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日外会誌. 126(1): 52-56, 2025

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会員のための企画

米国における女性外科医の活躍

1) Roswell Park Comprehensive Cancer Center 
2) 横浜市立大学附属市民総合医療センター 乳腺・甲状腺外科

高部 和明1) , 成井 一隆2)

内容要旨
日本外科学会が女性外科医の活躍を促進する努力をはじめて久しいが,米国に比べて更なる改善が可能にみえる.そこで本会員のための企画では,日本で外科診療に携わる成井一隆が米国で乳腺外科を主宰する高部和明教授に質疑応答を行った.米国における女性外科医の現実や待遇のみならず,性別を問わない米国システムの一般についても多くの知見を得たので,ここに発表する.

キーワード
アメリカ, 女性, 女医, 女性外科医, 働き方

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I.はじめに
日本外科学会では2007年に女性外科医支援委員会が設置され,その後男女共同参画委員会,ダイバーシティ推進委員会と名称を変更,女性外科医の状況を調査・発信し,改善に努めてきました.2022年には日本外科学会の新入会員数女性割合は28.3%,女性会員の割合は10.8%に達しました.女性医師会員の専門医取得率も2022年には全体とほぼ同等となっています(全体39.6%;女性38.8%)1).さらに,2023年度代議員選挙では女性代議員選出率は14.2%となり,2022年の0.9%から大きく改善しました2).一方で,人口比率と比較するとその率は未だ著しく低いと言わざるを得ません.翻って米国においては,採用が非常に厳しく競争が激しいとされている外科研修においても約半数は女性が占めていると聞きます.そこで本稿では,本企画の担当幹事である成井が米国で過半数の乳腺外科医が女性である医局を主宰されている高部和明教授に聞きたいポイントを会員を代表して質問する形式で知見をまとめました.

II.質疑応答
──米国では外科のアカデミックポジションの多くを女性が務めていると聞きました.
世界をリードするトップ施設の乳腺外科主任教授をみても,メモリアルスローンケタリング癌センターはモニカ・モロー教授,MDアンダーソンはケリー・ハント教授,ダナファーバーはタリー・キング教授,ハーバード大学のブリガム・ウィメンズ病院はエリザベス・ミッテンドルフ教授,メイヨークリニックはジュディ・ボギー教授と,軒並み女性です.また,外科の学術誌のなかで最もインパクトファクターの高いJAMA Surgeryの編集長メリーナ・キビーはバージニア大学医学部長ですが,女性血管外科医です.米国最大の医療研究機関である国立衛生研究所(NIH)の長官は大腸腫瘍外科医のモニカ・バータゴノーリー,国立がん研究所(NCI)の長官はキムリン・ラトメルと二人とも女性医師です.
──米国で外科医になるにはどのような教育が必要なのでしょうか?
米国は4年制大学卒業後4年間の医学部,その後5年間の一般外科研修(レジデンシー)を修了しないと外科専門医受験資格がありません.レジデンシーでは厳密なカリキュラムがあり,術者としての経験数を含めた厳しい基準を満たす必要があります.症例の種類,数に男女差はありません.例えば,膵頭十二指腸切除で言えば,一人が5例以上執刀しなければレジデンシー修了できません.教育のための症例数を確保できない施設は,教育施設の指定を維持できません.特別な例外的配慮などは存在せず,人口の少ない市では大病院でもレジデンシーを維持できません.外科専門医は,試験合格のみならず3年おきの認定を受けた施設で術者としての経験症例数が満たされたということで,外科医としての質が担保されています.外科レジデンシー修了後には専門のフェローシップに進む者が近年増えました.
──日本では外科において女性医師の割合が低いのですが,米国の現状はどうですか?
一般外科レジデンシーは外科医の年収が高いこともあって狭き門なのですが,その約半数は女性です.現在,Roswell Park総合癌センターで外科研修を受けているレジデントは75名ですが,42名(56%)が女性です.
──大学病院での外科の研究やその指導とはどのようなものでしょうか?
一般的に,大学病院のスタッフと言えども一律に全員が研究をするということはありません.恐らく,過半数の米国大学病院の外科医は研究など行っていないかもしれません.私個人は,研究とは科学的思考で今ある問題の本質を探るものだと心得ているので,そのトレーニングはより良い臨床医を作ると考えています.無論向き不向きがありますが,基礎研究を行わずとも,学会発表や論文の執筆などは日常的に行うべきだと思います.そういう研究トレーニングを積むことで,臨床の現場で非典型的な症例に出くわしたときに科学的に事象を把握,解析,適切な診療に結び付くものと考えています.
──それでは外科医の働き方について.米国の外科医の実際の勤務時間を教えてください.
レジデントやフェローは,労働時間は週80時間以下,当直後は強制的に帰宅などの制限があるので,朝が早い分夕方には帰宅します.レジデント,フェローは研修する立場なので労働時間制限がありますが,スタッフとなった外科医は,職位が上がると管理職業務が加わるので勤務時間は長く,制限はありません.ただ研修医に比べてスタッフは給料が倍数なのと,事務員や他の医療スタッフでできる仕事は一切しないなど,日本の外科医に比べて時間的余裕は比較にならないほどあります.例えば消化器外科は乳腺外科に比べて入院患者が重症化する比率が高いですが,病状が安定していて手術や外来がなければ,昼の2時3時で帰宅する外科医もざらにいます.無論そういう人達は業績を挙げるのが難しいでしょうが.
──当直はどのように回すのでしょうか?妊娠中や出産前後は免除されるのでしょうか?
ホスピタリストと呼ばれる内科医は病院に常駐していますが,外科医が病院に物理的に泊まり込むという考え方はありません.当院乳腺外科スタッフはオンコール(電話待機)を1週毎に受け持ちますが,最初に呼び出されるフェローレベルで処理されることが9割で,私の経験では一年間で私の電話が鳴ったのは片手位です.よって,妊娠中でも不都合ありません.出産直後は一般的に産休を取っています.消化器外科のスタッフの当直は日替わりで月に2~3回っているみたいですが,これも全てオンコールで病院に来ることは非常に稀です.フェローは週一晩ペースのオンコールで病院に常駐しませんが,これは癌センターだからで,外傷外科やAcute Care Surgeryなどはその限りではないです.
──外来では一人の患者にどの程度の時間をかけて診療し,週に何人くらい診察するのですか?
人によりますが,私は週1日,20~30例くらいを担当します.私は,初診が9人まで,術前が6人くらい,術後初回が6人くらいで,そのほか検査結果の説明などで5人くらい,合わせて25人くらいを診ています.外来では,NP(ナースプラクティショナー)やPA(フィジシャンアシスタント)といったAdvanced Practice Provider (APP)という看護師の上位資格者が,予診や検査予約など一通りこなしてくれます.近年では医師とAPPがそれぞれ別個に外来患者を担当する施設も増えているとか.私の外来ではまずAPPが患者さんの病歴聴取,身体所見と診察,治療方針の説明,カルテ記載と検査治療薬オーダーをしてくれている間に,私が更に30~40分程度乳癌の病態,治療,更に臨床試験について話をします.私が終わったタイミングでナースが手術当日の具体的なロジスティックスや臨床試験コーディネーターがおおよそ30~40分話します.
──給料はどのように決まるのでしょうか?
施設や働き方によって変わります.大学やがんセンターなどは,診療科別の州や地域の中央値が発表されているので,それがベースになります.乳腺外科は一般外科の範疇なのでその中央値に合わせることが多いですが,個人の交渉が大きく影響します.ただ,統計を取ると同じランクの医師では有意差をもって女性外科医の給料が少なく,問題視されています.女性の方が男性と比較して交渉が苦手であることがその理由とされています.
──手術や外来で多くの患者を診察することによって報酬が増えたりするのでしょうか?
手術を多く行うと,原則として報酬は増えますが,個々の契約によって変わります.決まった月給が主体の給与体系で契約している外科医がいる一方で,インセンティブが主体の給与体系で契約する外科医もいます.米国では外科医といえども労働商品の一つなので,保険点数の高い高額手術を合併症なく多くこなせばこなすほど病院収入が増えるので一般的に給料は上がります.米国は自由市場なので,そのような人気外科医が待遇に不満があれば他施設に移ることに躊躇はありません.つまり,臨床収入を増やすことは病院の利益である以上に外科医の報酬,更には外科医の商品価値を高めることになるのです.
──日本では女性医師の就業率にはM字カーブ(結婚や出産の年齢で就業率が低下すること)があるとされます.米国の現状はどうですか?
米国では,結婚や出産を機会に離職するのは非常に稀です.米国の高等教育の学費は破格に高額で,米国の一般的な私立4年制大学の年間学費は日本の私立医学部のそれと同額で,医師になるには4年制と医学部4年の計8年分の学費と生活費がかかります.ほとんどの学生は学費を学生ローンで賄うため,借金総額が一億円を超えるのは珍しくありません.レジデントの給料は生活するのに最低限レベルなので,離職などしたら借金の返済方法に苦労します.よって,出産の際には産休を取得し,その後復帰します.
──産休・育休はどのような仕組みになっていますか?どのくらいの期間休めるのですか?
施設ごとに制度は異なりますが,当施設では産休は妊婦のみならずその配偶者にも適応され,病欠以外の有給休暇を組み合わせて7カ月まで休めることになっています.ただ,実際の取り方は個人で大きく異なり,スタッフは3カ月,APPは半年程度で復帰することが多いです.働いている間子供を預けるか保育を依頼するのは一般的で,仕事をしたいのに子供を育てるために休まなくてはならないというのは聞いたことがないです.そもそも米国では共働きが一般的なので育児サポートの施設も人員も山ほどチョイスがある上に,勤務時間拘束は日本に比べると著しく短いので,パートナーなどの家族も余裕をもって協力できる印象です.外科医の収入は圧倒的なので,性別に関係なく外科医の仕事を継続しその経済力で育児労働の多くを解決することが多いと思います.
──子供が熱を出したらどうするのですか?
シックリーブといって,日本語で言う病欠を取ってますね.ファミリーエマージェンシーだと言われて,それをカバーするのを文句言う人は見たことがないです.そもそも日本の大学病院に比べて米国のスタッフは一般的に一人当たりの仕事量は比較にならないくらい少なく余裕だらけなので,他の人をカバーするのも問題視しません.
──日本では昔に比べ女性医師の割合が増えたため,女性が働き続けられるような仕組みやサポートが必要と言われています.米国での女性医師のサポート体制について.
女性という理由で病院が特別なサポートをするわけではありません.産休は本人が妊婦でなくても取れますし,女性同士のカップルも珍しくないです.病気で病欠する場合に,そこでサポート体制の議論にならないことと同様と思います.
サポートというわけではありませんが,個人の選択で週2,3日のパートで勤務することも珍しくありません.日本ではパートと聞くと,腰掛け,一時的なヘルプといったいかにも半人前のような見方があると思うのですが,米国では単に短時間労働を選択しているスタッフという認識です.私のチームにも過去20年以上週二日しか働かないパート女性外科医がいますが,臨床的に評判が極めて良く,高く評価されており最近講師に昇進しました.パート医師が重用されリスペクトされている状況は,日本とは異なる気がします.
──日本では,大きな病院や大学病院では人事を医局が取り仕切っています.米国では,医局制度はあるのでしょうか?どのような人事制度なのでしょうか?
米国では医局制度のように,所属施設を超えて雇用関係のない施設へ人事権が及ぶということはありえません.人事権はあくまでも雇用関係の上に成り立っているものだからです.日本の国公立施設の人事はポストが固定されている印象を持っています.米国では良くも悪くも資本主義的に収益によってポストが簡単に増減します.
──日本では最近,管理職になることが倦厭されています.報酬は増えず,責任は重く,日常臨床の仕事に加えてマネージメント業務を行う管理職は倦厭され,管理職罰ゲームなどと言われています.
米国において管理職は成功者なので,希望者は多く競争は激しいです.第一に管理職は報酬がかなり増えます.第二に管理職には敬意が払われ様々な配慮がなされます.第三に自己裁量権が大きくなります.責任は重くなりますが,その分やりがいも増え,成長の機会も増えます.人にもよりますが,自分の野心が満たされることも魅力かもしれません.また,アメリカ的かもしれませんが,能力の低い人が管理職となってその下で働くとひどい目に遭うので,それならば自分がやった方が良いという考え方も背景にあると思います.
──「女医の敵は女医」というのは,子育てをする女医と,独身で仕事を中心に据えた女医との,仕事量や研究実績における軋轢を表しています.子育て中の女医が,早朝や夜の時間外の仕事を任せておきながら術者をやらせて欲しいというのは無理があるのではないか,というような具合です.米国でもそのようなことはありますか?
そのようなことはあまりないと思います.仕事量を減らすことが悪いことという意識はなく,個々の外科医が自分のバランスを選択するという感覚です.一方で多くの仕事をこなし研究業績を積み上げた者は評価されます.
手術については,術者の自覚は大切だと思います.外来で患者さんとラポートをとり,早朝術前チェックした上で術後を診られる医師が術者になります.勤務時間が短くともそれらを効率よくできれば術者ができますが,絶対時間数から長時間勤務の医師の方が件数が増えるのは当然だと思います.勤務時間に関係なく臨床なり研究なり達成した業績が評価されます.
──外科医の性別で違うと思うことや,男性,女性であることのメリットやデメリットがあると考えていることがあれば教えてください.
女性ならではのメリットはcompassion(思いやり)だと感じます.特に乳腺外科は患者さんのほとんどは女性なので,女性外科医は患者さんに寄り添う能力が高く,患者さんとの信頼関係を築きやすいです.また,人によりますが,女性は手技が丁寧で組織に愛護的な人が多いです.さらに,女性は身だしなみを含めて雰囲気に気を使っている人が多い印象を持っています.
──米国の医療機関でこれまでに印象に残っている人事のエピソードがございましたら,ご紹介ください.
日本では女性外科医が増えているということですが,米国ではLGBTQが増えてきました.私の施設では,現在,腫瘍外科フェロー8人のうち3人がLGBTQで,女性を自認する(誕生時)男性医師,男性と結婚している男性医師,女性と結婚している女性医師がいます.特別な配慮はなく,何の問題もなく,異性と結婚している医師らと同様に勤務しています.

III.おわりに
──日本においても女性外科医が活躍するためのヒントを教えてください.
働き方の自由度を高めることが日本で女性外科医が活躍するのに必須だと考えます.男性でも女性でも,才能や能力の優劣に関係なく,結婚や出産など人生において社会的にも重要なライフイベントは発生します.このようなライフイベントを体験できないような職種は倦厭され,職種全体の水準は下がってしまうでしょう.個々の外科医が特性を生かして活躍するためには,多様な人材を活用できる環境と,様々なライフイベントが発生した際にも仕事が続けられる柔軟なシステムが必要です.逆に言えば,働き方の自由度を高めることによって,性別にかかわらず個々の外科医の能力を高め,活躍の機会を提供し,その結果,外科全体のレベルアップにつなげられるわけで,それがダイバーシティ推進の本来の意義なのではないかと思います.
がん診療は,集学的治療であり多くの診療部門が必要になります.なかでも外科治療は侵襲が大きく,外科医以外にも麻酔科や臨床工学技士など複数の専門家を要します.対象領域も多岐にわたるため,自由な働き方を可能にするシステムづくりは容易ではないですが,日本の外科においてはこれを達成することが望まれているのではないでしょうか.

 
利益相反:なし

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文献
1) 平松 昌子 :理想の男女共同参画を目指して;日本医学会分科会における女性割合の変遷.日外会誌,124(6): 464-468, 2023.
2) 武冨 紹信 :会員へのメッセージ;56名の女性代議員が誕生しました.日外会誌,125(3): 192, 2024.

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