日外会誌. 126(1): 70-71, 2025
手術のtips and pitfalls
動脈スイッチ手術のtips and pitfalls
非典型的な冠動脈パターン(Intramural coronary)に対する動脈スイッチ手術
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埼玉県立小児医療センター 心臓血管外科 野村 耕司 |
キーワード
Intramural coronary, 動脈スイッチ, Unroofing
I.はじめに
完全大血管転位症(TGA)に対する動脈スイッチ手術(ASO)成績は安定してきたが,壁内走行冠動脈(Intramural coronary)を伴うASOの成績は未だ改善の余地がある.冠動脈移植はASO成績,遠隔期心機能に影響を及ぼす重要な手技である.本稿では壁内走行冠動脈の血行再建法と注意点について述べる.
II.壁内走行冠動脈の問題点
壁内走行冠動脈の移植上の問題点は①冠動脈口が扁平狭小②他の冠動脈口に隣接③斜めに鋭角起始④大血管間走行 が挙げられる.全ての術式に共通する重要な手技は入口部のunroofingである.十分なunroofingを行うことで外的圧迫・屈曲・捻転のリスクを軽減し得る.更に狭い入口部を拡げることで不利な起始角も克服され,隣接する冠動脈口が離れて術式の選択肢が増す.壁内走行例に対する冠血行再建法について述べる.
III.冠血行再建術式
① Aubert-Imai変法(図1)1)
無冠動脈洞壁を有茎フラップとして冠動脈基部を再建する,移植を要さない術式である.利点は①移植に伴う屈曲捻転を回避できる②手技が簡便で適応が広い 点が挙げられる.一方,左冠動脈が大血管間を走行する形態が残るため,遠隔期虚血の懸念や冠動脈空間と共有する肺動脈の狭窄リスクもある.
② Aortic Sinus Pouch 法(図2)2)
Aubert-Imai変法の利点を活かし隣接する二つのvalsalva壁を冠動脈ボタンを含めて一塊に切離し折り畳んでpouchを作成する術式である.移植が不要で手技は簡便ではあるが,大血管間走行を解消できない問題点が残る.壁内走行部の交連を跨ぐように畳むため,pitfallとして不十分なunroofingは血流障害を招きやすい.
③ Mee 法(図3)3)
入口部のunroofing後,左右冠動脈ボタンを別々に刳り貫いて新大動脈に移植する方法である.鋭角起始する左冠動脈の移植はunroofing後であっても屈曲・捻転のリスクがある.また縫合線に菲薄な冠動脈壁を一部含むため出血リスクも伴い難易度は典型例より高いが,移植をクリアすれば大血管間走行は解消され肺動脈からの圧迫リスクも少なく良好な予後が期待できる.



IV.まとめ
壁内走行冠動脈は血流障害を来たしやすく,十分なunroofingが救命に重要である.筆者はAubert術後遠隔期の左冠動脈閉塞例や,Aortic Sinus Pouch法からMee法へのコンバートを経験し,壁内走行TGAではMee法を第一選択としている.Aubert-Imai法,Aortic Sinus Pouch法は単冠動脈の良い適応であろう.
利益相反:なし
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