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日外会誌. 126(1): 101-103, 2025

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定期学術集会特別企画記録

第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(4)「外科診療における医師働き方改革-これまでの対策と今後の課題-」

5.幸せ指数から考える外科医の働き方改革―労働時間削減だけで外科医は幸せになれるのか?―

慶應義塾大学医学部 外科学

中井 猛斗 , 朝倉 啓介 , 坂本 恭子 , 岡林 剛史 , 大久保 祐 , 政井 恭兵 , 加勢田 馨 , 菱田 智之 , 尾原 秀明 , 北川 雄光

(2024年4月19日受付)



キーワード
働き方改革, 外科医, 労働時間, 幸せ

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I.はじめに
2024年4月から医師働き方改革による医師の時間外労働規制が始まった.医師の中でも外科医は他の診療科の医師(非外科医)に比して労働時間が長いことが知られている.過度な長時間労働が外科医の負担になることは言うまでもないが,そもそも労働時間が長い外科医は非外科医に比して不幸せなのだろうか.また労働時間を非外科医並みに改善すれば外科医はより幸せになれるのだろうか.はたらく幸せという視点から外科医の働き方改革を考えたい.

II.目的
外科医および非外科医の幸せ実感を科学的に測定して比較することで,外科医としての幸せな働き方について検討する.

III.方法
前野らが開発した「はたらく人の幸せ診断」1)は,働くことの幸せ実感を,自己成長,リフレッシュ,チームワーク,役割認識,他者承認,他者貢献,自己裁量の7因子に分けて測定する質問票である(図1).各因子に該当する質問を7件法で答え,点数が高いほどより幸せな状態であるとされる.この全7因子の平均点(以下,幸せ指数,7点満点)によって労働者の幸せを評価可能で,先行研究によると全職種の平均点は4.42点であった1)
慶應義塾大学および関連病院に所属する医師を対象に,部門単位ではたらく人の幸せ診断,属性(性別,卒後年数,診療科等),労働実態(平日労働時間,週末労働時間等)に関するWebアンケートを実施した.慶應義塾大学の外科専修医プログラムでは,卒後3年目は主に関連病院,4年目は関連病院と大学病院が半々,5~8年目は主に大学病院,9年目以降は主に関連病院勤務となるため,卒後年数はその4区分で解析した.

図01

IV.結果
436名から回答を得た(回収率16%).回答者の平均卒後年数は12年,男性336名(77%),外科医は92名(21%)であった.
まず,外科医と非外科医の比較を行った.1日あたりの労働時間は,外科医の方が平日・週末ともに有意に長かった(平日12時間以上の割合: 45% vs 17%,p<0.01,週末3時間以上 の割合:63% vs 51%,p=0.04).幸せ指数は外科医の方が高い傾向があり(5.11 vs 4.92,p=0.09),特に入局直後の卒後3年目(p=0.03)と専門医取得後の9~19年目(p<0.01)の幸せ指数は外科医が有意に高かった(卒後4年目,5~8年目では有意差無し)(図2).各幸せ因子別に比較すると,3年目の外科医では役割認識,他者承認,他者貢献,自己裁量の点数が非外科医に比して有意に高く(p<0.05),9~19年目では他者承認以外の全ての点数が非外科医に比して有意に高かった(p<0.05).
次に解析対象を外科医に限定して検討を行った.卒後年数別の比較では,5~8年目は3年目(p<0.01)および9~19年目(p<0.01)と比べて幸せ指数が有意に低かった.外科医の労働時間と幸せ指数の関連を検討したところ,1日あたりの平日労働時間が12時間以上の外科医は,12時間未満と比較して幸せ指数が低い傾向があった(4.96 vs 5.23,p=0.08).また週末労働が3時間以上では3時間未満と比較して有意に幸せ指数が低かった(4.97 vs 5.29,p=0.01).

図02

V.考察
外科医は非外科医と比較して労働時間が有意に長い一方で,卒後3年目および9~19年目では非外科医よりも幸せ指数が有意に高かった.また,どの卒後年数の外科医の幸せ指数(4.54~5.54)も,一般の全職種の平均(4.42)より高く,全般的に外科医の幸せ実感は高いと言える.
主に大学病院で修練を積む卒後5~8年目の外科医の幸せ指数が相対的に低いことが課題として認識され,はたらく人の幸せの7因子(図1)のそれぞれを高める施策が必要と考えられた.筆頭著者の属する呼吸器外科では,「チームワーク」および「他者承認」の実感を高めるためのピアボーナス制度(従業員同士が少額の報酬を送り合うことで互いの良い行動に称賛や感謝を伝え合う仕組み)や,「リフレッシュ」を高めるためのリフレッシュ休暇制度を試験導入した.次回以降の調査でその効果が出ることを期待している.
週末の労働時間が長くなると幸せ指数が有意に低くなることも分かった(平日にもその傾向はあるが有意ではない).当院では全診療科を挙げて休日取得数の増加に取り組んでおり,外科医の1カ月あたりの休日取得数も,2021年の平均5.6日から2023年の平均7.2日に増加した.引き続きチーム制の推進等によりオン・オフのメリハリのついた働き方を実現していくことで,外科医の幸せ実感が高まることを期待している.

図01

VI.おわりに
外科医の幸せ実感は非外科医や一般の職種に比して高かった.修練期間中に低下する幸せ実感をいかに高く保つかが今後の課題であり,そのためには十分な休日取得やはたらく幸せ7因子のそれぞれに着目した職場環境・制度作りが重要と考える.

 
利益相反:なし

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文献
1) 井上 亮太郎 , 金本 麻里 , 保井 俊之 ,他:職業生活における主観的幸福感因子尺度/主観的不幸感因子尺度の開発.エモーション・スタディーズ,8:91-104,2022.

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