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日外会誌. 126(4): 320-322, 2025

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先達に聞く

外科における移行期医療

日本外科学会名誉会員,九州大学名誉教授,福岡医療短期大学学長 

田口 智章



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I.希少難治性慢性消化器疾患の移行支援の必要性と厚労科研政策研究班
新生児をはじめとした小児消化器外科疾患の生存率は飛躍的に向上したため,長期生存例が増加してきた.したがって小児期に手術をうけた患児の大部分が成人に達し天寿を全うする時代になっている.その患児のうち問題なく成長し成人に達するものが多くを占めている.しかし一部の患児は術後も排便排尿障害や肝機能障害や腎障害や運動障害などが継続し長期的な治療が必要なものもある.また思春期成人期に達すると性や生殖の問題,発癌や成人病の問題も生じてくる.
これらの小児難治性慢性消化器疾患は小児期は小児慢性特定疾病(小慢)に指定され,またその一部は指定難病に認定され,成人に移行しても継続的に医療費の補助が受けられるようになってきた.現在,厚労科研難治性疾患政策事業として,消化管は田口班,肝胆膵は仁尾班が中心になって関連学会と連携し,全国の実態調査,ガイドラインの作成1),意見書の作成・改訂,疾患の啓蒙活動,患者会の支援,移行期から成人期も含めた医療体制の構築の検討,等をミッションとして研究班の活動を展開している.

II.希少難治性慢性消化器疾患の移行支援の戦略
具体的に移行期の患者を,誰が中心となって責任をもって診るかという問題が生じてくる.そこでわれわれのコンセンサスを呈示したい(表12).今回は小慢や指定難病に指定されている疾患に的をしぼり,三つの群に分けて考えた.
第1群は,小児期に発症し成人でも存在する病気,たとえば潰瘍性大腸炎やクローン氏病などは成人と小児に共通する病気で,むしろ成人消化器内科医のほうが多くの症例を経験し得意な疾患なのでスムーズにトランジションできる.つまり小児医療担当医から成人医療担当医に完全にバトンタッチができる疾病である.
第2群は,小児期から成人診療科と連携して診療が必要な疾病である.その代表は総排泄腔遺残・外反である.総排泄腔では,小児期から成人期まで産婦人科医や泌尿器科医や外科医との連携,こころのケアも含めた多診療科・多職種による診療体制が必要である.ヒルシュスプルング病も術後に排便障害が継続し,成人になっても便秘や汚染や失禁などQOLを損ねている症例,成人期になって大腸癌を発症した症例もある.そのため成人外科も共同で診るのがよいと思われる.
第3群は,小児期とくに新生児期乳児期に発症する希少な疾患で成人の内科医や外科医が診たことのない疾病である.ヒルシュスプルング病類縁疾患や短腸症や胆道閉鎖症などがこれにあたる.これらは思春期やAYA世代になっても病気のことをよく知っている小児外科医が窓口になって,問題が生じた際に,それぞれの臓器に特異的な成人診療科と連携しながら診療している場合が多い.しかしこれらの疾病でも成人になると成人病や成人癌などの発症があるため,癌年齢に到達する40歳には,完全に成人診療科(カウンターパートとして成人消化器外科・内科)にスイッチすべきである.

表01

III.トランジションセンターおよび長期フォローアップ体制
移行期からAYA世代の患者を診る場として,成人診療科が充実している総合病院(大学病院)にトランジションセンターを設置し(図12),ここで移行期年齢に達した患者を小児と成人の多職種・多診療科の診療体制をつくるのが望ましい.独立型の小児病院では成人診療科がなく成人への対応ができない.また,出生前から成人までシームレスな医療サポート体制の構築には,PHR(personal health record)による医療情報共有システムの整備が必須であり,マイナンバーと医療情報がリンクできる長期フォローアップの仕組みの構築が急務である.

図01

IV.提言
小児希少難治性慢性消化器疾患の移行期医療の必要性について小児外科医の立場から以下の提言をしたい.
1)疾病別の移行期ガイドラインの整備
2)トランジションセンターの設置
3)マイナンバーにリンクした医療情報のPHR(Personal Health Record)の整備
4)癌年齢に達する40歳を目標に完全に成人診療科に移行する.

 
利益相反:なし

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文献
1) ヒルシュスプルング病類縁疾患診療ガイドライン作成グループ編:ヒルシュスプルング病類縁疾患診療ガイドライン.メジカルビュー,東京,2018.
2) 田口 智章 , 永田 公二 , 岡 暁子 :移行支援総論 希少難治性慢性消化器疾患の移行支援総論.小児診療85(Suppl 2):273-280,2022.

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