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日外会誌. 126(1): 92-94, 2025

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定期学術集会特別企画記録

第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(4)「外科診療における医師働き方改革―これまでの対策と今後の課題―」

2.大学病院における働き方改革に向けた対策と課題

日本医科大学 消化器外科

進士 誠一 , 吉田 寛

(2024年4月19日受付)



キーワード
働き方改革, 労働時間短縮, Dx化, 教育・研究, 手術スケジュール

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I.はじめに
大学病院は,臨床,研究,教育の三つの使命を果たす中核的な医療機関であり,医師の育成や高度医療の提供に重要な役割を果たしている.しかし,その使命を果たすため,特に外科医の労働環境は厳しく,長時間労働や不規則な勤務が常態化している.このような過酷な労働環境は,医師の健康や安全に悪影響を与え,最終的には患者の安全にも関わるリスクがあるため,働き方改革は急務とされている.これまでにも,労働時間短縮やタスクシフト,チーム医療の導入などの改革が進められてきたが,大学病院の高度な専門性や医師不足といった現実的な課題から,十分に効果を上げるには至っていない.本稿では,外科医の働き方に焦点を当て,これまでの取り組みや今後の課題について検討する.

II.大学病院の現状
大学病院では,24時間体制で高度医療を提供し,同時に研修医や学生への教育も行う必要があるため,勤務時間の長さや不規則さが問題となりやすい.特に外科医は,長時間の手術や急患対応に加えて術後管理や研修指導業務も抱え,これが心身の負担を増大させる一因となっている.また,医師不足の影響で,一部の診療科や個々の医師に業務が集中しやすく,適切な労働環境を整えることが困難である.令和元年の医師の勤務実態調査によれば,時間外・休日労働が年1,860時間換算以上の医師の割合は外科で16.7%,救急科で18.1%,脳神経外科で16.2%,産婦人科で11.8%であり,労働負担の偏りが深刻な状況となっている1)

III.時間外労働の問題と課題
図1に大学病院における病棟医の週間スケジュールを示した.手術,病棟管理,カンファレンス,研究など多岐にわたる業務が含まれる.このような中,予定された手術が延長することで,医師は時間外勤務を余儀なくされるほか,地域医療の提供や収入源の確保のために非常勤医師としても働いている.そのため,年間の時間外労働時間が960時間以内という制限の中で業務を遂行するのは非常に困難である.特に,平均して9.25時間必要とされる教育や研究に費やす時間を確保することが難しい現状がある.しかし,医師が学術活動に取り組む時間を確保することは,将来的に医療の質を維持・向上させるために極めて重要であり解決すべき課題である.

図01

IV.Dx化とVR・AI技術の教育・研究への活用
1.Dx化:働き方改革の一環として,医師が日常の診療や手術を行うだけで,研究に必要なデータや材料が自動的に揃うようなDx化を進めている.この取り組みは,医師が診療に集中しながらも効率的に研究を進められる環境を整えることを目指しており,業務負担の軽減だけでなく,臨床と研究の両立を支援する革新的なシステムである.具体的には,われわれは医局秘書としてSystem Engineerを新規に雇用し,独自に手術・病理・予後調査に関するデータベースを作成し,研究に必要な臨床病理学的情報を医局で一元管理できるようにした.これにより,研究課題ごとに調査していた時間が大幅に減少した.また,術前カンファレンス資料,術中写真,標本写真のすべてを症例に紐づけ,学会発表や論文執筆のための準備時間の短縮につながった(図2).
2.VR・AI技術を用いた教育:テロップでの解説とナレーションを加えたVRコンテンツ(腹腔鏡下胆嚢摘出術,消化管手縫い吻合,腹腔鏡下縫合結紮など)や,体内情報をリアルタイムに解析する手術支援AIシステムを導入し学生やメディカルスタッフの教育用ツールとして使用することを始めた.これにより,医学生教育に費やす時間の短縮につながった2)5)

図02

V.手術スケジュールの見直し
2023年4月より,診療科内で手術枠の効率的な運用を目指して見直しを行った.これにより,1日あたりの手術件数が9.3件から11.3件に増加し,定時内の手術稼働率も向上した.しかし,看護師の不足により,2件目の手術開始時間が遅延することが多く,時間外手術時間が増加するといった新たな課題が出てきた.

VI.おわりに
以上,大学病院における働き方改革の取組みについて紹介した.デジタル技術の導入や手術スケジュールの見直しなどを通じて,医師の負担を減らす努力が続けられているが,看護師不足といった新しい問題点も出てきている.これらの改善策をさらに進めると同時に,大学病院全体での働き方改革を推進していくことが重要である.

 
利益相反:なし

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文献
1) 藤川 葵 :消化器外科医の働き方改革 いま医療機関そして消化器外科診療に関わる医療従事者へお伝えしたいこと.日消外会誌,56(2): 110-116, 2023.
2) 進士 誠一 , 横堀 將司 , 清水 哲也 ,他:手術教育のイノベーション 消化器外科臨床実習におけるVirtual Reality技術の効果.日外会誌,124(1): 109-112, 2023.
3) 進士 誠一 , 横堀 將司 , 須賀 涼太郎 ,他:【DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の手術室教育(2)】Virtual Reality技術を活用した外科系臨床実習の可能性と今後の展開.日手術医会誌,44(1): 17-21, 2023.
4) 進士 誠一 , 横堀 將司 , 須賀 涼太郎 ,他:【体腔鏡手術の教え方・学び方】総論 Virtual reality技術を活用した内視鏡外科手術教育.外科,86(3):201-205, 2024.
5) 進士 誠一 , 横堀 將司 , 清水 哲也 ,他:Virtual Reality技術を活用した外科系臨床実習.日医大医会誌,18(1):98-104, 2022.

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