日外会誌. 126(4): 340-346, 2025
特集
移行期医療を考える.現場からの提言
4.小児炎症性腸疾患におけるトランジションの現状
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三重大学医学部附属病院 消化管・小児外科 小池 勇樹 , 東 浩輝 , 佐藤 友紀 , 長野 由佳 , 松下 航平 , 大北 喜基 , 問山 裕二 |
キーワード
小児炎症性腸疾患, 移行期医療, 潰瘍性大腸炎, クローン病
I.はじめに
日本小児科学会は2014年に「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」を発表し,国内の医師に「移行期医療」という概念とその進むべき方向性を示した1).同学会は,2023年には健康や福祉も含む「成人移行支援」の概念を提示している2).これ以降,移行期医療の重要性が注目されるようになり,小児病院や大学病院の小児科を中心に移行期医療が実施されるようになってきている.また,2021年には,「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」が閣議決定され,「小児期から成人期にかけて必要な医療を切れ目なく行うことができる移行期医療の支援」および「小児慢性特定疾患を抱える児童等の健全な育成に係る施策」を総合的に推進する方針が示された.行政においても対応が進んでおり,一部の都道府県では移行期医療支援センターが開設されてきている.小児IBD患者の移行期医療に関しては,日本小児栄養肝臓消化器学会のホームページから「成人移行期小児炎症性腸疾患患者の自立支援のための手引書」3)がダウンロード可能であり,また難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班が作成した「小児期発症炎症性腸疾患患者の移行支援(トランジション)に関するコンセンサスステートメント」4),難病研究班が毎年改定を行っている「潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療方針」における「消化器内科へ紹介する際の診療情報とチェックリスト」5)のページなどのツールが有用である.日常臨床における小児IBD患者の移行期支援を実践する際は,これらを有効に活用されたい.
II.小児中心のケアから患者(成人)中心のケアへの移行
Van Rheenenらは,小児IBD患児のトランジションに関して,父権的で家族が中心となる子供中心のケアから,自立性や患者自身が中心となるケアへと移行するプロセスを示す概念図を報告した(図1)6).これによると,小児期のケアでは患者における成長や発達が重視される一方,成人期に入ると消化器癌のサーベイランスや妊孕性といった点が重要になってくるという変化がみられる.そのため,このトランジションの過程においては,患者自身にIBDの関連知識を段階的に教育し,服薬や食事などの自己管理能力を身につけさせることが重要である.また,保護者の関与を徐々に減らしていくことで,患者の自立性を促すことも大切である.成人の診療と比べると,小児科や小児外科における診療では,患者と家族との繋がりが強く,過保護や過干渉になりやすいため,自立の妨げになることがある.このため,小児診療科から成人診療科へ転科する際には,転科までに患者が自立できていることが理想的である.しかし,転科後もうまく適応できない患者は,再び小児科や小児外科に逆戻り受診をしたり,ドロップアウトして症状が悪化したりする場合もある.「成人移行期小児炎症性腸疾患患者の自立支援のための手引書」3)には,患者の年齢や発達に応じた移行プログラムの目標達成状況を確認できるチェックリストなどもあるため有用である.

III.小児期発症炎症性腸疾患患者の移行支援に関するコンセンサスステートメント
厚労科研の難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班は,2022年に「小児期発症炎症性腸疾患患者の移行支援(トランジション)に関するコンセンサスステートメント」を報告した4).このステートメントは,小児科から成人診療科への移行を円滑に進めるための指針であり,患者とその家族,医療従事者にとって重要な情報が含まれている.ステートメントとしては全14の項目で構成されており,転科・転院に関するステートメントが五つ,移行医療への取り組みに関するステートメントが九つとなっている(表1).
1)小児診療科から成人診療科への転科・転院
成人診療科への転科は,患者にとって医療の質を維持し,将来の健康を確保するために重要なプロセスであり,以下の点が不可欠である.
・移行によって患者の治療が中断されたり,質が低下したりしないよう,十分な準備と計画が必要であり,適切な移行のタイミングを見極めることが重要である.
・患者の暦年齢だけでなく,心理的,社会的な成熟度を考慮し,疾患活動性が安定し,心理状態が落ち着いている時期を選ぶべきである.
・移行医療(トランジションプログラム)は,患者が成人診療科へスムーズに移行するための重要なステップであり,十分に時間をかけて準備と評価を行い,患者が新しい医療環境に適応しやすくなるようなサポートが必要である.
・適切な診療情報提供は,成人診療科医が患者の病歴や治療状況を正確に把握するために不可欠であり,小児診療科医は詳細で分かりやすい診療情報提供書を作成すべきである.しかし,時に小児診療科医側の情熱が強すぎて,その患児のこれまでの伝記小説のような超大作を作ってしまい,逆に成人診療科医が困惑することがある.そのため,適切な分量の診療情報提供書を作成することがポイントとなる.難病研究班が毎年改定している「潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針」の中にある「消化器内科へ紹介する際の診療情報とチェックリスト」というページがある.引き継ぎの際に盛り込むべき必要十分な診療情報提供書を作成する時に有用なツールとなる.当科では,このチェックリストを含めた診療情報提供書を作成するよう心がけている.
・移行期間中には,小児診療科と成人診療科が連携して診療を行うオーバーラップ期間を設けることで,患者は安心して移行プロセスを進めやすくなる.
2)移行医療への取り組み
ステートメントでは,移行医療への取り組みをできるだけ早く始めることの重要性が強調されている.われわれの施設では,少なくとも中学生になってからは,移行支援を開始するよう心がけている.将来的には自立して内服薬の投与や管理なども自分で行っていくことや成人診療科への移行について,患児と保護者に外来診療時に繰り返し伝えつつ,患児にプレッシャーを与えないよう配慮している.また,多職種連携の重要性も指摘されており,医師,看護師,心理師,医療ソーシャルワーカーなどが連携してチームを編成し,移行外来を設置することが推奨されている.多職種が連携して,患者を多面的なアプローチでサポートすることで,身体的な問題だけでなく,心理的なサポートや生活面での支援も行うことが可能となる.
3)移行支援に役立つツール
移行支援を円滑に進めるために,様々なツールが活用できる.以下に移行支援に有用なものを紹介する.
患者・保護者向け冊子:日本小児IBD研究会が作成した「潰瘍性大腸炎の君へ」「クローン病の君へ」などの冊子は,患児自身が疾患に関する知識を深めるのに役立つ.
「妊娠を迎える炎症性腸疾患患者さんへ:知っておきたい基礎知識Q&A」7):この冊子には,炎症性腸疾患患者に向けて,将来の妊娠・出産に関する情報が提供されている.小児診療期においては,妊娠・出産などの話はしにくい側面もあるが,冊子を渡しておき,成人診療科へのトランジション前に知識を得てもらうことは有用と思われる.
「成人移行期小児炎症性腸疾患患者の自立支援のための手引書」3):移行スケジュールやヘルスリテラシーチェックリスト,病歴サマリーなどが含まれている.また,多職種が連携するためのクリニカルパスも有用である.
これらの情報が,小児期発症IBD患児の移行支援に役立つことを願ってやまない.

IV.外科的治療後の小児期発症潰瘍性大腸炎患児における移行期医療の現状と問題点
近年,小児期発症IBD患児における治療では,生物学的製剤を用いたAdvanced therapyが日常診療においても行われるようになってきており,外科的治療を要する症例は減りつつあるように思われる.しかし,最新の報告では,生物学的製剤を早期投与することで,クローン病に対する手術率の減少傾向がみられるものの,潰瘍性大腸炎(UC)においては,大腸切除のリスク低下とは関連がみられなかった8).また,外科的治療が施行された小児期発症IBD患児のトランジションに関する報告はほとんどみられない.そこで,当科で治療歴のある小児期発症IBD患児におけるトランジションについて検討を行った.
まず,小児期発症クローン病の患児については,そのほとんどが県外の医療機関からの紹介であり,手術後は紹介元の病院でフォローアップされていたケースが多いため,トランジションに関しての情報が不足していた.そのため,今回は小児期発症UC患児についてのみ後方視的に検討した.図2は,当科で治療歴のある小児期発症UC患児におけるトランジションの有無についてのフローチャートである.UC内科治療群においては,トランジションに至っていたのは61.1%(図2C)であったのに対し,UC外科治療群においては, 53.3%(図2A)と低めであった.またこの二つの群において,それぞれのトランジションされた年齢につきプロットしたグラフを図3に示す.UC内科治療群におけるトランジション年齢の中央値は19歳(18.0-20.0)であったのに対し,UC外科治療群においてはトランジション年齢の中央値が21.5歳(19.3-25)と有意(P=0.012)に高くなっており,外科的治療が施行されたUC患児においては,トランジション率が低いだけでなく,そのトランジション年齢も高めとなっている現状が明らかとなった.
次にトランジションが未施行である群(図2B,D)につき検討を行った.小児期発症潰瘍性大腸炎患児における治療別トランジション未施行理由についてまとめたものを表2に示す.UC内科治療群ではトランジション未施行の理由は,未成年(18歳ないし20歳以降でのトランジション希望)や,大学進学や転居のタイミングまでトランジションを待って欲しいという理由であり,特にトランジションにおけるハードルは感じられなかった.その一方で,UC外科治療群においては,術後にみられる回腸嚢炎(特に慢性回腸嚢炎)の発症や腸閉塞などの術後合併症のために,成人年齢を越えても,引き続き小児外科でのフォローアップを希望したり,一度成人消化器内科や消化器外科へのトランジションを行ったにもかかわらず,再び小児外科でのフォローアップに出戻りしていたりという症例が多くみられた.



V.おわりに
移行支援の最終的な目標は,患児自身が自立して,ヘルスリテラシーを獲得してもらうことである.医療者は適切な移行プログラムを適切なタイミングで提供し,スムーズなトランジションを支援することで,成人診療科への転科後も高いコンプライアンスと低い有害事象が期待できる6).一方,外科的治療を受けた小児期発症IBD患児のトランジションに関しては,今後,新たな対策や取り組みが必要になってくると考えられる.
利益相反:なし
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