日外会誌. 126(6): 499-500, 2025
Editorial
心臓血管外科における臨床工学技士へのタスク・シフト/シェア
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北里大学医学部 心臓血管外科 宮地 鑑 |
医師の働き方改革を推進するために2021年5月,「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律 (令和3年法律第49号)」が公布された.一方,臨床工学技士に対しても,臨床工学技士法の改正により業務範囲が追加され,看護師等とともに医師のタスク・シフト/シェアに参画することが可能となった.公益社団法人日本臨床工学技士会が中心となって「臨床工学技士の業務範囲追加に伴う厚生労働大臣指定による研修」,いわゆる告示研修も開始された.
2024年4月から実施される医師の働き方改革のため,北里大学病院でも心臓血管外科医の長時間労働を改善することが喫緊の問題となった.ICUには集中治療医が常駐しているが,semi-closed ICUで,心臓外科術後管理は主に心臓血管外科医が行っていた.このことが心臓血管外科医の超過勤務の主たる原因となっていた.ナース・プラクティショナー(NP)や特定行為研修修了看護師(特定看護師)によるタスク・シフト/シェアが必須であると病院執行部に訴えてきたが,NPや特定看護師の診療科専任・配置に看護部が難色を示していることから,心臓血管外科医の当直廃止・オンコール化による労働時間短縮計画が暗礁に乗り上げてしまった.
ME部長として臨床工学技士を統括していた筆者は,告示研修を受講した臨床工学技士によるタスク・シフト/シェアを導入することが可能であるか検討した.2021年9月の厚生労働省医政局長からの通達「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」により実施可能となった13項目に
・人工呼吸器の設定変更
・人工呼吸器装着中の患者に対する動脈留置カテーテルからの採血
以上の2項目が含まれたことで,心臓術後管理に臨床工学技士の参画の可能性がみえてきた.試験的に2024年1月から告示研修をうけた技士1名を変則2交代24時間体制で心臓血管外科術後患者専属として常駐させた.患者がICU帰室後,状態が安定した段階で,心臓血管外科医は集中治療医,看護師,臨床工学技士に申し送りを行い,帰宅する.その後,暗号化した患者の状況(血液ガスデータや血行動態データ)をオンラインチャット等により,オンコール医師に報告,呼吸器設定変更や薬剤投与速度変更の指示を受ける.ICUに常駐している集中治療医に確認・指示をもらい,薬剤投与速度変更を行い,呼吸器のウイニングを進め,翌日抜管をめざす.これにより2024年4月から心臓血管外科当直は廃止となり完全オンコール制を実現することができた.1年以上経過した現在,大きな問題は起こっておらず,順調に経過している.心臓血管外科医の残業時間A基準(年1,860時間以内)達成は問題ないが,B基準(980時間以内)達成は2~3割程度にとどまっている.心臓血管外科医のICU管理業務はかなり軽減されたが,病棟管理業務が依然として重くのしかかっている.2030年には,心臓血管外科専門医認定機構が認定する基幹施設要件に「胸部・心臓・血管外科領域特定行為研修修了看護師登録制度」に登録した看護師が週40時間以上診療科病棟業務に専従することが必須となる.これにより,当院でも心臓血管外科専属の特定看護師が配置され,心臓血管外科医の働き方改革は完結するものと大いに期待しているところである.
利益相反:なし
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