日外会誌. 126(4): 359-364, 2025
特集
移行期医療を考える.現場からの提言
7.小児がん経験者の長期フォローアップと移行期医療
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兵庫医科大学 小児外科 大植 孝治 |
キーワード
小児がん経験者, 晩期合併症, 長期フォローアップ, 成人移行, 移行期医療
I.はじめに
小児がんは,白血病・リンパ腫などの血液腫瘍が約50%,神経芽腫・腎芽腫・肝芽腫・ユーイング肉腫などの固形腫瘍が約30%,脳腫瘍が約20%と,非常に多様な腫瘍よりなり,病期,病理組織診断,分子遺伝学的分類などにより,異なる治療戦略がとられる.集学的治療の発展と,それを支える多施設共同の臨床研究により小児がんの治療成績は1990年ごろより急速に向上し,最近では5年生存率が80%を超えるようになった.それにつれて,治療を乗り越えて長期生存し,成人期に達する患者(小児がん経験者:Childhood Cancer Survivor:CCS)は増加の一途をたどっている.小児がんは希少疾患であり年間の発生数は全国で2,500人程度と推測されているが,後に述べるように小児がん経験者の約70%が何らかの晩期障害(late effect)を持つと言われていることから,成人医療への移行が必要な小児がん患者は,毎年1,000人単位で増加していると推計される.
1990~2000年代に治療した患者がちょうど青年期に達するようになり,それにつれて成人分野の医師が小児がん経験者の診療を行う機会が増加することが予測され,小児がん経験者の成人医療への移行(transition)の重要性が今後増大すると考えられる.
成人移行の目的は,患者が思春期から成人期になっていく際に,自分の疾患を理解し自立に向かうとともに,個々の患者にふさわしい継続的で良質かつ発達に応じた医療サービスを受けられるようにすることである.小児期から疾患,治療,合併症などについて,患児の発達・理解度にあわせて段階的に情報を伝え,ヘルスリテラシーを高めることが,成人移行を円滑に進める鍵になる.
II.小児がんの晩期障害と長期フォローアップの必要性
小児がん経験者は,腫瘍そのものによる影響や,手術,化学療法・放射線治療などの影響により,治療終了後も長期にわたり,晩期障害(late effect)と呼ばれる慢性健康障害を持つ症例が少なくない.表1に晩期障害の一部を示すが,心臓,腎臓,肺などの臓器障害,内分泌代謝,成長・発達障害,生殖機能,身体機能,認知機能,心理社会の問題など様々であり,これに加えて成人期に達すると就職・結婚,出産など様々なイベントに関連する問題が生じる.また身体的な問題だけではなく心理社会的な問題も大きいとされている.ただし,同じ腫瘍であっても腫瘍の部位,罹患年齢,治療方法などによって対応は同一ではない.また小児期は発育,発達の途上であるため,発育の遅延,発達の障害を伴うことがある.
Oeffingerは,晩期合併症を持つ患者は年齢が進むにつれて増加し治療後15年で約40%,25年を経過すると70%近くの患者に何らかの合併症が発生し,そのうち半数はGrade 3~5(要医療)の合併症であったと報告している1).筆者が小児外科外来でフォローしていた64症例に関しても,71.9%の患者が何らかの晩期合併症を有しており2),複数の晩期合併症を持つ患者も少なくなかった.
小児がんでは多くの場合,成人期には疾患そのものは治癒しており,その後の晩期合併症の予防やその早期発見のためのスクリーニングなどが重要になる.また,同じ疾患であっても治療内容によって異なる対応を行う必要があり,さらに加齢とともに健康問題は増加してゆくことが多い.そのため,小児がんの晩期合併症に精通した医療スタッフが長期にわたりフォローしてゆく必要がある.そのために小児がん拠点病院など,小児がんの診療を専門にする施設では,長期フォローアップ外来を開設し,長期フォローにおける諸問題に取り組んでいる.長期フォローは成人期を越え場合によっては一生涯続ける必要があり,成人医療への移行が重要となる.このような状況を受けて,小児がん拠点病院や連携病院などの小児がんを専門に治療する施設では,最近長期フォローアップ外来を設置して,成人期に達した小児がん経験者を専門医が診療する体制が整えられつつある.
小児がん研究グループ(JCCG)では,長期フォローアップ委員会が中心となってホームページでの啓蒙活動,長期フォローアップ手帳の作成,長期フォローアップガイドの作成などの活動を行っている.また,長期フォローアップに関する実態調査や様々な研究も行われており,2024年度には本邦の小児がん経験者の健康・社会生活状況,QOL,移行期医療の実態を解明するための大規模調査研究が開始されている.

III.移行(Transition)のパターン
移行には小児を専門とする医療者から成人を専門とする医療者への担当が変更され完全に転科する場合や,小児診療科にて継続して診療を継続する場合など,腫瘍の種類や治療を受けた医療機関により,表2のように種々のパターンが考えられる.白血病などの血液腫瘍は,対応する成人の血液腫瘍科が存在するため,小児科から引き継ぐことは比較的容易である.また,骨軟部腫瘍や脳腫瘍などは,治療開始時から整形外科や脳神経外科といった成人診療科が関わり,そのまま成人期に達しても同じ診療科でフォローアップの継続が可能である.これに対し,神経芽腫やWilms腫瘍のように,小児期にしか発症しない腫瘍に関しては,表2-2のように,小児診療科が成人期に達しても継続して診療することが少なくない.このようなケースで成人移行がうまく行われないと,主治医が定年を迎えた際にフォローが中断するなどの問題が生じる可能性がある.様々な晩期障害に対する認識がたかまり,成人期に達する患者の移行期医療の重要性が認識されている現在では,小児診療科の主治医が成人期まで継続してフォローする場合でも,表2-2のように,成人診療科とタイアップして共同でフォローアップを行うこと一般的になりつつある.
成人移行の状況は医療機関の種類にも左右される.大学病院など,施設内に成人科がある場合は,院内の紹介により簡単に成人科に診療してもらえることが多いが,小児専門の病院やがん専門の病院では必ずしもそれがかなわず転院という場合もありうる.また妊孕性に関係する問題の場合は生殖医療の専門科の診療が必要となるが,自施設に専門家がいない場合は他院に紹介する必要がある.

Ⅳ.小児がん経験者が成人診療科へ移行する際の問題点と対策
晩期障害のため長期にわたり治療を要する小児がん経験者が増加しつつあるにも関わらず,成人診療科への移行はスムーズに行われているとは言い難いのが現状である.小児診療科から成人診療科への移行を妨げる,さまざまな問題点を表3に示す.
まず初期治療を行う小児診療科の問題点としては,小児がんの晩期障害や移行期医療の専門的な知識を持つ医師や,十分な対応ができる施設が限られていることである.これに対し,日本小児血液・がん学会の長期フォローアップ委員会では小児がん経験者の長期フォローアップに関する研修会(LCAS)を年数回開催し,小児がん経験者を診療する医師だけではなく,看護師や他の医療スタッフへの教育・啓蒙活動を行っている.また小児がんを専門に診療する施設として,小児がん拠点病院や連携病院が指定されているが,この研修会の受講者がいることが選定されるための条件になっている.これらの小児がん専門施設では,長期フォローアップ外来を設置し,小児がん患者の晩期合併症のフォローアップや,成人診療科への移行支援を行っている.
移行を受け入れる成人診療科側の問題としては,成人診療医の知識・経験不足による,晩期合併症への理解不足が最も重要である.これにより,小児診療科医と成人診療科医師の連携がうまくいかず,せっかく成人診療科に移行しても成人癌に準じたフォローアップがなされ,フォローアップを打ち切られて結局元の小児診療科に戻ってしまう事例も多い.現時点では小児がんの晩期合併症に造詣の深い成人診療科の医師はそれほど多くないため,地域によっては小児がんの晩期合併症に詳しい主治医を見つけにくく,遠方の施設に紹介され治療が中断されるリスクがある.これらの諸問題に対しては,成人診療科医師の小児がんの晩期障害に対する知識・経験の蓄積や,啓蒙活動を行うことが重要である.小児がん治療後も様々なイベントが起こる可能性がある.小児科の医師や小児医療関係者だけで小児がんに罹患した患者を一生見ていくことは困難であることを理解し,小児がんの晩期障害をともに見ていただける成人診療科の医師を増やすことが,成人期の医療に移行するために必須である.
移行を妨げる要因のうち,患者側の問題として最も重要なことは,患者自身が長期フォローアップと成人移行の重要性を十分に理解していただけていないケースが多い.小児がん経験者の晩期合併症に対する理解が十分でないと,医療費や通院に要する時間の問題から,定期的な通院がおろそかになり,フォローアップが途絶えてしまいやすい.定期的に受診していただき,成人診療科へスムーズに移行していただくためには,まず,小児がん経験者に,長期フォローアップと成人医療への移行の重要性をしっかり理解していただき,長期にわたる,場合によっては一生涯にわたる健康管理が必要であることを,認識していただく必要がある.また小児期には様々な医療費の助成制度が適応されるため,受診しても医療費が実質上かからない場合が多いが,成人期になると医療費の助成がなくなり,3割負担になるケースが多い.さらに就職すると仕事を休んで通院することが困難になるなどの理由で,20歳を過ぎるころから受診が途絶えてしまう症例が増加しているのが現状である.
小児がん患者に長期フォローの重要性を理解していただくために,最近では退院時に治療サマリーや長期フォローアップ手帳を渡して定期的な受診を促し,患者の成長に合わせて自身の病気や受けた治療,晩期障害に関して,年齢に応じた十分な説明を行うことが推奨されている.
小児がん経験者とその家族は,幼少期から疾患を有することで保護者の過保護や家族機能不全が生じやすく,保護者がいつまでも健康管理の主体になりがちといわれている.親離れ,子離れができない,社会はうちの子に厳しすぎる,うちの子は親がいないと心配,と思っている親が多い.このため,患者が自己管理の自信がもてない,良好な人間関係が築けないなどの問題を生じやすい.また,就労上の問題(仕事能力の問題,仕事効率の低下,就労持続の問題,受診の問題)のために,経済的にも自立できないケースもある.従って長期フォローアップ外来ではソーシャルワーカーなどと共同して,健康保険や社会保険の問題の解決や,就労支援などにも取り組む必要がある.
スムーズに成人医療に移行するためには,健康管理の主体を保護者から患者自身のものとし,成人の患者と同じように自身でセルフケアや意思決定ができるようにサポートし,年齢相応のヘルスリテラシー(自分で健康管理ができる能力)を獲得するように支援することが重要である.

V.生殖の問題
生殖の問題は,小児期・若年成人のがん患者独特の問題であり,また成人医療への移行期に問題が顕在化することが多いため,移行期医療を考えるうえで重要な問題である4)
5).小児がんでは生殖器への放射線照射やアルキル化剤(特にサイクロフォスファマイドやブスルファンなど)の大量の使用によっては,生殖機能の低下が起こりうるため,できれば治療開始前からの介入が必要であるが,生殖機能のことがまだよく解明されていなかった時期に治療を受けた経験者では既に生殖機能が低下していることがあり生殖医療専門医の受診と共に,妊孕性の低下・廃絶に対する精神面の支援なども必要となる.
近年では治療前に精子や卵子,あるいは卵巣などを凍結温存し、治療終了後必要時に解凍し,使用する方法も行われてきている.治療が生殖機能に及ぼす影響について女児の場合は産婦人科の専門医,男子の場合は泌尿器科の専門医とできれば治療開始時期から情報を共有する必要がある.
Ⅵ.おわりに
小児がんの治療後も長期にわたり,晩期合併症(late effect)と呼ばれる慢性健康障害が発生し,その割合は加齢とともに増加する.小児がんの治療成績向上とともに,成人期に達する小児がん患者が増加し,成人医療への移行の重要性が認識されるようになってきたが,成人医療への移行に関してはスムーズに行われているとは言い難いのが現状である.今後は長期フォローアップの諸問題について,患者・医療者の双方に正しい情報を発信するとともに,小児がんの晩期障害に関する理解を促す成人診療科への啓蒙活動や,成人診療科への移行システム構築が重要となる.
利益相反:なし
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