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日外会誌. 126(1): 86-88, 2025

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会員からの寄稿

遠隔ICU-外科医にとって導入のメリットおよび問題点

公益社団法人地域医療振興協会横須賀市立市民病院 

関戸 仁



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I.はじめに
遠隔ICUについて,欧米では2000年前後から普及し始め,その有用性が報告されている.医療の質向上,医師の負担軽減,地域格差の軽減などがメリットとして報告されている1).当院は,本年4月に遠隔ICUを導入した.僅か半年余りではあるが,自施設での経験を元に,外科医にとってのメリットと問題点について述べてみたい.

II.遠隔ICUの実際
当院の遠隔ICUは,横浜市立大学附属病院集中治療部を支援施設として運営している.ICUは4床で,すべて支援施設とセキュアなインターネット専用回線で接続されている.専用カメラで常時患者の状態のモニタリングを受けている.生体情報,電子カルテ,画像も共有されており,すべての患者情報がリアルタイムで共有されている.
院内に集中治療専門医は不在で,ICUに入室させた診療科が専属で治療に当たっている.これまでは,人工呼吸器管理方法,鎮静・鎮痛剤投与などは各主治医が独自に行っていた.
【症例1】50歳代男性.脳出血で穿頭血種除去術施行.人工呼吸器管理7日目,Weaningに向けて呼吸器の設定を,PEEP2, PS3としていたが,「気管内挿管時は,ストローをくわえて呼吸しているような状態なのでその設定では患者さんが苦しい.PEEP5, PS5~8位が良いと思います.」との助言をいただき,設定変更,無事抜管,ICU退室となった.
【症例2】70歳代男性.心筋梗塞PCI加療後.深夜に突然心拍数の増加あり,看護師らは他の患者のケアに当たっていて気付かず.支援施設医師から専用電話で問い合わせあり.不穏状態となっていた.看護師が患者の訴えを丁寧に傾聴することにより,平穏となり入眠,事なきを得た.

III.導入のメリット
メリットの一つ目は,医療の質の向上である.特に人工呼吸管理は院内の取り決めはあるものの,これまでそれぞれの診療科が独自に行っている状態であった.症例1の如く,支援施設ICU医師からのアドバイスにより設定を変更したり,weaningへ向けての設定変更がスムースに行えるようになった.輸液組成の変更,電解質補正,血管作動薬の使い方など,集中治療専門医の知識レベル,診療技術は非常に高度であり,大学病院の集中治療室の医療環境に徐々に近づいていると感じている.地域格差軽減の一つと考える.
二つ目は,看護の質の向上である.カンファレンスは毎日,平日の午前9時15分から開始している.外来診療が開始されている時刻のため,カンファレンスで患者の状態のプレゼンテーションを看護師が代行することがある.集中治療専門医とDiscussionすることで看護師の医療知識レベルが向上したと感じている.血管作動薬については,これまで「時間3でいってます」と,単にシリンジポンプの数値を読み上げるのみであったが,「〇〇γμg/kg/min)でいってます」と報告するようになった.濃度と投与速度の重要性を認識するようになった.また,双方の看護師同士のDiscussionを通じて,看護関連資料の提供,当院では使用経験のない機器の紹介,使用推奨,体位交換の工夫など,支援施設看護師からの助言等により看護の質の向上も図られている.
三つめは,医療の安全の向上である.インシデントレポートについて,2023年4月から2024年9月までのICUにおけるインシデントレポート21件について集計すると,遠隔ICU導入以前の2023年4月から2024年3月までの1年間は17件,導入後の2024年4月から2024年9月までの半年間は4件だった.この間の病院全体のレポート数に著変は無かった.上記21件は,いずれもレベル3aまでであった.導入後は主に薬剤関連のレポートが減少していた.電子カルテの共有,患者のモニタリングなどを通じて,被支援施設における業務に対する緊張感の低下が防止されている可能性があると思われた.また,せん妄予防に関する助言などを通じてインシデントを未然に防止している可能性もあると考えている.さらに,カテーテル類の自己抜去予防につながるコメントをいただいており,医療の安全の向上に寄与していると考えている.さらに,生体看視アプリケーション「iBSEN DX®」を導入,生体情報等を集中的に管理し,早期警告スコアを数値化し,患者の急変を迅速に検知・表示することが可能で,遠隔モニタリングも行っている.
四つ目は,医師の業務負担軽減である.外科医にとって術後管理,重症患者のICU管理は重要な業務であるが,外来診療,日々の手術などの業務もあり常にICUに留まることは不可能である.遠隔モニタリングされていることから安心して外来診療などに専念できる.遠隔ICUはこの負担を軽減する有用な医療技術と考える.

IV.導入の問題点
次に問題点について述べる.まず第一は,導入費用が高額なことである.今回,われわれは,横浜市立大学附属病院集中治療部が獲得したAMED(日本医療研究開発機構)医工連携・人工知能実装研究事業の研究分担者として参加することで導入可能となったが,原資をどこから獲得するかは大きな問題である.第二は診療報酬上の評価が著しく低いことである.前述したメリットを精査し,適切な評価を希望する.さらに宿日直医師はICU単独業務を課せられており,医師不足に苦しむ病院では中々導入するのが難しいと考える.第三としては,患者に対する責任の所在である.現在,支援施設ICU医師は,助言するにとどめている.主治医の責任は遠隔ICU導入後も不変であり,医師の働き方改革への寄与はまだまだ少ない.また,宿日直許可の医師がICU当直を行えることになったが,ICU単独の当直体制である.指示から実施までのクリティカルなタイムラグが生じたことはないが,個々の医師の当直回数軽減にはつながっていない.第四として,支援施設ICU医師に何もインセンティブが設けられていない点が挙げられる.電子カルテを閲覧し,アセスメントする負担はかなり大きいと思われる.支援施設ICU医師のアセスメントと実際の患者の状態と乖離していたことは今のところない.この件で米国では支援施設ICU医師の医療訴訟も話題となっているとのことであるが,生体看視アプリケーションが寄与しているようにも思われる.第五として,通信システムがダウンした時の対応が問題となる.現在,支援施設からは助言を得ているのみであり,実際に医療・看護を行うか否かの判断はすべて被支援施設で行っており,今のところ大きな問題になっていない.

V.おわりに
日々のカンファレンスはWeb会議ツールを使用して行っているが,face to faceのカンファレンスで信頼関係が醸成されている.あたかも椅子を並べ,電子カルテを一緒に見ながらカンファレンスを行っているかのような状況にある.地方の中核病院には集中治療専門医が不在の施設が多いと思われる.このような病院が被支援施設となり,遠隔ICUのメリットが広く浸透することを願っている.

 
利益相反:なし

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文献
1) 中西 智之 , 森口 真吾 , 鴻池 善彦 ,他:日本における遠隔ICU.日交通科会誌,20(2): 3-8, 2020.

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