日外会誌. 126(3): 289-291, 2025
会員のための企画
医療訴訟事例から学ぶ(144)
―RFA後に造影CTを撮影しなかったことが過失とされた事例―
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1) 順天堂大学病院 管理学 岩井 完1)2) , 山本 宗孝1) , 浅田 眞弓1)3) , 梶谷 篤1)4) , 川﨑 志保理1) , 小林 弘幸1) |
キーワード
RFA, 経皮的ラジオ波焼灼療法, 肝細胞癌, 造影CT検査
【本事例から得られる教訓】
癌の治療後のように検査が必須の場面でも,患者が医師の方針を拒絶することはあり得る.そしてその結果として患者が死亡した場合でも,立証の問題で医師が敗訴する可能性がある.患者が拒絶した事実は必ず記録に残すべきである.
1.本事例の概要(注1)
今回は,C型肝炎患者の肝細胞癌にRFA(ラジオ波焼灼療法)を実施した事案である.RFA後に外科手術が行われる場合もあり,外科医の関心もあると思われることから,紹介する次第である.
患者(男性・死亡時53歳)は,C型肝炎に罹患し,平成17年2月9日に本件病院で治療を開始した.
平成23年5月27日,担当医らは造影CT検査を実施し,その後に造影MRI検査,腫瘍マーカー検査および造影エコー検査を実施し,患者が肝細胞癌である旨の診断をした.
平成23年6月9日,担当医らは患者に対し,約2時間30分をかけ,S8区域に腫瘍径25mm大,腫瘍数1個の肝細胞癌があることや,治療法等を説明した.
平成23年6月27日には,患者に説明同意文書を交付し,上記の治療法等の説明のほか,本件RFAにより癌が十分に焼灼されたかどうかは,退院日以降に施行する造影剤を用いたCT検査で評価すること等も説明し,患者から同意を得た.
平成23年6月28日,RFAが実施された.
平成23年7月29日,本件RFAの治療効果判定のため,造影CT検査(以下,「本件CT検査」という.)が実施された.読影した医師は,肝細胞癌の再発疑いの報告をしたが,平成23年8月1日,担当医らは,焼灼マージンは十分のはずであるため,焼灼部位を取り囲む炎症を示す円形陰影であると判断し,患者に対し,多分焼けていると思うが,焼灼部位周辺の炎症部分の造影効果が全て消えないとちゃんとした評価にはならないこと,CT検査を続けて行うと腎臓を傷めるため,造影エコー検査で再評価を行い,必要であれば追加焼灼を行うことを説明した(後述の通り,ここで患者が腎臓への負担を理由に造影CTを拒絶したか否かは争いがある).
平成23年9月8日,担当医らは造影エコー検査を実施し,肝細胞癌の残存はない旨判断した.
平成23年10月28日,担当医らは腫瘍マーカー検査を実施し,PIVKA-Ⅱの結果値は1,373mAU/mL(参考値は40mAU/mL未満),AFP-L3%の結果値は24.0%(参考値は10.0%未満)であった.担当医らは,同結果値の上昇は臨床的にしばしばみられるものであることや従前,患者が外来に来ることすら消極的な態度を示していたこと等を踏まえ,平成23年12月15日に予定していた造影エコー検査の結果を待って,その結果と併せて患者に伝えることとした.
平成23年12月15日,担当医らは造影エコー検査を実施したところ,肝細胞癌の再発等の疑いがあったため,平成24年1月4日に造影CT検査を実施した結果,肝細胞癌の再発および門脈腫瘍塞栓である旨診断した.
平成24年1月31日,患者はA大学病院において,肝右葉切除および門脈腫瘍塞栓摘出手術を受ける等したが,平成25年3月12日,肝細胞癌を直接死因として死亡した.
なお,肝細胞癌の再発および門脈腫瘍塞栓の発症に至るまでの機序としては,裁判所は,複数名の鑑定人の意見等をもとに,本件RFA時の焼灼漏れにより残存した肝細胞癌が成長して門脈腫瘍塞栓を形成したか,あるいは,本件RFA時に既に微小な門脈腫瘍塞栓が存在しており,それが上記焼灼漏れによって肝細胞癌と共に残存したかして,同塞栓が門脈を介して肝右葉等に進展拡大したものと認定している.
2.本件の争点
本件の争点は多岐にわたるが,本稿では,平成23年7月29日の造影CT検査において再発の疑いの報告を受けた後,平成23年9月8日に,再度の治療効果の判定にあたり,造影エコー検査ではなく造影CT検査を実施すべき義務があったか否かという点に絞って説明する.
3.裁判所の判断
まず裁判所は,医学文献等をもとに,造影エコー検査の長所を指摘しつつも,一方で補助診断としての位置づけにとどまるとの記載があることや,肝内の死角が存在するなどの短所等も指摘し,本件RFA当時においては,治療効果の判定は,造影CT検査により行うことが医学的に標準であったとした. そして,本件では患者の肝細胞癌は,死角となる部分があるS8区域に存在しており,また本件CT検査を読影した医師が再発疑いの報告をしていたこと等を踏まえると,担当医らが,造影CT検査に比べて感度や正診率で劣る造影エコー検査を選択したことは,医師としての裁量の範囲内の行為とはいえず,過失があると認定した.
病院は,造影エコー検査を選択した理由の一つとして,患者が腎臓への負担を理由に造影CT検査を拒絶していた旨を主張したが,裁判所は,証拠上,患者が造影CTを拒否した事実は認められない等として,病院の反論を排斥した.
一方で,平成23年7月29日の時点で造影CT検査を実施していたため,患者の腎臓への負担を考慮する必要があったことや,患者の通院に対する姿勢等からすると,再度造影CT検査を実施するためには,1,2カ月程度の期間を要した可能性を否定できない等,詳細な検討を行い,結論として,上記過失がなかったとしても,患者が死亡した平成25年3月12日時点でなお生存していた高度の蓋然性は認められないとして,過失と死亡の間の因果関係は否定した(但し,生存していた相当程度の可能性はあるとして,慰謝料300万円を認めた).
4.本事例から学ぶべき点
患者が通院等に消極的な態度であったことは裁判所も認めているようだが,患者が二度目の造影CTを拒絶したという病院の主張については,証拠上認められない,つまり,カルテ等の記載がないため,排斥されてしまった.
以前に,患者が施設(特養)の指示を聞かずに死亡したものの施設の過失が認められた事例を紹介させて頂いたが(注2),その他にも,肝疾患については,ウイルス性肝炎疑いの患者が検査を拒否した事例(注3),肝がんの疑いによる造影CT検査を患者が拒否した事例(注4)などで,医師の過失が認められている.いかなる場面であれ,患者が医師の方針を拒絶した場合,その記録は必須である.そして患者が拒絶した場合,裁判例によれば,次に,医師の患者に対する「意を尽くした説明」が必要になるため,説明とその記録も不可欠である.
利益相反:なし
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