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日外会誌. 126(3): 230-231, 2025

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誰もが輝ける外科の未来へ

子育て世代に伝えたいAcute Care Surgeryという選択肢―男性育休取得の経験から

帝京大学医学部 救急医学講座

神田 智希

内容要旨
外科診療を持続可能なものにするためにはDiversity(多様性)とInclusion(包括性)が必要である.Acute Care Surgeryという分野は,外科の未来を支えるキーストーンとなる可能性を秘めている.

キーワード
育児休業, Acute care surgery, Diversity, Inclusion

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I.はじめに
外科は手術という特殊な業務があるため,拘束時間が長くなりがちでキャリアとプライベートのバランスをとるのが難しい診療科といえる.そのような労働環境を一因とする昨今の外科医減少1)は,外科診療の持続可能性を脅かす大きな問題である.いま必要なのは,外科医という働き方の固定観念を書き換え多様な働き方を受容すること(Diversity)と,外科医を志した(特に)若手をドロップアウトさせないこと(Inclusion)だと考える.筆者は,次女誕生に際して育児休業を取得した.現在も,救急集中治療医として通常業務を行いながら急性期外科的病態へ対応する外科領域であるAcute Care Surgeryに従事し育児に携わっている.その経験を元に外科の未来への提言を述べる.

II.Acute Care Surgery(以下,ACS)
ACSは,「外傷,緊急手術,外科集中治療,Surgical rescue(外科的合併症への対応)」で構成される外科の一分野である2).特に外傷診療とSurgical rescueは,高度な専門性を必要とするACSの主戦場であり,各臓器別外科と並ぶ外科のスペシャルティとして認知され始めている.

III.外科医が日本からいなくなることを憂う
医師の働き方が多様になっている現代,外科を選ぶ若手が少なくなっている.外科医の減少に歯止めをかけるには,若手医師にとって魅力的な労働環境かどうかが重要だ.ワークライフバランスを保ちたい,家族との時間を大切にしたい,と望むのは至極真っ当なことであるし当然の権利である.そんな中,「外科楽しいよ!手術楽しいよ!」と力技で勧誘してもさらに敬遠されるだけである.それでは,若手を外科に招き入れ,ずっと外科医として働けるようにするにはどうしたらいいだろうか.そこで,DiversityとInclusionという考え方である.

IV.Diversity
外科医にとっての業務は多岐にわたるが,プライベートの時間を圧迫する大きな要因の一つは,時間外緊急手術だろう.定時手術や外来もある中で緊急手術が入ってくると定時退勤は絶望的である.そこでACSチームが外科的緊急をカバーし臓器別外科と協働することで,各々の仕事に集中でき,効率的に時間を使うことが可能になる.また,外科医がライフステージに応じて働き方を変えるという選択肢が生まれ,育児で働く時間が制限されたとしても外科医としてのアイデンティティを維持できる.これが外科の目指すべきDiversityの一つだと考える.当院ACSチームでは,シフト制で24時間365日外科的緊急に対応している.夜間緊急手術を行った後の外科的集中治療管理は仲間に任せる,オンコールで夜間緊急手術をした翌日はオフとするなど,働きやすいように工夫している.また,チーム全員が育児経験者であり,育児における日常的な,些細な,でも重要なトラブル(主に子供の発熱)があっても,サポートしあう雰囲気が醸成されている.お迎えのために17時に帰らなければならない時は,他の者が手術をリリーフすることもある.この考え方は他領域でも応用できる.長時間手術を行う場合,切除・郭清・再建・術後管理を分担するなど,継投策は有効であろう.先発完投型では必ず個人に負担がかかり,その負担を率先して受け入れる様子を後輩に見せるのはよくないと感じる.

V.Inclusion
産後パパ育休制度新設や育休の分割取得が可能になるなど,社会全体として制度自体は整ってきている.しかし,外科に限った話ではないが,短いスパンで勤務先が変わることが多い医師の働き方は育児休業との相性が最悪である.労使協定により就業から1年未満は育児休業を取得できないことが多く,妊娠・出産に伴って人員豊富な病院に異動になったりすると育休制度を利用できない可能性がある.それを休業や年休消化などで代替するような個人的負担を強いる体制に未来はない.そういう現実があることを,筆者も当事者になるまで知らなかった.人事を決定する中堅~ベテランの医師たちは制度について知っておかねばならないし,本人が判断するに足る十分な情報を与えたうえで進路や人事について相談すべきである.具体的な改善策として,そもそも異動させないことや,異動先の病院と育児休業について労使協定の例外を認めてもらえるか交渉することが挙げられる.外科という分野は,他にはない手術や手技・専門性だけでも十分に魅力のある科であると思う.その上で,制度ではカバーできないグレーな部分を積極的にサポートしてこそ,他分野と差別化でき,外科医におけるInclusionが実現できると考える.

VI.おわりに
誤解してほしくないのは,育休を取らなければいけないわけではないし,育休を取るから偉いわけではない.仕事やキャリアを優先する生き方を否定する意図は全くない.個人の自由だ.その選択を尊重できる雰囲気や環境を整えておくことがこれからの時代を担うわれわれの使命と考えている.われわれが大好きな外科医という職業を維持していくためにも未来の外科医にはきちんと自分のキャリアをデザインしてほしい.多様性を認め,キャリアが人に寄り添う働き方の実現が望まれる.

 
利益相反:なし

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文献
1) 新原 正大 , 比企 直樹 , 鷲尾 真理愛 ,他:医師の働き方改革を目前にした消化器外科医の現状―アンケート結果報告―.日消外誌,57(3):158-168,2024.
2) 坂本 義之 , 袴田 健一 :わが国におけるAcute Care Surgeryの現状と今後の展望.日臨外誌,83(4):635-643,2022.

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