外科医, 上部消化管外科, 中央集約化, 働き方改革, チーム医療

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I.はじめに
わが国では,急速な少子高齢化に伴い医療需要が増大している一方で,消化器外科医の減少が深刻な課題となっている1).厚生労働省が公表した統計によると,2000年に約28,700人いた消化器・一般外科医は2020年には約27,900人に減少した.同期間に医師総数が25万人から34万人に増加しているにもかかわらず,消化器外科のみが減少を続けている現状は極めて象徴的である1).高齢患者の増加と診療の高度化・中央集約化が進む中で,この人材減少は安全な手術提供体制の持続可能性を脅かす深刻な問題である.
外科診療は多忙を極めることが多く,従来から長時間勤務が常態化してきた.また,教育の観点からも,長く病院に滞在し,できるだけ多くの手術を経験することが,優れた外科医になるために重要であると考えられてきた.外科の世界では,長時間労働による肉体的・精神的な弊害や,家庭に代表される職場以外の社会で活動する機会の減少なども,「外科の矜持」として克服されるべきものであるという風潮さえあり,それを許容し,むしろ望む若者たちが消化管外科医を志してきた.しかし,多様性が広まりつつある現代社会において,新たに医師となる若者たちが,このような消化管外科の働き方を敬遠するのももっともである.制度の面では,近年の働き方改革に伴い,2024年4月から年間時間外労働が960時間以内に制限される上限規制が医師にも適用されている2).この取り組みは,医師の健康保持や医療安全の確保という観点から重要な一歩である一方で,上述の社会通念の変化と相まって,外科診療体制の維持や若手医師の育成,収入構造など多方面に影響を及ぼしつつある.
消化器外科の中でも,食道・胃・十二指腸を扱う上部消化管外科は,疾病構造や医療政策の変化の影響を強く受けている領域である.すなわち,かつては多くの病院で外科修練の初期段階にある若手外科医に執刀機会が与えられていた胃癌手術は,症例数が減少し,比較的稀な手術となりつつある3).一方,食道癌手術は手術規模の大きさや術後集中治療を要する合併症のリスクの高さから,世界的に集中治療室を有する大学病院やセンター病院へ中央集約化される傾向が強まっている4).さらに,食生活の欧米化の影響もあり,本邦でも十二指腸腺腫や粘膜内癌が増加し,検診で行われる上部消化管内視鏡検査で指摘される頻度が増えている5).これらの病変に対する内視鏡単独での切除は高い技術を要し,また術後遅発性穿孔のリスクが胃の内視鏡切除と比較にならないほど高いため,消化器内科医と上部消化管外科医が協力し,腹腔鏡・内視鏡合同手術(D-LECS)が広まりつつある5) 6).これも食道癌手術同様,消化器内科・外科ともに治療経験の豊富な施設に集約化される傾向がある.
以上のように,上部消化管外科を専門とする外科医は,一般市中病院ではその専門性を十分に発揮しにくく,大学病院での勤務が望ましい場合が多い.大学病院では診療に加え,教育・研究という使命を担う必要があり,後進の勧誘や育成においても十分な配慮が求められる領域である.
本稿では,消化器外科を取り巻く社会情勢と集約化の現状,さらに筆者が北欧で経験した外科医の働き方を紹介しつつ,当院で進めている勤務体制改革の実践について報告する.あわせて,上部消化管外科医を増やし育成する上で求められる展望について考察したい.

II.社会情勢と現状
日本消化器外科学会ワーク・イン・ライフ委員会が2023年に実施したアンケート調査は,消化器外科医の厳しい勤務実態を浮き彫りにした2).同調査によると,週50時間以上勤務する医師は約70%,60時間を超える者も2割に上り,月間45時間を超える時間外労働が常態化している.特に当直後も通常勤務を行う医師が多数で,当直翌日の手術参加率は73%に達していた.さらに「当直明けの手術でパフォーマンスが稀に低下する」と回答した医師は63%,「しばしば低下する」が16%であり,疲労の影響は多くの外科医が自覚する問題であることが示されている.
こうした負担は勤務時間の長さにとどまらず,収入構造にも関連する.調査では「収入の30%以上を兼業(当直や外勤)で補填している」との回答が58%に上り,長時間勤務と外勤が生活維持に不可欠である実態が明らかとなった2).働き方改革による時間外労働制限は,医療安全向上と引き換えに,外科医の収入減少やモチベーション低下を招く恐れがある.

III.中央集約化と診療の高度化
一方,医療の高度化と集約化は近年急速に進展している.National Clinical Database(NCD)に基づく報告によれば,2011年から2021年の10年間に食道癌手術件数は年間約5,000件から約6,000件に増加し,術後30日死亡率は約4%から1.6%にまで低下した(図17).この成果は,手術症例が大学病院,センター病院などの高次医療機関に集約され,消化器外科医だけでなく,術後管理を支援する麻酔科医・集中治療医を含めた経験豊富な専門医チームが診療を担う体制が整備されたことに大きく起因する.
Nishigoriらは,全国の食道切除症例を対象に,手術件数が術後死亡率に及ぼす影響を検討し,年間30例以上のhigh volume施設では,10例未満のlow volume施設に比べて死亡率が大幅に低いことを示した4).Motoyamaらも同様に,施設認定と術者認定が短期成績に与える影響を明らかにし,日本食道学会認定施設での手術がより安全であることを報告している8)
このように,症例の中央集約化は患者の予後向上に寄与する重要な戦略である.Setoは,中央集約化の是非を論じる中で「施設での手術件数が安全性の指標となりうる」と提起し,全国的な診療の集約と質向上を進める必要性を指摘している9).しかしながら,同時に中央集約化がもたらす課題も存在する.High volume施設に症例が集まることで,勤務負荷が特定の医師・施設に偏在し,外科医の疲弊を助長する懸念がある.特に食道癌手術は手術侵襲が大きく,術後集中治療を要するため,診療・教育・研究を一体的に担う大学病院等への負荷集中は今後も増すだろう.
このため,単に集約化を進めるだけでは持続可能な体制とはならず,診療を担う外科医の勤務環境とキャリア支援を両立させることが不可欠である.

図01

IV.北欧に学ぶ外科医の働き方
筆者は2012年から2014年にスウェーデン・カロリンスカ大学病院,2022年から2023年にノルウェー・ハウケランド大学病院で外科医として勤務する機会を得た10)12).北欧における外科医の働き方は,日本の従来の文化とは対照的であり,多くの示唆を得ることができた.
北欧では,勤務時間の上限とシフト制勤務が厳密に運用されている.平日は7時30分あるいは45分から17時頃までの勤務が基本であり,食道癌手術のように長時間を要する手術の日を除いて,17時を過ぎて病院に残る外科医はほとんどいない.週ごとに勤務シフトが組まれ,当直の週は2回の当直勤務を除いてduty freeである.当直の日は15時頃に出勤し,明けは当然帰宅する.年間5週間以上の有給休暇が制度として保障されており,夏季にはスタッフの約半数が長期休暇を取得するため,6~8月は手術件数が約半分に制限される.医療従事者の権利が守られるという良い面がある一方で,患者にとって最善の医療が提供されているとは言いがたい.進行癌患者の手術が数カ月待機となることも珍しくない.
さらに,北欧ではタスクシフトとチーム医療が徹底されている.手術執刀,病棟管理,外来診療が一人の医師に偏らず,それぞれ分業される.たとえば,その週に手術を担当する外科医は手術に専念し,術後患者の管理は病棟担当チームが担う.外来診療も担当医が固定されず,シフト勤務に応じて担当が変わる.主治医という概念がないため,医師の負担は大幅に軽減されている.「一人の患者を一貫して診ること」よりも,「全体として安全かつ効率的な診療体制を維持すること」が重視されていると言える.
北欧の制度は,患者の利便性よりも「医療者の権利と健康・安全を優先する」という社会的合意の下に成立している.これをわが国に導入するためには,単に医療機関内のシステムを変えるだけでは不十分であり,社会全体で文化的価値観を共有する必要がある10)12)

V.当院での取り組み
北里大学医学部外科は,上部消化管外科,下部消化管外科,一般・小児・肝胆膵外科,乳腺・甲状腺外科の4科で構成され,それぞれが独立した講座であるが,病院での診療科としては「一般・消化器外科」という一つの診療科である.この特性を生かし,現役医局員の待遇改善と,新たに加わってくれる若手医師にとって魅力的なチームづくりを目指し,4科合同で勤務体制改革を進めている.以下にその具体的な取り組みを示す.
(1) チーム制の導入
まず,チーム制の導入である.わが国では従来,手術を最初から最後まで一人の術者が担う「先発完投主義」が根強い.これは達成感や責任感を支える一方で,長時間手術による疲労蓄積とパフォーマンス低下を招く.上部消化管外科領域では,食道癌手術や胃全摘術はロボット支援下手術の導入もあり,6~8時間を超えることも多く,外科医の心身への負荷は大きい.当院では術中交代を標準化し,たとえば切除操作と再建操作で,可能であれば術者・助手ともに交代する.これにより,集中力を維持した状態で手術に臨むことができる.
(2) 当直明け勤務免除とシフト勤務
次に,当直明け勤務の免除を徹底している.これは2024年度からの時間外労働規制を受け,外科全体で共通ルールとした.さらに2025年6月からは,外科全体でシフト勤務体制を導入した.日ごとに手術担当・外来担当・当直明けを明確化し,それ以外を病棟当番医とする.病棟当番医の責任者は「インチャージスマホ」を携行し,緊急対応や転院調整を一元的に担う.この運用により,個々の医師の負担平準化を図りつつ,責任体制を明確にできると期待している.
(3) 外来診療体制および外勤体制の改革
わが国の医療機関では,曜日ごとに外来担当医が固定される「主治医制」が根強い.また,大学病院をはじめとする勤務医の生活を支える副業(いわゆる外勤)も,多くの場合曜日で固定されている.しかし,勤務の持続可能性を考慮すれば,外来や外勤も柔軟なシフト制に移行する必要がある.これにより,学会参加や休暇取得による診療への影響や収入減のリスクを回避できる.これを実現するためには,単一施設内のみならず,外勤先の医療機関も含めた理解が不可欠である.上述のように,医療機関内だけでなく,社会全体で意識を改革する必要がある.将来的には外来担当医や外勤日を固定せず,手術や当直,出張,休暇に応じて担当を調整するシフト制を目指したい.患者には「チームで診療する意義」を理解してもらうべく,院内にその旨を掲示している.これは患者にとっても文化的変化を求めることになるが,わが国の医療,特に消化器外科診療の持続性のために必要な変革である.
(4) 教育・研究支援体制
診療だけでなく,研究活動にも重きを置いている.北里大学上部消化管外科では,臨床で抱いた疑問をClinical Questionとして抽出し,それを解決するための臨床および基礎研究を推進している.臨床業務に忙殺されて研究が滞ることがないよう,週に1時間は研究ミーティングの時間を設け,当番制で進捗を報告している.若手医師が研究テーマを設定し,倫理審査,統計解析,論文執筆に主体的に取り組めるよう,サポート体制を整備している.
上述のように,特に上部消化管外科という専門性を十分に発揮するには,大学病院での勤務が望ましい.そこでキャリアを積み重ねるためには,臨床能力に加えて研究への関心と遂行能力,業績が求められる.このように,診療だけに依存しない多様なキャリアパスを提示することは,消化器外科を志すモチベーションを維持するうえで重要である.
(5) 情報共有と責任文化
術後経過や合併症の情報は必ず執刀医にフィードバックし,たとえチーム制であっても「診療に責任を持つ文化」を維持するよう心がけている.この「業務を分担しながら責任を共有する文化」は,従来の個人主義とチーム医療の調和を模索するうえで,当科が最も重視している点である.合併症が生じた際には原因や対処をチームで検討・共有し,個々の外科医としての成長を促すとともに,チーム全体の力を維持・強化してゆけることが,チーム制の大きな強みである.
これらの取り組みは,単に診療体制の効率化や安全性の向上につながるだけでなく,外科を志す若手医師が将来に希望を持てる環境を創るという点でも大きな意義がある.外科医のキャリアは長い時間を要する鍛錬に支えられているだけでなく,達成感や多様な成長機会にも裏打ちされていることを可視化し,社会に発信することが,次世代の外科医を育む土壌となる.特に上部消化管外科の魅力は,治療成績の向上に直結する技術的挑戦や,学際的な活動にある.その価値を後進に伝える努力が求められる.働き方改革や診療報酬の整備とともに,外科を選択する動機づけをいかに支援していくかが,今後の重要な課題である.

VI.おわりに
本稿では,わが国における消化器外科医,特に上部消化管外科医を取り巻く社会情勢,診療の中央集約化の現状,そして当院での具体的な改革の取り組みを紹介した.
今後は,高難度手術症例の中央集約化と外科医の勤務体制整備を両輪として進め,外科医の働き方が持続可能で,かつ魅力あるものとなるよう,診療報酬や社会全体での文化的合意を整備していく必要がある.将来の外科医が「この道を選んでよかった」と心から思える環境を築くことが,私たち世代に課された責務である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省.主たる診療科別にみた医療施設に従事する医師数.医師・歯科医師・薬剤師調査.2020年.2025年7月7日. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/index.html
2) 新原 正大 , 比企 直樹 , 鷲尾 真理愛 ,他:医師の働き方改革を目前にした消化器外科医の現状.日消外会誌,57(3):158–168,2024.
3) Iwatsuki M , Shimada M , Kurita N , et al.: Effect of hospital and surgeon volume on postoperative outcomes after distal gastrectomy for gastric cancer: A population-based nationwide study using the Japanese National Clinical Database. Gastric Cancer, 22(1): 190–201, 2019.
4) Nishigori T , Miyata H , Fushimi K , et al.: Impact of hospital volume on risk-adjusted mortality following oesophagectomy in Japan. Br J Surg, 103(13): 1880–1886, 2016.
5) Kato M , Takeuchi Y , Hoteya S , et al.: Outcomes of endoscopic resection for superficial duodenal tumors: 10 years’ experience in 18 Japanese high volume centers. Endoscopy, 54(7): 663–670, 2022.
6) Nunobe S , Ri M , Yamazaki K , et al.: Safety and feasibility of laparoscopic and endoscopic cooperative surgery for duodenal neoplasm: A retrospective multicenter study. Endosc Int Open, 10(2):E115–E123, 2022.
7) Ito S , Kakeji Y , Ueno H , et al.: Annual report on National Clinical Database 2021 for gastroenterological surgery in Japan. Ann Gastroenterol Surg, 8(1): 1–28, 2024.
8) Motoyama S , Sato Y , Wakita A , et al.: Impact of certification status of the institute and surgeon on short-term outcomes after surgery for thoracic esophageal cancer: evaluation using data on 16,752 patients from the National Clinical Database in Japan. Esophagus, 17: 41–49, 2020.
9) Seto Y : National Clinical Database (NCD) shows the trend for centralization of major surgery: Should it depend on hospital or surgeon volume? Ann Gastroenterol Surg, 3(4): 340–342, 2019.
10) 熊谷 厚志 :外科医にとっての働き方改革とは—これからの日本の外科医はどうあるべきか?—スウェーデンでの臨床経験から考えること.日外会誌,121(1):108–110,2020.
11) 熊谷 厚志 , 入野 誠之 , 神谷 諭 ,他:待ったなしの働き方改革への対応・対策—スウェーデン外科医の生き方を見て描くこれからの日本の外科医の未来像.日外会誌,123(1):98–100,2022.
12) 熊谷 厚志 , 神野 和志 :ノルウェー/スウェーデンにおける外科医の教育と地位.外科,85(7):797–802,2023.

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