日外会誌. 126(5): 450-457, 2025
特集
医療機器開発と医工連携
7.ロボット外科手術を安全に行うために医工連携研究から創り出した広視野角監視カメラ“BirdViewTM”が上市に至るまでの道のり
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1) 北里大学メディカルセンター 外科 惠木 浩之1) , 内藤 剛2) , 中馬 基博1) , 丸山 正裕1) , 藤尾 俊允1) , 太田 凌1) , 玉川 達3) , 服部 稔4) , 栗田 雄一5) , 佐藤 武郎6) , 海津 貴史1) |
キーワード
BirdView, Robotic Surgery, Medical and Engineering Collaboration
I.はじめに
腹腔鏡下大腸切除術は1991年にJacobs Mらによって世界で初めて報告された1).本邦では渡邊らが2003年に早期大腸癌に対する腹腔鏡下手術を報告したのが最初である2).以降あらゆる疾患領域において,腹腔鏡下手術は急速に普及して行った.一方で,内視鏡外科手術における手技自体が直接の原因と思われる術中合併症(出血や臓器損傷)によって,重篤な状況に至った症例が存在する現実がある.この問題に対しては「技術的・腫瘍学的な安全性をしっかりと確認するべきではないか?」という自制的な動きが生じ,適切な手術適応の決定と安全な内視鏡外科手術を行うための教育の重要性が注目されることとなった.内視鏡外科手術の黎明期から外科医として修業して来た筆者は,良好な術野映像下に小さな傷で繊細な手技を行うことができる内視鏡外科手術に完全に魅了されていた.そして同時に,「この手術の発展に貢献したい」そんな強い思いを抱くようになった.医工連携研究を通じて行ってきた,安全な内視鏡外科手術を確立するための取り組みを紹介する.
II.内視鏡外科学(Endoscopic Surgery)という研究領域について
筆者は2003年にImperial College London, St Mary’s Hospitalに留学した.内視鏡外科手術の先駆的な施設であり,当時は世界で手術用ロボットが10台程度しかなかった時代に,臨床用と研究用2台を擁していた.臨床では当時のロボット(da Vinci)手術を目の当たりにすることができ衝撃を受けた.研究では手術技術力の客観的評価(Objective Assessment of Surgical Skills)を工学系と連携して取り組んでいること,そして医師が行う研究領域としてリスペクトされていることに強い感銘を受けた(図1,図2,図3,図4,図5).この英国留学中に感じたのが,「われわれが国民のために内視鏡外科手術を守って行かなければならない!」そんな強い使命感で,帰国後直ちに医工学連携研究チームを立ち上げた.そこから始めた「内視鏡外科学」という研究について解説していく.
安全な内視鏡外科手術を行うためには,個々の手術技術力を高めることがもちろん大切だが,手術を安全にかつ効果的に行うことができる環境を科学的根拠に基づいて整えることが重要と考えた.そこで,①内視鏡外科手術に関する現象を科学的に解析すること,②内視鏡外科手術の発展に寄与する新しいデバイスを創ること,この二つを目標に掲げた研究を開始した.
これら二つの目標を達成するには,まず手術技術を客観的に評価するシステムを開発することが必須と考え,内視鏡外科手術技術力評価システムHUESAD (Hiroshima University Endoscopic Surgical Assessment Device)(図6)を広島大学工学部との共同研究で独自に開発した.






III.HUESAD
手術技術力(Surgical skills)の客観的評価を行うには,あらゆる角度から総合的に判断することが大切である.器用性(Dexterity),知識(Knowledge),決断力 (Decision making skill),統率力 (Leadership skill),コミュニケーション能力 (Communication skill) の五つの項目が特に重要と考えられており,それぞれ点数化され客観的データとして解析されている.そしてこれら五つの項目のなかで最も直接的なものが,器用性 (Dexterity) である.しかし,このDexterityこそ客観的評価を行うことが最も難しいとされている.
そこでDexterityを評価するシステムを開発することが研究テーマとなり,2000年に入って欧米を中心に始まってきた.世界で最初にコンセンサスを得られた外科手術技術評価システムとして,Objective structured assessment of technical skills (OSATS) がある.OSATSでは,外科手技のタスクを6か所のステーションを回りながら行い,Checklists and a global rating scaleで客観的評価が行われる.この評価システムは現在でもゴールドスタンダードの方法であるが,多くの人・時間・費用がかかり,日常的に施行することはできない.そういった現状を受けて,次世代の評価システムとして動作解析による方法が注目されてきた.動作解析装置 (Motion analysis system)として代表的なシステムにICSAD (Imperial College Surgical Assessment Device) がある.ICSADは両手首・両手背にセンサーを装着し,手の動きを磁場のズレをモニターすることで測定している.手の総移動距離/操作時間をパラメータとして,その効率性をもって評価している.ICSADの評価システムとしての妥当性はすでに証明されているが,ICSADによる評価は手術操作の効率性だけの評価であり,手術操作の質の評価はできていないという弱点があった3)
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5).
そこでわれわれは,内視鏡外科手術用デバイス(鉗子)の先端の軌道を正確にとらえることにこだわったMotion analysis systemを開発した.われわれが開発した HUESADは,二つのエンコーダーで,鉗子を動かすことによって生じる二つの角度と先端までの距離を測定し,位置情報(座標)を決定することができる.精度を上げるために,キャリブレーションポイントを複数設けるMultiple calibration methodで補正を行った.位置検出精度の検証も行い,誤差が0.92mmと非常に正確なシステムを作ることができた.
その後,いくつかのValidity study(妥当性の検証)を示すことでHUESADは信頼性のある評価システムとして確固たる地位を確立することができた6)
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9).それを踏まえて,HUESADによる客観的評価を行いながら効果的なトレーニング方法の提案を行ってきた10)
11).さらに,3次元画像構築の必要性に関しては,3次元画像を提供するロボット手術においては空間認知能力が低くても手術技術力が維持できること12),3次元画像は技術力が高い術者(Expert)よりも技術力が低い術者(Novices)に有用であること13) など,内視鏡外科手術に関する現象を客観的データに基づいて具現化・可視化することを心掛けてきた.一つ目の目標である①内視鏡外科手術に関する現象を科学的に解析すること,に関する成果である.
IV.広視野角監視カメラ“BirdViewTM”
二つ目の目標である②内視鏡外科手術の発展に寄与する新しいデバイスを創ること,に関連して開発したデバイスの代表作が“BirdViewTM”である.
腹腔鏡下手術が1990年代に出現し,あらゆる疾患領域で標準的な術式となってきた.さらに2010年頃からda Vinci S/Siを用いたロボット支援下手術がはじまり,2018年4月には複数疾患領域で保険適用となった.2022年4月からは適用拡大され,その後急速にロボット支援下手術の症例数が増加している.内視鏡外科手術の最大の利点は拡大視効果による精緻な手術を可能とすることである.一方で死角の存在・触覚の低下が欠点であり,特にロボット支援下手術においては触覚の欠如という非常に危険な因子がある.その欠点を補うためにBirdViewTMを開発するに至った.
発想は2004年の研究チーム発足時からで,BroadView(ブロードビュー)カメラと名付けて,実験レベルでミラーイメージによるストレス軽減に有効であることを報告した14).その後具体的に進展はなかったが,2010年7月に直腸癌に対するロボット支援下手術を導入して以来,触覚の欠如するロボット支援下手術にこそ死角を解消する必要性を強く感じ,開発を決意することとなった.
2012年広島県医療・福祉課題解決に向けたデバイス開発パイロット事業に採択され,シャープ株式会社と研究開発を開始することができた.日本学術振興会科学研究費補助金も獲得しながら開発を継続し,2016年には完成,臨床試験に進んでいった.2017年に「腹腔鏡補助下大腸切除術施行時における超小型広視野角カメラシステムの安全性および有用性に関する臨床研究」第Ⅰ相試験(試験責任医師 広島大学病院消化器診療科 惠木浩之)」を実施し15),上市を目指す段階になったが,シャープ株式会社が台湾企業に吸収合併されるという事態になり律速段階に陥った.ただ開発に携わったメンバーの思いは熱く,メディカルリーダース株式会社・コスミック・エム・イー株式会社と共に事業を継続することができ,2022年3月に薬事認証を得るに至った.
V.ロボット支援下手術におけるBirdViewTMの有用性・安全性の検証
実際に使用すると,①セッティング時にBirdViewTMの映像だけでリモートセンターの位置調整・デバイスの挿入を行うことが可能,②体腔内でのアームの干渉を継続的にチェック可能,③特に手術途中の助手鉗子の出し入れの際に有用で助手のストレス軽減につながる,などの利点をすぐに感じることができる(図7,図8).
2022年6月から「ロボット支援下腹腔鏡下直腸癌切除術における超小型広視野角監視カメラBirdViewTMの安全性の検証 第Ⅰ相試験(試験責任医師 愛媛大学医学部附属病院消化管腫瘍外科 惠木浩之)」 を開始し,安全性・有用性の検証を行ってきた.BirdViewTM使用に伴う合併症はなく,助手のストレスを軽減する可能性を示唆するデータが得られた16).さらにロボットの鉗子が視野外に出てしまった際に触覚がないが故に不用意に操作できない状態(金縛り?)に陥ることがある.こういった際に視野内へ鉗子を戻す作業が必要となるが,BirdViewTMの映像を確認しながら戻す方が,安全に早くできると考えている.この仮説を証明するために「ロボット支援下手術中の鉗子位置情報消失状態(ロスト)に対する『超小型広視野角カメラシステムBirdViewTM』の有用性の検証(試験責任医師 北里大学メディカルセンター 外科 惠木浩之)」を企画した.研究対象はHugoTMトレーニング参加者で,ロボット支援下手術中の鉗子位置情報消失状態(ロスト)を再現し,そこから視野内へのリカバリーをBirdViewTM「あり」または「なし」の環境で比較した.またその操作中におけるストレス度チェックをNASA-TLXアンケート法を用いて行った.研究期間は2024年10月1日から2025年3月31日までとし,目標登録数20例に対して30例の登録を得ることができた.今後あらゆる角度から解析していくことでBirdViewTMの有用性を示して行きたい.


VI.おわりに
今後ロボット支援下手術はあらゆる疾患領域でさらに増加することが予想されている.BirdViewTMを用いることで,安全なロボット支援下手術の遂行や若手外科医の執刀チャンスを広げることができるよう貢献していきたい.また,現在“BirdViewTMバージョン2”の開発に取り組んでいる.小型化,ズームアップ機能搭載が技術的には可能な状態で,早期の実現に向けて努力して行きたい.
利益相反:なし
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