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日外会誌. 126(6): 502-503, 2025

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先達に聞く

伝承―想いを継ぐ

日本外科学会特別会員,国立循環器病研究センター名誉総長 

北村 惣一郎



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人は必ず年を取り,死を迎える以上,その「想い」を継ぐには若い人達に伝承しなければならない.私は日本が真珠湾攻撃から太平洋戦争に突入していった1941年の生まれで,現在84歳,医師になってから60年を経過した.しかし,未だ世に在るうちにしておきたい事が幾つかあり,それを実現してくれる若い外科医にお願いしていることがあるので,ここに記させていただく事にした.
「日本医事新報」にも提言させて頂いた1)が,わが国の「組織移植」と「臓器移植」の間に存在する間隙を最小にして行くことである.具体的には新しい手術,例えば部分心臓移植「Partial heart transplantation」2)などを日本で行える体制を構築することである.
2001年,私達は既存の幾つかの研究会を集約し,全国的な「日本組織移植学会」を設立した3) 4).1997年には,いわゆる「脳死臓器移植法」が成立したが,組織移植医療はこれには含まれず,「医学的見地,社会的見地から相当と認められる場合には許容されるもの」として臓器移植法「指針」に付記された.その「相当と認められる場合」として日本組織移植学会が設立され,その「学会ガイドライン」が厚生労働省承認を得て,日本の「法律に相当するもの」となった.そのガイドライン集は何度も改訂を続け,現在に至っている5)が,英文化もされWHOにも届けられて,わが国の指針となっている.
現在,皮膚・心臓弁・血管・骨・羊膜(卵膜),膵島など,国内で施行されるすべての組織移植が保険医療として認められ,条件として「日本組織移植学会ガイドラインに則った場合のみ」と付記されている.その実施に際しては,ドナーコーディネーター(CO)の育成も求められた.臓器移植では「法律」の存在のもとに公益社団法人日本臓器移植ネットワーク認定のCOが存在している.一方,「法」の無い組織移植では一般社団法人日本組織移植学会が自前でCO育成を行う必要があった.そこで日本を東・西の二つに分け,東・西日本組織移植ネットワークを設立し,試験制度(かなり難しい)や更新制度のあるCO育成事業を行った.有能な学会委員諸氏の努力のお陰で,この4半世紀の間,大過なく発展してきた.これらの実績に対し2008年には厚生労働大臣表彰,第60回保健文化賞,NHK杯などを受賞した6).現在では両者のCOが互いに連携し合い,「臓器」と「組織」の移植医療の隙間を埋める努力が続けられている.
しかし,現在でも「法律」の無い組織移植に対する社会の認知度の低さが問題視され,ホモグラフト(HG)の提供は少なく,需要に応えられていない.ヒト心臓弁HGの利用は弁・弁輪の破壊を含む重篤な細菌性心膜炎に対する手術の場合やワルファリンなど催奇性のある抗凝固薬が全く不要のため,妊娠・出産を希望する若い女性に対するRoss手術の場合に有用であり,特に肺動脈HGの長期良好な成績が国内外から報告されている7) 8).しかし,提供数は少なく,わが国からRoss手術が消えかかっている.
そこで,今,私達が進めている事業は臓器移植を受けたレシピエントから摘出した臓器の部分再利用である.心臓移植患者の摘出心から大動脈(弁),肺動脈(弁)を提供して頂き,HGとして凍結保存し,再利用する方法である.外国では1991年頃から行われているが9),わが国では実施されていない.心臓移植患者の最大の病態は「心筋症」であり,その大動脈(弁)や肺動脈(弁)は充分に利用可能であることが判明している.特に日本では小児でも成人でも70~80%以上が心筋症患者であり,この「再利用」が全国的に施行されれば,年間100以上のHGが確保されうる.移植を受ける患者さんは「自分の病気の心臓」も人の役に立つなら,と快諾して下さる事が多く,移植手術のインフォームドコンセントと同時にHGの提供と採取のコンセントを頂く.この医療行為には倫理的にも全く問題の無いことは日本の研究者も報告している10)
最近,米国で行われ始めた「部分心臓移植」2)は小児の難病である総動脈幹残遺症(指定難病207)等に対し,小児心臓移植時に得られた摘出心からの大血管(弁)を移植するもので,弁も成長してゆくことが示され,「成長する心臓弁置換術」として初めての手術である.その他,左心低形成症候群(指定難病211)などの手術でも肺動脈HGは大変有用である.私はこの様な新しい手術が日本の子供達にも届けられるよう,また,妊娠・出産が可能なRoss手術が適時行いうるよう体制整備を期待し,若い外科医の「継承力」を信じて「私の今を生きる楽しみ」にしている.
※Cross Heart Study(先進医療B)主任研究者:福嶌五月(国立循環器病研究センター)で開始.

 
利益相反:なし

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文献
1) 北村 惣一郎 :提言:臓器移植と組織移植の狭間を埋める.医事新報,5442:60-61,2024.
2) Turek JW , Kang L , Overbeg DM , et al.: Partial heart transplantation in a neonate with irreparable truncal valve dysfunction. JAMA, 33: 60-64, 2024.
3) 北村 惣一郎 :巻頭言:日本組織移植学会設立後四半世紀,現況とさらなる進歩に向けて.日組織移植会誌,1:3-5,2024.
4) 北村 惣一郎 :組織移植.北村惣一郎編.日本医学館, 東京,3-16,2001.
5) 寺岡 慧 , 明石 優美 , 木下 茂 ,他:日本組織移植学会ガイドライン.日組織移植会誌 1:6-35,2024.
6) 北村 惣一郎 :日本組織移植学会,東・西日本組織移植ネットワーク─第60回保健文化賞の業績.第一生命保険相互会社編.東京,19-27,2009.
7) Kitamura S , Yagihara T , Kobayashi J , et al.: Mid- to long-term outcomes of cardiovascular tissue replacements utilizing homograft harvested and stored at Japanese institutional tissue bank. Surg Today, 41: 500-509, 2011.
8) Morimoto K , Hoashi T , Kagisaki K , et al.: Impact of Ross operation on outcome in young female adult patients wanting to have children. Circ J, 79: 1976-1983, 2015.
9) Feindel CM , David TE , Bos J , et al.: Recycled heart valves from transplant patients. J Heart Lung Transplant, 10: 614-616, 1991.
10) Nakazawa E , Maeda S , Yamamoto K , et al.: Reuse of cardiac organs transplantation: an ethical analysis. BMC Medial Ethics, 19: 77, 2018.

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