日外会誌. 126(4): 372-377, 2025
会員のための企画
外科医とAI
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兵庫医科大学 上部消化管外科 篠原 尚 |
キーワード
人工知能, 手術支援, 解剖認識, 行程認識, スキル認識
I.はじめに
人工知能(artificial intelligence, AI)の手術への活用に向けた研究は,特に画像解析技術を用いた①術中の解剖構造認識,②手術行程の認識,③外科医のスキル認識において先行している.本稿ではそれぞれに関する取り組み事例を紹介したのち,その他の活用方法や自動手術の現状と展望についても概説する.
II.術中解剖認識
近年,深層学習技術の発展により,手術映像からリアルタイムに解剖学的構造を認識し,外科医の視野に重畳表示できるようになった.代表的な応用例として,以下のような取り組みが報告されており,今後さらなる発展が期待される領域である.
腹腔鏡下胆嚢摘出術におけるCalot三角の認識
腹腔鏡下胆嚢摘出術において,Calot三角の正確な認識は総胆管損傷を防ぐ上で極めて重要である.Hashimotoらは,深層学習モデルを用いて手術映像から95%以上の精度でCalot三角を認識し,リアルタイムに検出,表示するシステムを開発した1).手術の安全性向上に寄与することが期待されており,国内でも臨床実装に向けて大分大学と福岡工業大学のチームがオリンパス社と共同開発を進めている2).
食道癌手術における反回神経の認識
食道癌手術における反回神経の温存は,術後の嚥下機能や呼吸機能の維持に不可欠である.Furubeらは反回神経をリアルタイムに可視化するシステムを開発し,それによって外科医が右反回神経をより迅速かつ正確に認識できるようになったと報告した3).
胃癌手術における至適剥離層と膵の認識
胃癌手術では三次元の複雑な構造をもつ胃間膜を,内包する膵を温存しながら切除する必要がある.Kumazuらは剥離可能層を構成する疎性結合組織を高い精度でリアルタイム認識するAI画像システムEurekaを開発した4).またNakamuraらは同様の手法で膵実質を認識させ,結合組織との二重認識によって膵損傷のリスクを軽減しうる可能性を示唆した5).
直腸癌手術における解剖学的剥離面と神経の認識
直腸癌手術において,適切な剥離層の同定は根治性と安全性の両立に重要である.Igakiらは直腸間膜全切除における解剖学面の誘導ナビゲーションシステムの開発に成功した6).また,Kinoshitaらは下腹神経の損傷を避けるためのAI神経認識モデルを開発し,手外科医や医学生の神経認識の教育に有効であったと報告した7).
肝切除術における脈管の認識
肝臓切除中に現れる肝静脈とグリッソン系脈管の損傷は,出血や胆汁漏出の発生につながる.Tomiokaらはこれらを識別して着色表示するAIシステムを開発し,より安全な肝切除の実現の可能性を示唆した8).
鼠径ヘルニア修復術における解剖認識
腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術では再発,痛み,性機能障害,出血などの術後合併症を防ぐために,疎性結合組織,神経,精管,微小血管を適切に認識することが重要である.Mitaらは先のEurekaシステムによってこれら解剖学的ランドマークが高い精度で認識されることを報告した9).
今後の課題
AIによる術中解剖認識システムの実用化に向けては,いくつかの重要な課題が存在する.まず,画像処理における遅延の問題が挙げられる.手術の安全性を確保するためには,よりスムーズなリアルタイム処理が必要不可欠である.また,個々の患者が持つ解剖学的バリエーションへの対応も重要な課題である.患者固有の特徴や病態に応じて,柔軟に適応できるシステムの開発が求められる.さらに,単なる解剖構造の認識にとどまらず,手術の進行状況に応じて適切な情報を提供できる,より高度な統合システムの開発も必要である.
III.手術行程認識
手術映像から手術の進行状況をリアルタイムに把握し,現在どの段階にあるかを自動的に判別する技術はAIによる手術支援において重要な研究分野の一つである.手術の各段階を正確に認識し,適切なタイミングで必要な情報を提供することで,手術の安全性と効率性の向上が期待される.この技術は以下の要素から構成される.
1.手術工程の分節化:連続する手術映像を意味のある工程単位に分割
2.行程の分類:各工程が手術手順のどの段階に該当するかを判別
3.次工程の予測:現在の状況から次に起こりうる工程を予測
手術行程認識AIの臨床応用により,以下のような効果が期待されている.
1.手術チームの連携強化:次行程の予測により,器械出しのタイミングが最適化される
2.手術教育への活用:研修医が各行程の要点を理解しやすくなる
3.手術室運営の効率化:手術の進行状況を正確に把握することで,手術室の効率的な運用が可能となる
4.異常の早期発見:標準的な手順からの逸脱を検知し,潜在的なリスクを警告できる
腹腔鏡下胆嚢摘出術における行程認識
手術行程が比較的標準化されており,AIによる工程認識の研究が最も進んでいる領域の一つである.リスト化した行程を画像認識情報と関連付けることにより手術記録を自動生成する取り組みも始まっている10).
ロボット支援食道癌手術における行程認識
Takeuchiらは食道癌手術の胸部操作を九つのフェーズに分割し,AIが84%の精度で行程を認識したと報告した11).
腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(LSG)における行程認識
HashimotoらはLSGをポート配置からステープルライン最終確認までの七つの行程に分割し,AIはビデオから定量的な手術データを85.6%の精度で抽出できたと報告した12).
腹腔鏡下S状結腸切除術における行程認識
腹腔鏡下S状結腸切除術も手術行程がほぼ標準化されており,日本内視鏡外科学会技術認定医指定術式の一つでもある.Nakajimaらは同手術の五つの手術フェーズを認識する深層学習モデルを構築し,技術認定有資格者群と中間群,初心者群において各行程にかかる時間に相関があることを報告した13).
今後の課題
手術行程認識AIの更なる発展に向けては,標準的な手順からの逸脱を正確に検知し,適切な警告を発する機能の強化も必要である.現在は比較的定型的な手術に限られている認識能力を,より複雑な手術にも対応できるよう拡張していく必要がある.さらに,自動的な手術記録の作成や手術データベースの構築など,より幅広い活用方法の開発も重要な課題となっている.
IV.外科医のスキル認識
外科手術の質を担保する上で,術者の技術評価は重要である.従来,この評価は熟練した外科医による主観的な判断に依存してきたが,近年AIを活用した客観的評価システムの開発が進められている.手術スキル評価においてAIは,手術器具の動きの効率性や滑らかさ,組織の適切な扱い方,手順の適切性や時間効率,さらには合併症回避のための危険な操作の認識など,多角的な観点から分析を行う.これらの要素を総合的に評価することで,客観的なスキル評価が可能となっている.
米国における手術評価システム
米国では,C-SATS (Crowd-Sourced Assessment of Technical Skills)が手術映像を解析し,術者の技術を評価するプラットフォームとして注目を集めている14).このシステムでは,提出された手術動画をAIが解析し,手術時間や器具の動きの効率性,組織の扱い方の適切性,手術手順の遵守度など,多岐にわたる評価を行う.
日本内視鏡外科学会技術認定制度への応用
日本内視鏡外科学会の技術認定制度は,内視鏡手術の質を担保する重要な制度である.現在,AIを活用した一次スクリーニングの導入が検討されており15),基本的な技術要件の確認や客観的指標の評価,危険な操作の検出などを自動化することが期待されている.さらに,評価基準の数値化や審査員間での評価のばらつき低減,評価過程の透明性確保といった観点からも,AIの活用が検討されている.
今後の課題
技術的な課題としては,各手術手技に特化した評価指標の開発や,施設間での手技の違いへの対応,複雑な判断を要する場面での評価方法の確立などが挙げられる.また,システムの信頼性向上も重要な課題であり,誤判定の低減やエッジケースへの対応,評価結果の説明可能性の向上などが求められる.制度面では,国際的な評価基準の統一化が重要な課題となる.各国・地域の特性に配慮しながら,評価結果の互換性を確保することが必要である.また,患者情報の適切な管理や術者の権利保護,データセキュリティの確保といったプライバシー保護も重要な検討事項である.
V.その他の新たな活用領域
術前計画と手術シミュレーション
画像診断AIを活用した術前計画は,既に実用段階に入っている.CT・MRI画像から臓器や血管の3次元モデルを自動構築し,最適なアプローチ法を提案するシステムが開発されている.TakamotoらはAIによって再構築された3D肝臓モデルを使用した仮想肝切除術が,肝腫瘍切除の実際的な計画において高い信頼性を有することを報告した16).
手術ロボットの制御支援
手術支援ロボットにAIを統合することで,より安全で正確な手術が可能となる.例えば,組織に加える力の自動調整や,危険領域への進入制限などが検討されている.
手術室管理
手術室の効率的な運用にもAIが活用されている.手術時間の予測,器械・材料の準備,人員配置の最適化などに,機械学習が応用されている.これにより,手術室の稼働率向上と医療資源の効率的な活用が可能となることが報告されている17).
合併症予測と予防
手術データと患者情報を統合分析することで,術後合併症のリスク予測が可能となっている.Stamらの研究では,術中データとAIによる解析を組み合わせることで,術後合併症の発生を高い精度で予測できることが示されている18).
VI.自動手術の現状と展望
完全自動手術の実現に向けた研究は,主に限定された単純作業から始まっている.例えば,血管吻合や腸管吻合などの定型的な作業について,自動化の試みが報告されている.Johns Hopkins大学のチームは,ブタを用いた実験で,AIによる自動縫合システムが一定の成功を収めたことを報告している18).しかし,これらは極めて限定された条件下での成功例であり,実際の手術環境での応用にはまだ多くの課題が存在する.特に,予期せぬ状況への対応や,複雑な判断を要する場面での意思決定には,依然として人間の介入が不可欠である.
一方で,完全自動手術の実現を目指すことについては,慎重な議論が必要である.技術的な実現可能性以前に,以下のような本質的な問題が存在する.第一に,手術は単なる技術的作業ではなく,患者の状態や希望に応じた総合的な判断を要する医療行為である.例えば,術中の予期せぬ所見に対する方針変更や,合併症発生時の対応など,状況に応じた柔軟な判断が必要となる.第二に,手術の結果に対する責任の所在が不明確になる懸念がある.医療における責任の所在は,患者の安全と権利保護の観点から極めて重要である.むしろ,AIは外科医の判断や技術を支援し,手術の安全性と質を向上させる「協調型」の発展を目指すべきかもしれない.AIは外科医を置き換えるのではなく,その能力を補完・強化する方向で発展すべきであろう.
VII.おわりに
AIの外科医療への応用は,手術の安全性と質の向上に大きく貢献する可能性を秘めている.とは言え,AIは外科医にとって代わるのではなく,その能力を補完・強化する「協調型」の発展を目指すべきである.人間とAIの適切な役割分担によって,より安全で質の高い手術を実現することが期待される.
(本稿は生成AI Claude 3.5 Sonnet,ChatGPT-4のアウトプットをもとに執筆された.)
利益相反:なし

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