日外会誌. 126(1): 89-91, 2025
定期学術集会特別企画記録
第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(4)「外科診療における医師働き方改革―これまでの対策と今後の課題―」
1.医師の働き方改革
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厚生労働省感染症対策部 鷲見 学 (2024年4月19日受付) |
キーワード
医師の働き方改革, 女性医師, 医師偏在, 医学部定員, 地域医療構想
I.はじめに
本日は,医師の働き方改革についてお話しさせていただくが,制度そのものの説明というよりは,医師の働き方改革の背景を中心に紹介させていただく.
II.人口構造の変化
医療のニーズのほとんどは,人口構造の変化とそれに伴う疾病構造の変化により規定される.このため,2040年にそれぞれの地域において必要になる医療のニーズは,現時点ですでにわかっている.総人口は今後減少していくが,特に生産年齢人口が急減する.また,65歳人口は2040年すぎにピークがきて,75歳以上はさらにその10年後の2050年ごろにピークがくる.2000年から2015年ごろまでは高齢者が5割以上増加したが,その後は2040年まで徐々に増加していく状況.一方で,生産年齢人口に関しては,2025年からの15年で約17%も減少する.この結果,2000年には生産年齢人口8,000万人で高齢者2,000万人を支えていた時代から,2040年には6,000万人で高齢者4,000万人を支える時代がくるわけである.こうした中,2040年に現在のレベルの医療・福祉サービスを提供するためには,生産年齢人口の約2割の人が医療・福祉に携わる必要があると推計されている.日本全体の経済成長を確保するためには,この割合を多様な就労・社会参加,健康寿命の延伸,医療・福祉サービス改革などを通じて下げる取り組みを進める必要がある.
III.地域医療構想
前述のとおり,地域の医療需要は人口構造の変化とそれに伴う疾病構造の変化に規定されるが,医療提供体制の構築と維持には大きな資源,労力が必要となることから,それぞれの地域において,将来を見据えながら,地域の医療提供体制を進化させていく必要がある.日本の各二次医療圏ごとの,入院患者数,外来患者数,在宅患者数の変化をみると,入院患者数は地域において大きなばらつきがあり,都市部を中心に2040年移行も増加することが見込まれている中,外来患者については一部の大都市を除いてほとんどの地域で減少局面に入っている.一方,在宅患者はほとんどの地域で今後増加することが予想されている.
加えて,日本の7割以上の地域において,今後高齢者人口ですら減少することから,消化器の悪性腫瘍や心筋梗塞の手術数や入院者数は減少する一方で,大腿骨骨折などは手術数も入院者数も上昇することが見込まれている.
このように,地域によって,入院・外来・在宅患者数の推移や疾病構造の変化の状況は多種多様であることから,それぞれの地域がその地域のデータに基づいて,将来の医療提供体制を検討していく必要がある.
IV.医師数・医師偏在等
医師数は毎年増加しており,令和4年には34万人を超え,人口10万人当たりの医師数も40年前の約2倍となっている.医学部入学定員と地域枠の年次推移をみると,私が大学医学部に入学した平成2年には8,000人未満であったのが,現在は,9,403人まで増加しており,うち,地域枠が2,000人近くまで増加している.このように,入学定員が増加する中で,18歳人口における医学部進学の割合が急増している.私が大学医学部に入学した平成2年には1,000人のうち4人が医学部進学していたところ,令和6年現在では1,000人のうち8.6人と倍以上になっている.さらに,このままの入学定員数のままで推移すると2050年には約12人と約3倍となることに留意する必要がある.
こうした中,厚労省において医学部定員について議論がなされ,
・令和11年ごろにはマクロで医師の需給が均衡すること
・医師が増えすぎることにより医療の質の低下を招くこと
・医師総数を増やしても偏在問題の解決にはならないこと
などの理由により,医学部定員減員の必要性を主張する意見と,
・偏在対策がないまま削減を行うと偏在が拡大する懸念
・マクロでは需給が均衡するとしても,都道府県単位では需給が均衡しないこと
などの理由により,医師偏在対策を推進する必要がある意見があった.このため,当面の対応として,令和8年度の医学部定員は9,403人を上限とするとともに,実効性のある医師偏在対策,適切な臨時定員の配分方針について検討を行うこととなった.
こうした医師偏在の状況に対しては,これまでも取り組みを進めてきており,具体的には,大学医学部の入学定員に地域枠の設置,臨床研修医の募集定員の倍率縮小,都道府県別に募集定員上限数の設定といった取り組みを進めてきた.加えて,専門医の採用数にシーリングを設定し,地域・診療科偏在を是正するといった取り組みを進めてきた.さらに,都道府県において医師確保計画を策定するとともに,地域枠の医師のキャリア形成をサポートするプログラムを設けたり,認定医師制度の活用などを進めてきた.この結果,35歳未満の医師数は,医師少数都道府県では3割近く増加するなど一定の成果を上げてきている.
一方で,診療科別の専攻医の採用数を確認すると,全体では医師数は増加し,多くの診療科では増加している中,外科においては毎年800人台で横ばいとなっており,成果をあまりあげられていない状況でもある.35歳未満の男性医師については,外科に関しては,この12年間で1割以上減少している一方で,35歳未満の女性医師に限ると3割近く増加している.女性医師は医師全体の23%まで増加しており,医学部入学者数では4割程度まで増加している.こうした状況において,女性医師を適切に確保することが非常に重要であることが改めて認識される.今後,厚労省において地域偏在対策や診療科偏在対策の検討・とりまとめが行われる予定である.
V.医師の働き方改革
医師の長時間労働,不十分な労務管理,医師に業務が集中しているという状況を踏まえて,医療機関において,適切な労務管理の推進,タスク・シフト/シェアの推進,複数主治医制の導入,女性医師を含めた短時間勤務など多様な柔軟な働き方の推進を進めてきていただいている.加えて,行政からも医療勤務環境改善支援センターなどを通じた支援を行ってきた.それぞれの施設の特性に応じて連携B,B,C-1,C-2を取得していただきつつ,適切に医師の労務管理をしていただきたい.これまで,厚労省においては,平成28年,令和元年,令和4年に調査を行い,時間外・休日労働時間はすべての診療科で減少傾向にあり,外科においては,脳神経外科の次に多い状況ではあったものの減少傾向であった.厚生労働省では引き続き,地域の医療提供体制の状況を把握する取り組みを進めていきたい.
VI.おわりに
厚生労働省としては,引き続き,医師の働き方改革の状況等も踏まえつつ,地域における医療提供体制を適切に確保すべく取り組みを進める.
利益相反:なし
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