日外会誌. 126(4): 354-358, 2025
特集
移行期医療を考える.現場からの提言
6.食道閉鎖症の移行期医療
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神奈川県立こども医療センター 外科 望月 響子 |
キーワード
食道閉鎖症, 移行期医療, 合併症, 長期予後, 新生児外科疾患
I.はじめに
食道閉鎖症は胎生5~7週の食道と気管との分離過程の異常によって生じ,その頻度は2,500~3,500出生に1例とされる1).気管食道瘻の有無と上部下部食道の間の距離が臨床所見として重要になる.多くの気管食道瘻は下部食道と気管がつながっている状態であり,その場合呼吸で吸い込んだ空気が消化管内に入り込むことによる消化管穿孔のリスクや胃液の気管内への逆流による化学性肺炎のリスクがあるが,下部食道が少なくとも気管分岐部までは存在していることから上部下部食道の距離が短いことが多いというメリットがある.逆に気管食道瘻がない場合は消化管穿孔や化学性肺炎のリスクはないが,下部食道は横隔膜から縦隔へ顔を出すか出さないか,という短いものが多く,上部下部食道間の距離が長くなる.また,食道閉鎖症発生同時期に種々の器官が形成されるため,食道閉鎖症の合併奇形併存率(心奇形,消化管奇形,腎奇形,椎体・四肢の奇形など)は約50%と高く臨床所見に影響を及ぼす1)
2).世界的には1941年に,本邦では1961年に食道閉鎖症手術の最初の成功例が報告され,以降は食道閉鎖症の生存率が小児外科医療レベルのバロメーターと考えられていたが,近年は新生児医療の進歩により,重篤な心・大血管奇形や染色体異常を伴う症例を除いた多く患児が生存可能となった1)
~
3).そして,患者ケアの焦点が食道再建後の機能や生活の質,短期合併症のみならず成人期に及ぶ長期合併症や長期予後にうつってきた1)
2)
4).
II.食道再建法
1.一期的食道再建
上部食道と下部食道を端端吻合する食道再建を一期的に行うことが一般的であり理想である.一期的食道再建は上部食道と下部食道の距離が短い症例に限定されるが,多くの食道閉鎖症で可能である.食道再建のアプローチは,開胸(胸膜外アプローチ含)や胸腔鏡で行われる.開胸は従来後側方切開で行われていたが,近年は腋窩切開や中腋窩線縦切開で広背筋や大胸筋は温存されている.術後は吻合部の安静を保った後,縫合不全の有無を確認して経管栄養や経口栄養を行っていく.気管食道瘻がある場合は気管食道瘻の閉鎖を急ぐ必要があるため,出生同日や翌日など出生後早期に食道再建を行うことになり,術後の経過が良ければ生後1,2週間で経口摂取が可能となる.
2.多期的食道再建
一部の食道閉鎖症では上部下部食道の距離が長く届かないために多岐的食道再建を行う.食道同士の吻合による食道再建が生理的であるため,食道を様々な方法で延長して再建に向かう.無事延長ができ食道再建にいたるまでの期間は延長方法や上部下部食道間の距離,患児の体格や併存疾患によっても異なり,早ければ生後1カ月前後で可能だが,長くなると1歳を過ぎる.また,食道が十分に延長されずに胃,小腸,大腸を用いた代用食道による食道再建を選択せざるを得ない場合もある.多岐的食道再建では栄養ルートとして早期に胃瘻を併置するが,食道再建までの期間が長くなると口腔過敏や摂食障害などを呈し経口摂取が進まず,胃瘻腸瘻などの経管栄養が長期的に離脱できない症例もある.
III.合併症と長期予後
今回は移行期医療がテーマであるため,周術期・短期合併症は割愛し,成人期に影響を及ぼす可能性がある合併症と予後に絞って述べる.注意すべき合併症として,食道吻合部狭窄,胃食道逆流症,気管軟化症,気管食道瘻再開通,嚥下摂食障害,骨格変形,発育・発達障害などがあげられる.
1.食道吻合部狭窄
もっとも頻度の高い合併症の一つで18~60%に発生すると報告されている2)
4).多くは吻合部の線維化の程度が軽い一過性の狭窄で乳幼児期に拡張術を1,2回施行すれば改善するが,縫合不全後や胃食道逆流症に伴う食道炎による瘢痕性狭窄では拡張に難渋し,狭窄部切除再吻合を要することもある.食道吻合部狭窄があると食事が詰まって唾液も飲み込めずに救急外来で食物塊を摘出しなければならないこともある.また,食事中に嘔吐を繰り返す,飲み込むことを嫌がる,食事に時間がかかる,などの症状が出る.食事がなんとか進んでも,吻合部口側の食道が拡張することで気管膜様部が圧排され気管軟化症状が強くでることもあり,狭窄を疑う所見があれば適宜拡張を行っていく.
2.胃食道逆流症
吻合部狭窄同様,頻度の高い合併症で全体の約1/3の症例にみられるが,多くは内科的に治療され,噴門形成術などの外科的治療を要するものは12~30%と報告されている3).頻回嘔吐による体重増加不良や逆流による呼吸障害,吻合部狭窄悪化をきたす場合などが手術適応となる.食道間の距離が長いほど短食道で腹部食道が確保できないために合併しやすく,再発・再手術も多い.
3.気管軟化症
先天的に合併している症例もあり,食道拡張による圧排で後天的に認められるものもある.呼吸障害が強く抜管困難な症状を呈する場合は気管切開を要し,抜管はできても呼吸器サポートが必要な場合や呼吸負荷を軽減するため運動制限を要することもある.気管切開を回避するための外科的対応は人工物を用いる外ステントや用いない大動脈胸骨固定術,気管後方固定術などの手術であり5),有効性は確認されている.
4.気管食道瘻再開通
哺乳や食事時のぜろつきなどで発見される.頻度は1.9~11%といわれ発見時期は初回根治術後2~3カ月が多いが,再開通治療後の気管食道瘻再々開通の頻度は12~22%と高く,難治な場合もある6).
5.嚥下摂食障害
嚥下障害の原因には,炎症,構造,運動機能の大きく三つにわけられる.炎症としては,カンジダなどの感染性食道炎,消化性食道炎,Barrett食道,好酸球性食道炎,食道がんなどが具体的にあげられる.構造上の問題としては,吻合部狭窄,先天性狭窄,消化性狭窄,噴門形成術後の通過障害,血管奇形,吻合部憩室,粘膜ブリッジ,異所性胃粘膜などがある.食道の運動障害は部分的な神経切除など手術操作や術後の局所的な炎症も原因として考えられるが,手術前の食道閉鎖症(併存疾患なし)における高解像度マノメトリーで重度の運動障害を認めたとの報告が最近出され,手術的介入による二次的なものでなく先天的なものである可能性が示されている2)
7).食道閉鎖症の手術後の乳幼児,小児,および思春期の嚥下障害の発生率は21~84%に及ぶとされ,術後5年時に45%,5~10年時に39%,10年以上で48%が嚥下障害を有していたとの報告がある2).食事のペースを落とす,食事中に大量の液体を飲む,など独自の食べ方を習得して適応していく2)
7).
6.骨格変形・創部瘢痕
側彎や胸郭変形,肩挙上,大きな創部瘢痕などである1)
4).
7.発達発育障害
精神障害の診断やリスクが9.6%,神経学的後遺症が11.7%に認められており,低体重が13.3%,低身長が6%に認められたとの報告がある1).
8.代用食道における合併症や長期予後
代用食道には胃,小腸,大腸が用いられるが,代用食道臓器の選択は,手術の容易さ(胃),慢性的な伸長の可能性が少ない(空腸),胃酸に対する耐性(大腸)などの要因を考慮しつつ検討される2).全胃吊り上げ食道再建術は吻合が少なく低年齢でも可能であることから選択されることが多い術式である8).代用食道の晩期合併症として,粘膜障害や通過障害,拡張,吻合部潰瘍などがみられ3),全胃吊り上げの長期予後においては吻合部狭窄34%,慢性呼吸障害28%,ダンピング症候群25%,貧血47%,鬱19%との報告がある8).
IV.成人期に注目すべき症状・関連する病態・要する医療
成人期に至る長期的な合併症として胃食道逆流症,消化性食道炎,上皮化生,Barrett食道,吻合部狭窄,嚥下摂食障害,食道運動障害がある7).前項で述べたように,食道閉鎖症ではこれらの消化管の病態だけでなく呼吸,栄養,精神面など様々なフォローポイントがあり,それぞれが生活の質に影響を及ぼす可能性がある.食道閉鎖症根治術後平均27年が経過した800例以上を対象とした最近のメタアナリシス解析では,消化管の病態としては胃食道逆流症が42.4%,嚥下障害57.8%,上皮化生12.4%,その他に呼吸症状33%,神経症状11.7%,低体重が19.6%認められている9).
1.嚥下摂食障害(食道吻合部狭窄・食道運動機能障害)
成人にいたるといわゆる食道吻合部狭窄を呈するのは4.8%程度に減少1)
7)し食物を詰まらせることはなくなるが,嚥下障害は27.6%1)に認め,39~85%で食道つかえ感を認めるという報告もある4)
7).また,食道閉鎖症では食道運動機能障害をほとんどの症例で認める7).上述のように食事時間が長く,決められた昼食時間に食べきれないなど社会生活に支障をきたす場合もあるが,これまでの経験を基に患者個々の生活,経験のなかで無意識に工夫して対応している場合が多く,生活の質低下と実感していない患者も多い7).
2.胃食道逆流症・食道炎・食道がん
胃食道逆流症は42.4~48%に,食道炎は12.4%に,Barrett食道は5~43%に認められるとの報告がある1)
9).胃食道逆流所見を呈する場合,食道がんの発生リスクが一般よりも50倍高いとの報告もあり注意を要する4).2023年の報告で食道閉鎖症術後の食道がんは世界的に14例(4例が腺がん,10例が扁平上皮がん)で,食道がん診断時の年齢中央値は44(19~47)歳であり,Barrett食道が背景にあるのは3例であった7).扁平上皮がんの病因として上部食道ポーチの食道内容物の持続的停滞による慢性炎症の可能性が指摘されている2).そこで,近年ではたとえBarrett食道の合併がなくても成人における食道閉鎖症の内視鏡サーベイランスが推奨されており2)
4),具体的なプロトコールとして,18歳から28歳までは5年毎,28歳から40歳までは3年毎,40歳から50歳までは2年毎,以降は年一回の施行が提案されている7).また,本邦で重症心身障害児における食道がん発生が報告され,移行期医療における今後の課題の一つになるものと思われる3).
3.呼吸(気管軟化症・気管食道瘻再開通・食道運動機能障害・胃食道逆流症)
気管軟化症や喉頭気管食道裂,喘息に加え,食道運動機能障害,気管食道瘻再開通,胃食道逆流症による誤嚥によって呼吸状態が悪化する成人例がいる4)
7).呼吸症状としては,長引く咳が8.7%,反復性感染4.3%,慢性呼吸障害5.5%との報告がある1).気管軟化症は成長とともに改善する可能性が高いといわれているが,気管切開離脱時期の詳細はわかっていない.また,成人期の呼吸機能検査で末梢気道障害を含む呼吸機能障害を呈する頻度が高いという報告があり,無症状の患者においても長期的なフォローの必要性が提言されている4)
7).疑わしい病態がある場合に行う具体的な検査としては気管支鏡や上部消化管内視鏡検査,上部消化管造影検査,pHインピーダンスモニタリング,嚥下評価,CT検査,呼吸機能検査,などがあげられる7)が,定期的なフォロー検査の頻度としては明確な提唱はなされていない.
4.骨格変形・創部瘢痕
近年は筋肉温存小切開開胸手術や胸腔鏡手術が施行されており,胸郭変形,側彎,肩挙上などの骨格変形や大きな創部瘢痕は減少することが予想される.しかし,小さな創であっても新生児期・乳児期に胸部手術をすることによる側彎の経験は一定数認められるため,整形外科的なフォローも必要である.
5.発育・発達
経済的自立,社会的自立を目指す.明らかな発達障害がなくても,食事のつかえ感から食事に時間がかかることで就労維持に苦労する場合もある.また,多動などの精神障害も認められる.染色体異常や合併奇形による発育・発達障害を認める場合もあり,嚥下摂食障害による経管栄養や気管軟化に対する気管切開,呼吸器サポートなど在宅医療を要する場合もある.成人期以降も精神的なケア,サポートは必要である7).
V.食道閉鎖症におけるトランジションの問題
思春期および成人期の移行期医療における食道閉鎖症患者のケアに対する体系的なアプローチはまだ不十分であり9),そのため,2013年に国際食道閉鎖症ネットワーク(International Network on Oesophageal Atresia; INoEA)が設立され,エビデンスに基づいたガイドラインが2023年に発表された7).日本小児外科学会でも移行期の課題に取り組む目的でトランジション検討委員会を立ち上げ移行支援ガイドブックを作成,食道閉鎖症にも言及している10).今後は成人期の包括的な医療ケアが受けられるプログラム,プロトコールの実践とその効果検証を行っていかねばならない.
また,食道閉鎖症に限ったことではないが小児外科疾患におけるトランジションの問題点として,疾患の特性から成人期に達しても小児外科での診療を希望する傾向があり,成人医療側も疾患によっては引き受けに消極的な実態が報告されている1).移行期医療を要する疾患では患児本人に対し,自身の疾患の概要,今後起こりうること,受けるべき医療などについての説明を行い,少なくとも小学校高学年生から中学生の時期には将来の心構えを養う必要がある.そして,外科医だけでなく,消化器内科医,呼吸器内科医,心療内科医やソーシャルワーカーなど様々な専門家で構成されたチームで移行期医療を提供すべきである5).
VI.おわりに
食道閉鎖症におけるトランジションでは,学童期までを工夫して乗り越え,食事や呼吸の不自由がない日常生活であっても,定期的な内視鏡検査の必要性を医療者だけでなく患者自身にも十分に理解してもらう必要がある.また食道閉鎖症によって生活の質が下がることがないように各方面のサポート体制を充実させるとともに,受けられるサポートがあることをアナウンスしていく必要がある.この誌面を通じて,成人外科の先生方にも食道閉鎖症の病態と成人期に必要なケアをご理解いただければ幸いである.
利益相反:なし
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