日外会誌. 126(4): 334-339, 2025
特集
移行期医療を考える.現場からの提言
3.腸管不全の移行期医療の現況と課題
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日本赤十字社医療センター 小児外科 尾花 和子 |
キーワード
腸管不全, 短腸症候群, Hirschsprung病類縁疾患, 移行期医療
I.はじめに
腸管不全とは,小腸機能が障害を受け腸管からの栄養吸収が不十分となった病態である.原因としては外科手術や先天性要因による短腸症候群(short bowel syndrome:SBS)と,器質的閉塞がないにもかかわらず,腸管の運動機能障害によるイレウス症状を来すHirschsprung病類縁疾患がある1)
~
4).短腸症候群,Hirschsprung病類縁疾患ともに乳幼児期に発症することも多くみられるが,栄養や水分吸収が不十分なため,長期にわたる中心静脈栄養および排泄管理を要することが多い.
小児期発症の腸管不全のトランジションの現況と課題について提示する.
II.病態
短腸症候群は,小腸の大量切除,あるいは先天性要因により腸管が短く,栄養や水分の吸収が不十分なため,下痢,脱水,栄養障害などを来す.成人ではクローン病や上腸間膜動脈血栓症によるものが多いが,小児期発症の原疾患としては,壊死性腸炎,中腸軸捻転,小腸閉鎖症,広範囲型Hirschsprung病などが知られている.一般的には,成人では残存小腸が150cm以下,小児では40cm以下または全小腸の20%以下を短腸症候群と称することが多い.多くの患者は体重減少や成長障害のため,長期の静脈栄養を要する5).
器質的な腸管の閉塞がないにもかかわらず腸管運動不全による腸閉塞症状をきたすHirschsprung病類縁疾患は,腸管神経節細胞僅少症(Hypoganglionosis), 巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症(MMIHS) ,慢性特発性偽性腸閉塞症候群(CIIP)などの病型があり,腹部膨満,嘔気・嘔吐,腹痛,反復性腸炎を来す難治性疾患で,胃瘻,腸瘻,人工肛門などによる消化管減圧・排泄管理とともに,栄養や水分補充のための中心静脈栄養に依存することが多い6).
これらの腸管不全を呈する症例は,初期診断や外科治療の方針決定に難渋したり,病状固定後も,体重増加不良や腸管不全関連肝障害(Intestinal Failure Associated Liver Disease:IFALD)を呈したり,種々のビタミン・微量栄養素の過不足の評価,カテーテル由来血流感染(catheter related blood stream infection:CRBSI)や血管閉塞などの合併症の管理など,長期にわたり細やかな診療を要する病態である.
III.腸管不全の経過および治療
短腸症候群の経過は,腸管大量切除術の周術期管理を越えた後は,腸管麻痺から腸蠕動亢進を来す術直後期,腸管吸収能が改善してくる回復適応期,経腸栄養や経口摂取を行いつつ静脈栄養の継続/離脱を目指す安定期に分けられ,近年ではこれらの過程を多職種により段階的・集学的に行う腸管リハビリテーションが推奨されている7)
8)(図1).栄養療法として術直後期より中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)を要するが,その後経腸栄養が開始できるようになると,在宅静脈栄養法(Home Parenteral Nutrition:HPN)を導入し,安定期を維持する.吸収面積の拡大を目的とした腸管延長術や,腸管粘膜の表面積増加の効果があるGLP-2アナログ製剤の自己注射なども取り入れられているが,TPNからの離脱が困難な場合も多い.血管の閉塞やIFALDなどでPNの継続が困難な場合には,小腸または多臓器移植手術の対象となるが,移植手術の実施や術後管理は厳しい状況にある8).
Hirschsprung病類縁疾患の治療については,消化管減圧のためのストーマ造設以外の手術は推奨やエビデンスが乏しい現状にある6).ストーマ造設においても,造設部位や至適小腸長の設定,遠位側腸管を利用したBishop-Koop型,Santulli型などの腸瘻造設など9)
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11),病型や施設により方針が異なり,個々に効果的とされる方法を選択していくことになるが,診療にあたる担当医や医療機関が変わった場合には,術式の把握や管理法に戸惑うこともある.TPNやHPNの導入や維持については短腸症候群同様であるが,HypoganglionosisやMMIHSの生命予後は不良であり,CIIPにおいても,生命予後は他疾患よりは良好だが,QOLは著しく損なわれており,機能的予後は不良である6).

IV.腸管不全の長期管理とトランジション
小児期発症疾患を有する患者の成人医療への移り変わりについて,2014年に日本小児科学会から小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言が発表され,これをもとに各分科会を中心に移行期支援が検討されている12).腸管不全についても,トランジションとは単に成人診療科へ転科することではなく,発達的,医療的,社会的に適切な診療や支援を継続し,成人期においても個人の状況に相応しい診療を確保することが望まれる.すべての病期において重要課題となる栄養管理については,静脈栄養(Parenteral Nutrition : PN)のルート温存を目指すとともに,合併症の発症を予防し,適度な経腸栄養(Enteral Nutrition : EN)を行い,電解質・微量栄養素投与も継続する.また,消化管減圧や排泄管理,水分バランスの設定も必要である.さらに,年齢を重ねると,成長・発達への影響や,社会生活での問題が出てくる(表1)13)
14).
年齢により管理の主体や方法は異なっていく14)
15).乳幼児期は保護者による疾患の理解と受容が肝要になる.安定したPN管理を行うための手技や,適正な経腸栄養管理,排泄管理を継続していく体制をつくり,HPNへの移行を目指して,診断や治療方針を決定する担当医だけでなく,訪問医療,訪問看護,院外薬局などとの連携をつくっていく.患児本人が自身が病気であることが自覚できる就学前や学童期になると,病態や治療の必要性を平易な言葉で説明し,通院や処置を習慣化するとともに,患児ができる手技から少しずつ一緒に覚えていくように心がける.可能であれば集団生活にも積極的に参加し,保育園/幼稚園/学校生活を安全に行うために,地域の保健師や教育委員会などにも協力を要請する.近年,医療的ケア児支援法が制定されたため,行政と連携してその制度を利用することも一案である.思春期以降は,夜間のHPNを有効に行うことにより就学・就労の可能性は広がるが,極度に身体に負荷のかかる労働や,夏期の長時間の屋外での作業,拘束時間が長時間に亘る作業は難しい場合がある.水分,電解質,栄養素の補充,頻回の排泄が比較的自由にできるような状況や適切な室温での環境の確保が望ましい.
このように年齢により自己管理を拡大していき,安定した病状を保ちつつ,PNの減量や離脱を目指すことが理想であるが,腸管不全はもともと希少である上に,症状や病型の幅も広く,施設による治療法も様々なため,トランジションに際しての問題点も症例ごとに異なる.診療担当を家庭医や訪問診療医に依頼する場合もあるが,PNのルート確保や,急に発症するCRBSIでは入院加療を要するため,受け皿を明確にした救急対応可能なチーム医療が望ましい.しかし実際には,成人診療科で日常診療と救急の双方に対応できるシステム作りは難しく,自身のPN管理が自立していても,成人診療科への転科が困難で,多くの患者は小児期の担当医が引き続き診療している現状がある.さらに,妊娠,出産,遺伝カウンセリングを含む生殖医療でも支援が必要な場合もあり,情報の収集と対応を要する.

V.トランジションについての日本小児外科学会の取り組み
小児外科のトランジションに関する最大の問題点は,成人になった症例をどの診療科がみていくかということである.小児期に発症し成人期にも認められる疾患や,成人期には症状や管理の方法が固定している疾患の中には,適切な成人診療科での受け皿があり,スムーズな移行が可能なものもあるが,腸管不全は前項で述べたように成人になっても小児外科医が継続診療している場合もある.また,小児期から関わっていると,医療側と患児や家族が強い信頼関係で結びついてしまい,離れがたくなってしまうという側面もある.一方で,主治医の退職や異動による担当変更や,ライフイベントによる患者本人の転居や通院困難などがあったり,小児病院などで入院ベッドの受入れがない場合もあり,小児外科診療の継続も簡単ではない.
日本小児外科学会では,成人期医療へ移行する疾患について調査・検討を行い,日本小児科学会や成人疾患を担当する日本外科学会などの他学会,公的医療システムや民間支援との連携も視野に入れ,移行期の課題に取り組む足がかりを造るため,2013年にトランジション検討委員会を立ち上げた.委員会では,移行期医療の対象となる疾患について,病態,治療戦略,合併症および後遺症,社会支援,移行期,成人期の問題点などが明らかになるようにガイドブックを作成した(図2)16)
17).さらに,患者サマリーを作成し,成人患者受診の実態調査などを行い,学会として,移行支援に取り組もうとしている.

VI.今後の課題
継続的な医療を必要とする腸管不全においては,社会体制上の課題もあげられる.短腸症候群に対する小児期の社会支援としては,経腸栄養,経静脈栄養の必要性があれば,18歳(継続の場合は20歳)まで小児慢性特定疾患事業として一定額以上の医療費に対して補助があり,また,残存小腸の長さや経静脈栄養の依存度により,小腸機能障害の1級,3・4級の障害認定を受けることができる16).しかし,20歳以降の医療費補償や,任意の生命保険の加入可否の問題なども発生してくる.Hirschsprung病類縁疾患に関しては,3病型は小児慢性特定疾患,指定難病となっており,一定額以上の医療費に対して補助がある.また,静脈栄養や経腸栄養の依存度により小腸機能障害の1級,3・4級の障害認定を取得できる場合もある16).
公的な取り組みとして,都道府県毎に難病診療連携拠点病院を設置したり,難病相談支援センターや地域協議会の活用,シームレスな医療提供体制の構築など,支援に必要な体制づくりの検討が始まっている18)
~
20).腸管不全の患者についても,今後移行期医療に対する支援が加速していくことが期待される.
VII.おわりに
腸管不全のトランジションの現況を提示した.疾患の特異性や地域・施設間の相違などから,一律な移行の形が整うにはまだたくさんの課題が考えられるが,日常診療の継続とともに,緊急時の対応や新たな成人期の医療も受けることができる体制が理想である.患者・医療者双方が移行期医療について十分な理解をもって診療を継続できる体制造りを期待したい.
利益相反:なし
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