日外会誌. 126(2): 216-219, 2025
会員からの寄稿
AI技術を活用した腹腔内遺物検出機能を付加したX線撮影装置開発
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長崎大学大学院 移植・消化器外科学 江口 晋 , 曽山 明彦 |
I.はじめに
2023年,共同開発を行っていた富士フイルム株式会社(以下,「富士フイルム」)の「CALNEO ACRO」にAI(Artificial intelligence)でのチェック機能が付加されたX線撮影装置が,現場で使用できるようになった.通常の術後レントゲン写真が描出された後,ボタンを押すと異物の可能性が疑われる部分が黄色線の四角で囲まれて指摘されるシステムである.開発の経緯は以前の当科でのガーゼ遺残医療事故に起因する.本稿では,その製作過程を説明したい.
II.開発のきっかけ
2018年4月に当科での手術症例にガーゼ遺残が見つかり,医療事故の記者会見を行った.
手術終了時のガーゼカウントは合致しており,術後のレントゲン写真では大動脈ステントグラフトに重なったガーゼが見逃されていた(図1).長時間手術後に撮影したレントゲン写真で,プロトコール通り2名で確認はされていた.手術は肝切除後の13番付近のリンパ節サンプリング部で出血があり,ガーゼで押さえていたシーンもあった.ガーゼカウントが合致している状況で,疲労した外科医が他の遺物とのオーバーラップを指摘するのは至難の業と思った.
そこで最新のAI技術を用いて腹腔内遺物を抽出できるシステムを作製できないか考え始めた.放射線科の上谷雅孝教授(当時),放射線科の検査技師方々,画像診断機器大手の富士フイルムに共同研究を提案し,快諾頂いた.

III.教師データの作製
まずは教師データ作成に取り組んだ.教師データとは,AIモデルの機械学習に用いられる訓練データセットで,「条件(説明変数)」と「正解,またはラベル(目的変数)」がセットになっており,「教師あり学習」に用いられる.問題はAIへの教師データとなる画像が少ないことである.つまり腹腔内ガーゼ遺残の医療事故画像ということである.そこで当時,大学院生の山口峻君,大野慎一郎助教,曽山明彦講師が中心となり,放射線科の上谷雅孝前教授,放射線科の検査技師方々とまずは人体骨格模型内にガーゼを置いてレントゲン写真を撮りまくった.数千枚作製したと聞いている.加えて富士フイルムが胸腹部レントゲン画像にガーゼなどを重ねたファントム画像を大量に生成し,教師データを増産した.最後に立体感とヒトでの実用のため,解剖学教室の弦本敏行肉眼解剖学前教授との共同研究で,解剖後のカダバー内にガーゼを置かせてもらい,画像を大量撮影した.当時日本外科学会のCST推進委員会委員であった弦本前教授と相談して細心の注意を払い計画し,学内倫理委員会による審議を経た上で実施した(課題番号19042603,課題名「最新AI技術を活用した体腔内異物検出システムの開発に関する研究」における献体利用).
それらの教師データをプロトタイプAIに学習させ,最終的にプロトタイプを作成し,その機能詳細をアメリカ外科学会雑誌(JACS)に投稿し,採択された(図2)1).

IV.作成した機器の妥当性の検討
その後,本機器の臨床でのデータを創出するため,前向きに臨床研究を開始した.その結果,感度,特異度を算出し,その成績を再度JACSに投稿し,採択された2).最終的な結果は次の通りで,長崎大学のHPにも掲載されている(https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/science/science342.html)(図3).
製品化したシステムは全国の病院で稼働している.当科で患者にご迷惑をかけた経験をもとに,再発防止のため有用な医療機器を創出することができたことは,アカデミアの責務を果たせたこともあり,大変貴重な経験であった(図4).
本研究を粘り強く続け大学院生を指導してくれた曽山明彦准教授,大野慎一郎助教(現 琉球大学第一外科),放射線科 東家亮教授,放射線部の皆様,富士フイルム株式会社の皆様には心より御礼申し上げたい.


利益相反:なし
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