日外会誌. 126(1): 95-97, 2025
定期学術集会特別企画記録
第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(4)「外科診療における医師働き方改革―これまでの対策と今後の課題―」
3.デンマークから学ぶ医療従事者の働き方
|
Department of Organ Surgery and Transplantation, Copenhagen University Hospital, Rigshospitalet, Denmark 濵田 隆志 (2024年4月19日受付) |
キーワード
短時間労働, 労働組合, デジタル, 集約化, 無過失補償制度
I.はじめに
デンマークの人口は約550万人で北海道と,国土面積は43万km2で九州とほぼ同じほどの小国だが,言わずと知れた幸せの国であり,World Happiness Report 2023では世界幸福度ランキング第2位であった1).その幸せの一つの要因として働き方に大きな特徴があり,今後の日本医師の働き方の参考になると思われる.
II.医師の労働環境
デンマークにおける労働時間は世界で最も短いとされ,医師の勤務時間は35時間である.短時間労働であるが,基本的に残業はなく,さらに有給休暇を6~8週間確保する義務がある.夏休みは3週間の長期休暇を取得することが可能である.
しかし,昔からこのような労働環境であったわけではない.短時間労働を可能にしているのが,労働組合の存在である.デンマークの労働組合参加率は日本の約4倍の70%ほどである.医療従事者に関しても労働組合が組織され,医師も積極的に参加し,ストライキ権を行使するなどの組合活動を行ってきた.さらに1970年ごろ女性の社会進出が活発化し,労働組合活動を経て,短時間労働を勝ち取った経緯がある.
給与体制は初期研修医で日本円にして約70万/月,専門医で120万円/月であり,十分な給与が支払われている.その上,時間外のインセンティブも制限なく支給されるために,日本のように他病院へアルバイトにいく必要がない.
III.実際の勤務体制
デンマークは世界電子政府ランキング第1位であり2),国家として医療デジタル体制を強力に推進しており,病棟業務でかかせない電子カルテは全国統一化されている.また,CPR number (the office of civil refistration),いわゆる日本でいうマイナンバーが患者IDとして使用されているため,医療従事者は国内全ての病院で患者情報を閲覧することが可能である.全国統一の電子カルテにより,紹介状や診療情報提供書などのペーパーレス化が進み印刷や郵送などが不要となった.また,初診であっても過去における病歴や検査結果も含め,患者情報の全てを確認可能である.
病棟業務については,業務分担性となっている.病棟にて毎朝ミニカンファレンスが行われ,医師一人につき,2,3人担当患者が割り当てられる.私がこの留学生活で印象的であった一つは,役職関係なく,スタッフ全員に担当患者が平等に割り当てられていたことである.15時以降は基本的に当直体制となり,当直医師2名で対応することとなる.当直医は当直明けに申し送り終了後に帰宅することが義務である.
手術に関して,デンマーク人外科医が担当することは,執刀あるいは助手,患者説明,手術記録記載,術後指示の確認作業のみと限定されており,それぞれの職種が各々に課せられた業務を全うする.このシステムにより,外科医にとって手術に集中できる環境が整っている.
デンマークでは,今後の医療体制を考え,国が2010年から疾患ごとに病院集約化を強制的に推進している.集約化によりコペンハーゲン大学病院における肝臓手術数は2010年の100例から2015年の400例に大幅に増加した.肝切除における周術期成績を表1に紹介する.死亡率は全体で1%以下に抑えられており,非常に良好な成績を保っている.病院機能を集約化することにより,外科医一人当たりの手術経験数が必然的に増加し,周術期成績の向上につながった.また,周術期管理の体系化を可能とし,チーム医療が成熟した結果,患者の安全にも寄与した.さらに,適材適所に医療従事者を配置することを可能とし,患者に十分なマンパワーで対応することが実現化している.
デンマークでは論文作成,臨床研究,および学会活動は時間内に行われ,完全に外科医個々人の自主性に任せられている.学会活動は,自国の外科学会が年に一回開催されるのみで参加はもちろん個人の自由である.つまり,学会も集約化され,参加も個人の裁量に任されていることから,学会での講演準備に割かれる時間が短縮され,参加機会も減少することにより,短時間労働を実現可能としている.

IV.働き方改革における短時間労働の弊害に関して
外科医の働き方改革を推進するにあたり,短時間労働の弊害が患者側に影響を及ぼすことは避けて通ることのできない現実である.デンマークでは短時間労働の影響を受け,患者の手術待機期間が平均1~3カ月と延長され,現在問題となっている.また,若手外科医は短時間勤務により手術に参加する機会が減少している.さらに,業務が細分化されているために外科全般の知識や技術を習得することが困難となり,外科医の技量が乏しくなることは明らかである.つまり,短時間労働では修練時間が減少し,外科医の基盤形成が困難な状況にある.
上記の状況から医療の質が低下し,医療訴訟が増加すると思われるが,デンマークにおいては無過失補償制度が創設されている.医療事故の被害者救済と,より安全で質の高い医療の実現を目標とし,過失の有無を問わないで,医療被害者に公平な補償を与えるモデル制度である3).
V.日本働き方改革への提言
デンマークにおける外科医の働き方に関して,少なからず弊害はあるものの,留学した私の経験から,日本における働き方改革の普及に関して提言する.第一に,公的病院における医療従事者の待遇改善が急務である.安心できる職場で,労働環境に見合った賃金を得て働くことが必要である.第二に,個人番号の普及拡大と電子カルテの国内統一である.円滑な医療を進めるためにも患者の情報共有化は急務である.第三に,医療分野におけるデジタル化の急速な普及促進である.第四に,医療機能の集約化・役割分担・連携の実現化である.第五に,無過失補償制度の導入を検討する.この制度により,医療従事者は過失を恐れず,安心した環境の中で医療を行うことが可能となる.
VI.おわりに
これまでデンマークにおける医療従事者の働き方を提示し,それをふまえて日本における働き方への提言を行った.しかしながら,どれほど外科医の働き方改革が進もうとも,患者の安全を第一に考えることは,日本もデンマークも変わりない.働き方改革が外科医の知識や技術の習得の妨げになってはならないと考える.
利益相反:なし
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。