日外会誌. 126(3): 283-288, 2025
会員のための企画
甲状腺における人工知能を用いた画像診断支援の試みについて
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伊藤病院 外科 北川 亘 |
キーワード
超音波, Atificial Itelligence(AI), 甲状腺, Deep learning, CAD
I.はじめに
2000年代初頭から人工知能自身が知識を獲得する「機械学習」が実用化され,ディープラーニングが登場したことから第3次のAI(Atificial Itelligence)ブームとなった.また,2023年からChatGPTが公開され,生成AIがもたらした第4次AIブームとなっている.
近年,AIは医療の分野で画像診断において様々なモダリティに導入されている.乳腺領域では,マンモグラフィとの併用検査として乳房超音波検査にもAIが活用されている.現在,乳腺腫瘤の検出支援可能なアプリケーションを搭載している超音波機器はSmart Area Indication : S.A.I(キヤノンメディカルシステムズ)とeScreening(富士フイルムメディカル)がある.どちらも病変をリアルタイムに検査者に知らせる機能を装備している.このAIアプリケーションでは検出部位のカテゴリー判定や良悪性の推定は表示されないが,Hayashidaら1)は,他施設共同研究でConvolutional Neural Network(CNN)を用いて開発されたAI診断で乳房超音波画像診断の良好な成績を報告している.
他方,甲状腺超音波のAI診断では,検出支援可能なアプリケーションは本邦では未発売である.甲状腺に限らないが超音波診断におけるCAD(Computer-Aided Diagnosis)システムの課題は,超音波検査は撮影者に依存すること,不均質やエコー欠損などの領域があるとCADシステムではノイズの多い画像と判断し,精度がでにくくなること,超音波検査の装置間,施設間などでばらつきがあることなどがあげられる.
II.甲状腺の超音波診断の実際
各国から甲状腺超音波診断基準が示されている.2009年にHorvathら2)はTI-RADS(Thyroid Imaging, Reporting and Data System)を提唱している.米国甲状腺学会のATAガイドライン3)では悪性の危険度を超音波所見と腫瘍径の組み合わせから5段階に評価して所見を分類している.
本邦では,日本超音波医学会用語・診断基準委員会の甲状腺結節超音波診断基準が基本になる4).AIの活用として点数評価の重み付けをAIで再配分したAI-TI-RADSとアメリカ放射線医学会のACR-TI-RADSとの比較検討では,ACR-TI-RADSに比べAI-TI-RADSでは感度は変わらず,特異度が上がり有用性が高いと報告されている5).また、諸外国のTI-RADSとの比較検討では,AI-TI-RADSは不必要な細胞診を避けることができる割合が最も高くなると報告している6).
III.CADシステムの例(FDA承認)
画像を読ませてAI診断させるレポートシステムは,米国FDAで承認されたいくつかの解析ソフトがある.
1)AmCAD-UT®(AmCAD Biomed, Taipei, Taiwan)
7)
AmCAD-UT®は甲状腺結節の甲状腺超音波画像の静止画を解析するソフトウェアである.解析したい超音波画像を数点プロットすることによって,そのエコー画像の所見評価をAIが行う.各国のTI-RADSに当てはめて,そのカテゴリー分類することも可能である.
2)S-DetectTM(Samsung Medison Co,Ltd., Seoul, Korea)
8)
解析したい腫瘍をROIで囲むとAIがその悪性危険度を自動解析して,それぞれの所見を提示する解析ソフトである.
3)Koios DS ThyroidTM(Koios Medical, Inc. NEW YORK US)
9)
2021年にFDAの承認を受けたAI甲状腺診断ツールである.甲状腺結節周囲にROIを設定して分析領域を決定し,解析する.ACR TI-RADSやATAの診断基準にもとづいて解析する.
4)Medo-Thyroid(MEDO DX Pte. Ltd. Edmonton, Canada)
10)
甲状腺と甲状腺結節を自動的にセグメンテーションするツールでTI-RADSのクラス分類が可能となっている.
IV.甲状腺超音波診断におけるAI診断の報告例
S-DetectTMおよびAmCAD-UT®に関する報告が多い.
1)主な報告例- S-detectTM(表1)
Choiら11)はCADシステムと放射線科医師との比較で,CADシステムは放射線科医師と比べ,感度は変わらず,特異度,正診率はCADシステムが劣っているとしている.Kimら12)やHanら13)も同様にCADシステムは放射線科医師と比べ,感度は変わらず,特異度,正診率は劣っているとしている.
他方,Yooら14)はCADシステムと放射線科医師との比較で感度,特異度,正診率は有意差がなく,また放射線科医師がCADシステムを併用すると感度が84.0%から92.0%と有意に高くなるとしている.Parkら15)は286個の結節で放射線科医師,dCAD(ディープラーニングを活用),sCAD(機械学習を活用)を比較している.dCADは放射線科医師と同等の感度,特異度,正診率であったが,sCADは特異度,正診率が放射線医師より劣っていた.
経験年数の違う放射線科医師とCADシステムとの比較も報告されている.Jeongら16)は超音波経験の異なる3名の放射線科医師,経験のない医学生とCADシステム使用の診断性能を評価している.経験豊富な放射線科医師がCADシステムを併用すると,感度,正診率は変わらないが,特異度が低下する.また,CADシステムを併用する経験豊富な放射線科医師と経験が浅い放射線科医師との比較では,経験豊富な放射線科医師は,感度と正診率が優れているとしている.
Gittoら17)は,CADシステムとレジデントを比較しているが,医師の感度は優れているが特異度は有意差がないと報告している.Barczynskiら18)は,CADシステムを併用することで甲状腺超音波検査のトレーニングが6カ月の外科医の正診率が76%から82%と6%上昇したと報告している.Weiら19)は経験の浅い放射線科医師に比べ,CADシステムは正診率77.0%で特異度65.2%と高いが,経験20年の放射線科医師の正診率は84.8%でCADシステムが劣っていたとしている.
甲状腺乳頭癌および濾胞癌に対するCADシステムの報告もある.Xiaら20)は乳頭癌の正診率はCADシステム70.9%,放射線医師82.1%,濾胞癌の正診率はCADシステム43.8%,放射線医師60.9%でCADシステムは乳頭癌,濾胞癌の正診率が放射線医師より低かったと報告している.
2)主な報告例- AMCAD-UT®(表2)
Reverterら21)は300個の結節を検討している.CADシステムは放射線科医師と同様の感度であるが,特異度は低く,AUC Valueは0.72 vs 0.88(p<0.05)と低かった.CADシステムが放射線科医師より優れているわけではないとしている.Luら22)は放射線科医師に比べ,CADおよびCAD併用放射線科医師は特異度がそれぞれ27.5%,30.0%,一致率は4.7%,9.4%と有意に上昇したとしている.
Wuら23)は経験年数10年未満と10年以上に分けCADシステム併用での有用性を検討している.CADシステムの併用によってAUROCが全体で0.728から0.792に優位に上昇し,CADシステムの利用で診断のばらつきを減少させるとしている.Chambaraら24)はデフォルト設定と三つの調整設定で205個の腫瘍を解析している.診断基準はACR-TIRADS,ATA,BTA,EU-TIRADS,Kwak,KSThRを用いており,デフォルト設定がすべてのTIRADSで最高の診断能力があったとしている.


V.AI診断の今後の展望
AIが超音波診断に活用され始めた初期は,放射線科医と比べCADシステムは,感度は変わりなく特異度は低いという報告が多かった25).しかし,昨今AI診断がさらに進歩して,放射線科医師の診断を超える報告もでてきている26)
~
28).
Zhangら26)は感度,特異度,正診率すべてでCADシステムが放射線科医師より優秀であると報告している.Liら27)は312,399個の甲状腺Bモード画像をDCNN(deep convolutional neural network)で学習させて,三つの施設でAI診断とエキスパートの放射線科医師とを比較している.AI診断の感度はエキスパートの放射線科医師と同等で,特異度は勝っていた.Wangら28)も同様にYOLOv2ニューラルネットワークを使用したもので,AI診断の感度は放射線科医師と変わりないが,特異度は優れていたと報告している.
Ⅵ.おわりに
今後,AI診断は放射線科医師と同等ないしはそれ以上の診断能力を示す可能性をひめている.甲状腺超音波検査にAIの活用が実用化し超音波診断能が向上すると,甲状腺の専門医だけでなく実地医家の現場でAI診断が十分な精度で甲状腺腫瘍の診断をサポートできることが期待される.
甲状腺領域でも将来的に,診断支援と検出支援が装備されたAIビルトインの超音波機器が開発されると,診療上非常に有用なツールになると考えられる.今後の超音波機器の更なる発展に期待したい.
利益相反:なし
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