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日外会誌. 126(3): 240-246, 2025

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特集

進行胃癌治療の現状

3.高齢者進行胃癌における術式選択

国立がん研究センター東病院 胃外科

木下 敬弘 , 由良 昌大 , 吉田 弥正 , 佐野 淳一

内容要旨
高齢者の進行胃癌患者に対しては,病期診断,全身状態と他臓器機能の精査を慎重に行い,バランスを考慮した治療方法の選択(郭清範囲,アプローチ法,胃切除範囲)を行う必要がある.これまでの報告からは低侵襲手術の有用性,機能温存手術(胃全摘の回避)の重要性が示唆されている.また患者の社会的背景,栄養管理を含めた周囲からのサポートの有無も,治療方針を決定するうえでの重要なポイントとなる.

キーワード
胃癌, 進行胃癌, 高齢者, 機能温存手術, 低侵襲手術

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I.はじめに
高齢者の定義は,時代や地域によって異なるが,わが国では一般的に65~74歳を前期高齢者,75歳以上は後期高齢者と定義している.日本老年医学会は65~74歳を准高齢者,75~89歳を高齢者,90歳以上を超高齢者とする分類を提言している.高齢の癌患者はさまざまな生理的機能が低下しているとともに,併存疾患を複数有することも多い.また認知機能の低下や社会的・経済的な制限を有することも多い.このような背景から,高齢の癌患者に対する治療では,臨床的判断に苦慮することが多く,究極の個別化医療が要求される.高齢者は実年齢と生物学的年齢が必ずしも一致しないため,日常診療においても術前の適切な機能評価をもとに治療選択を行う必要がある.特に術後障害の発生が危惧される胃癌手術においては,治療選択は慎重にならざるを得ない.2025年には団塊世代が75歳をむかえ後期高齢者が急速に増加するため,2030年頃までは高齢者の胃癌患者数は増加すると考えられている.

II.高齢者の胃癌患者にD2郭清(定型手術)は必要か?
高齢者を対象としたこれまでの文献報告において,D2郭清(定型手術)とD1 or D1+郭清(縮小手術)とのランダム化比較試験はない.後ろ向き研究を用いたメタアナリシスは数編報告されている1) 2).術後全合併症に関しては,縮小手術で少ないという報告もあるが,差がないとしているものがほとんどであった.腹腔内膿瘍に限定すると,縮小手術において定型手術よりも有意に低率であったと報告するメタアナリシスもある3).在院期間,再入院率に関しては定型手術,縮小手術で差が認められなかったという報告が多い.生存成績に関しては,有意差は報告されていない.国内施設で行った75~84歳の高齢者と85歳以上の高齢者胃癌手術症例の比較検討4)では,術後合併症には差を認めなかったものの,郭清範囲は85歳以上の高齢者において有意にガイドライン推奨郭清度未満の手術が多かった.全生存率は85歳以上群で低率であったが,ガイドライン推奨郭清度未満の手術が多いにも関わらず無病生存率では差がなかったことが報告されている.従って,これまでに縮小手術による治療効果不足を示すエビデンスはなく,また定型手術のデメリットを強く示すものも示されていないと言える.術前の全身状態などから総合的に判断し,バランスのとれた郭清範囲を選択することが望まれる.

III.高齢者の胃癌患者に低侵襲手術は有益か?
高齢者を対象とした,開腹手術と腹腔鏡下手術の比較研究は日本を含めた東アジアや欧州から数編の報告がある.術後合併症に関しては,C‒D分類Grade 3以上の全合併症は開腹手術で高率であったとする報告が多い.また,術後肺炎,腹腔内膿瘍に限定しても,開腹手術で多い傾向が示唆されている.腹腔鏡手術では,出血量が少なく,在院期間も短期であることが複数報告されている.生存成績を比較した報告は1編あるが,開腹手術と腹腔鏡下手術で有意な差はなかったと報告されている.国内で実施された全国規模の前向きコホート研究の結果も報告されている5).層別化無作為抽出により選別された169施設について,2014年から2015年の1年間に胃切除を受けた75歳以上高齢者2,387人を対象とし,腹腔鏡手術(n=1,366)と開腹手術(n=1,471)の短期成績を比較している.同研究でも腹腔鏡手術において,入院期間が有意に短く(12 vs 16日),術後合併症発生率には差がなかったことが示された.イタリアからは70歳以上高齢者(123例)を対象にロボット胃切除vs開腹胃切除の成績を傾向スコアマッチングにて比較した研究が報告されている6).手術時間はロボット手術で長かったが(273.8 vs 193.5分),重大な合併症発生率は開腹胃切除で高かったが(6.9% vs 16.3%),生存率に差がなかった.これらをまとめると,可能であれば高齢者に対しては低侵襲手術を選択すべきであることが示唆される.

IV.高齢者の胃癌患者に機能温存手術は有益か?
進行胃癌が対象でないが,75歳以上高齢者における上部早期胃癌に対する腹腔鏡下機能温存手術(噴門側胃切除および胃亜全摘術)が腹腔鏡下胃全摘術と比較し有益性があるかを検討した報告がある7).111名を対象に,術後合併症,栄養状態(体重,筋肉量の変化),生存成績を比較した結果,機能温存手術は胃全摘術に比べて体重,筋肉量の維持に優れており,生存成績も良好であった.85歳以上の超高齢胃癌患者に対する胃切除術を対象に,2017年から2020年のNational Clinical Database(NCD)から収集された,幽門側胃切除術10,203例と胃全摘2,580例の比較研究が報告されている8).周術期死亡率は1.6% vs 2.6%,重篤な術後合併症の発生率は7.8% vs 11.3%といずれも胃全摘で高率であった.韓国からの報告では,2008年から2015年にかけて胃癌に対して腹腔鏡下胃全摘を受けた273例を高齢群と非高齢群に分類し解析を行ったところ9),重篤な合併症発生率は高齢群で高く(15.5% vs 4.1%),特に縫合不全で顕著であった(9.9% vs 2.9%).これらのデータは,高齢者胃癌患者において術式そのものが手術の安全性や予後に関わる可能性を示している.そして重篤な合併症を予防する観点から,高齢者胃癌患者において,胃全摘は極力回避すべきことが示唆された.また近年は胃上部に限局する小型の進行胃癌であれば,噴門側胃切除が許容される可能性もいくつかの後ろ向き研究から報告されており10),今後は高齢者胃癌に対しても適応に関しても検討され得る課題と考えられる.

V.ガイドラインにおける推奨度
2025年3月に改訂された第7版胃癌治療ガイドライン(日本胃癌学会)では重要臨床課題の一つとして“高齢者”を挙げている11).クリニカルクエスチョン(CQ)10-1として「手術の術式を決める際に,年齢を考慮することは推奨されるか?」が提示されており,推奨文として「高齢者に対してはリンパ節郭清範囲を縮小した縮小手術や低侵襲手術を行うことを弱く推奨する」と述べられている.CQ10-2では「全身化学療法の適応を決める際に,年齢を考慮することは推奨されるか?」が提示されており,「患者の全身状態や意欲を慎重に評価したうえで,患者本人が状態良好(fit)かつ意思決定能力を有し治療意欲があれば,化学療法を計画するときに年齢を考慮することを弱く推奨する」と述べられている.高齢者やサルコペニアを有する患者に対して,周術期に栄養療法,運動療法を実施し,治療成績を改善しようとする試みがなされているため,CQ10-3では「高齢者・サルコペニア患者に対する周術期の栄養/運動療法は推奨されるか?」が提示されているが,未だ十分なエビデンスが不足しており明確な推奨度は示されなかった.教科書形式の解説「治療法」の部分には,胃切除範囲の種類として「胃亜全摘術(Subtotal Gastrectomy:sTG)」が新たに加えられ,“小彎側をほぼ全長に渡って切離し,短胃動脈を一部切離する幽門側の胃切除”と定義されている.今後,高齢者胃癌に対して胃全摘を回避する機能温存手術として,広く施行される可能性がある.

VI.国立がん研究センター東病院での成績と治療方針
2010年から2024年の15年間に,75歳以上の高齢者の胃癌に対して胃切除術を施行した患者数は863例であり,そのうち臨床病期cT2以深の進行胃癌とされた患者は414例であった(表1).87例(21%)に術前薬物治療が施行されており,そのうち14例はcStageⅣBに対するコンバージョン手術,73例はcStageⅢに対する術前化学療法であった.食道胃接合部癌は7%含まれていた.胃全摘/幽門側胃切除/噴門側胃切除の割合は28% / 66% / 6%であった.71%の症例でD2郭清が施行されていた.低侵襲手術(腹腔鏡/ロボット)は74%を占めていた.この414例における術式別にみた短期手術成績(表2)では,胃全摘で出血量が最も多く,術後合併症発生率が高く,術後在院日数も長かった.幽門側胃切除これらの項目はいずれも最も低値となっていた.
次に病理学的にpT2以深の進行胃癌と診断された366例の生存曲線を図1a,bに示す.5年全生存率は62.9%であり,術式別にみると幽門側胃切除では71.2%,胃全摘で49.2%と有意差を認めた(p = 0.0034).同様に病理学的にpStage Ⅱ/Ⅲと診断された285例の生存曲線を図2a,bに示す.このうち術後補助化学療法が施行できた症例は158例(55%)のみであった.5年全生存率は59.4%であり,術式別にみると幽門側胃切除では66.5%,胃全摘で50.1%と同様の傾向を認めた(p = 0.0917と有意差はなし).
これらの経験をふまえ当院では高齢者の進行胃癌患者に対しては,病期診断と全身状態と他臓器機能の精査を慎重に行い,バランスを考慮した治療方法の選択を行う方針としている.手術を行う際には,なるべく低侵襲手術で行い,可能な限り胃全摘は回避する方針で術式選択を行っている.また患者の社会的背景,栄養管理を含めた家族からのサポートの有無も,治療方針を決定するうえでの重要な判断材料と考えている.

図01図02表01表02

VII.症例提示(図3
77歳男性,既往歴として高血圧,肺気腫,脂肪肝があった.住民検診で胃体部小弯に位置する胃癌を発見され,精査にてM, Less, 60×40mm, por, Type3,cT4aN2M0 cStageⅢ進行胃癌の診断となった(図3a).Multi-disciplinary team カンファレンスでは,全身状態は比較的良好であり他臓器機能も保たれていること,領域リンパ節に複数転移を認めること,小弯病変であり現時点では胃全摘が必要となる可能性があること,から総合的に判断し,術前化学療法後の手術を患者に提示する方針となった.術前化学療法として,FLOT4コース施行し腫瘍縮小が得られた後(図3b),ロボット手術にて胃全摘を回避した胃亜全摘(sTG)D2郭清,胆嚢摘出術を施行した.小弯側全切除によって残胃容量は極小となり再建は完全体腔内Roux-en-Y再建とした.手術時間は4時間20分,出血量は21gであった.術後合併症は認めず,術後8日目に退院した.病理診断はypT3N2M0, ypStageⅢAであり(図3c),術後4週間で術後補助化学療法を開始することができた.

図03

VIII.おわりに
高齢者の進行胃癌患者に対しては,病期診断,全身状態や他臓器機能の精査を慎重に行い,バランスを考慮した治療方法の選択を行うことが重要であり,低侵襲性と機能温存が基本と考えられる.また患者の社会的背景,栄養管理を含めた家族からのサポートの有無も,治療方針を決定するうえでの重要なポイントとなる.

 
利益相反:なし

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文献
1) Ko CS , Jheong JH , Jeong SA , et al.:Comparison of Standard D2 and Limited Lymph Node Dissection in Elderly Patients with Advanced Gastric Cancer. Ann Surg Oncol, 29:5076-5082, 2022.
2) Shinozuka T , Kanda M , Ito S , et al.:D2 lymph node dissection confers little benefit on the overall survival of older patients with resectable gastric cancer:a propensity score-matching analysis of a multi-institutional dataset. Surg Today, 50:1434-1442, 2020.
3) Sakaguchi M , Hosogi H , Kanaya S :Is D2 laparoscopic gastrectomy essential for elderly patients with advanced gastric cancer? A propensity score matched analysis. J Gastrointest Oncol, 13:67-76, 2022.
4) 山川 雄士 , 坂東 悦郎 , 川村 泰一 ,他:85歳以上の超高齢者胃癌手術症例の検討 日消化外会誌,47: 1-10,2014.
5) Honda M , Kumamaru H , Etoh T , et al.:Surgical risk and benefits of laparoscopic surgery for elderly patients with gastric cancer:a multicenter prospective cohort study. Gastric Cancer, 22:845-852, 2019.
6) Garbarino GM , Costa G , Frezza B , et al.: Robotic versus open oncological gastric surgery in the elderly: a propensity score‑matched analysis: J Robotic Surg, 15: 741–749, 2021.
7) Terayama M ,  Ohashi M ,  Ida S , et al.: Advantages of Function-Preserving Gastrectomy for Older Patients With Upper-Third Early Gastric Cancer: Maintenance of Nutritional Status and Favorable Survival. J Gastric Cancer, 23: 303–314, 2023.
8) Ueda Y , Nishimura S , Inomata M , et al.: Risk factors for serious postoperative complications following gastrectomy in super-elderly patients ≥85-years-old with gastric cancer:A National Clinical Database study in Japan Ann Gastroenterol Surg, 9: 79-88, 2025.
9) Jung HS , Park YK , Ryu SY , et al.: Laparoscopic Total Gastrectomy in Elderly Patients (≥70 Years) with Gastric Carcinoma: A Retrospective Study: J Gastric Cancer, 15: 176-182, 2015.
10) Ri M ,  Kumagai K ,  Namikawa K ,et al.: Is proximal gastrectomy indicated for locally advanced cancer in the upper third of the stomach? Ann Gastroenterol Surg, 5: 767–775, 2021.
11) 日本胃癌学会:胃癌治療ガイドライン.第7版,金原出版,東京,2025.

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