日外会誌. 126(1): 38-45, 2025
特集
少子化時代のこどもの外科医療のあり方
7.肝臓移植領域からみたこどもの外科医療のあり方
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国立成育医療研究センター 笠原 群生 |
キーワード
小児医療, 女性医療, 肝移植, 少子化, 移植外科
I.はじめに
わが国では晩婚化による未婚率増加などにより少子化が進み,2023年の出生者数は72.7万人と,著者が生まれた昭和40年台の3割程度に減少している.また合計特殊出生率は1.20と年々減少傾向にあり,総人口を維持するために必要な2.07を大幅に下回っている.政府も1994年から「子育て支援のための総合計画(エンゼルプラン)」,2000年「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画」,2005年「子ども・子育て応援プラン」,2012年「こども・子育て支援法」,2023年「こども家庭庁」創設など,様々な子育て対策の政策を有機的・包括的に進めてきたが,諸外国と同様に抜本的な少子化問題の解決には至っていない.難題で特効薬はないと考えるが,社会で若者をbiopsychosocialに支援することが求められるのではないかと愚考している.少子化で子どもの数が減少しているが,医療の進歩により医療的ケア児の数は年々増加傾向,複雑化する家庭・学校問題により子ども達の自己肯定感は低い.子どもの自殺数もOECD平均を上回り増加傾向にあり,小児医療・保険の需要は増加している1).実際,国立成育医療研究センターにおける小児外科系診療部門の年次別手術件数は,コロナ禍の手術制限で一時的に減少したが,直近10年間で概ね増加傾向にある.当センターに来院する患者は重症度も非常に高いため,小児外科系診療部の医師は多忙を極めているのが現状である(図1).
また小児医療の問題点として不採算性があげられる.小児患者は成人患者と比較して診察・採血・処置等に手間がかかり多くの人員を要する.昨今の人件費・材料費の高騰の影響もあり収支率のマイナス幅が大きく,多くの小児施設においても診療報酬制度で年間4~60億の不採算となっており,小児病棟を混合病棟化・閉鎖する医療施設も増加している(表1).小児患者数が少ないのに加えて採算が取れず投資ができないため,Drug lag/Device lagは小児医療領域で成人領域よりも多く認められる2).入院・外来診療共に減少傾向にある子ども達に,最善の医療を提供するための礎となる財的基盤不足で,地域の小児医療が維持できなくなる可能性があることを大変危惧している.
国立成育医療研究センターは,国の高度専門医療研究センターの一つとして2001年に設立された.センターでは2005年11月に小児肝移植術プログラムを開始し,2024年7月末までに872例の肝移植を実施してきた.臓器移植は尊い臓器提供者がいて初めて成り立つ医療であり,関わる医療者には患者と提供者への畏敬の念,自身の謙虚さが求められる.本稿では「肝臓移植領域からみたこどもの外科医療のあり方」について,国立成育医療研究センターの取り組みを含め概説させていただく.なお少子化時代の小児外科治療という壮大な課題であるため,雑駁な内容構成であることをご容赦いただきたい.


II.本邦の小児肝移植医療の現状と課題
わが国の生体肝移植は脳死肝移植が進まない状況のもと,1989年11月島根大学の永末らが胆道閉鎖症の末期肝硬変の男児に施行したのが初例である3).その後,粛々と症例が重ねられ,2023年末までに11,693例に肝移植が実施されてきた.日本肝移植学会の肝移植症例年次登録によると,2023年末までに3,962例の小児(18歳未満)肝移植が実施されており,年間小児肝移植症例数は約100例,10年患者生存率は脳死移植88.5%,生体移植86.3%と比較的安定した成績であると報告されている4).図2に本邦における肝移植症例数の年次別推移を提示した.本邦の肝移植は健常な成人の部分肝を用いた生体肝移植が主体であるが,近年脳死移植が増加している事がわかる.生体ドナーの安全性を100%担保することはできないこと,生体移植ができない臓器があること(心臓等),多臓器移植が必要な患者がいることから,生体ドナーの自発的臓器提供の意思に甘んずることなく,脳死臓器提供を推進してゆかなければならない.小児脳死肝移植は全小児肝移植中3.9%に過ぎない.当センターでは小児の脳死臓器提供が少ないため,成人の全肝を対外で分割し,左葉・外側領域を小児に,右葉を成人に移植する「分割肝移植」を積極的に実施しドナープール増加に努めている.図3に国立成育医療研究センターの肝移植症例数を提示する.2010年以降は年間症例数が約60~70例で推移し,国内で実施されている小児肝移植症例の60~70%を当センターで実施している.10年患者生存率は93%で全国平均と比較しても良好である.当センターでも少子化に伴い,外科系手術件数・肝移植症例数の減少が懸念されたが,良好な移植成績と学術論文発表による情報発信により比較的症例の集約化ができていると言える.
肝移植は消化器外科,肝胆膵外科,血管外科,マイクロサージェリー,小児外科など高難度外科技能の粋を集めた手術であると自負している.特に生体肝移植ではドナー安全性にpriorityがあるため,定型的な区域切除である生体ドナー手術修練にも時間がかかる.当センターでも若手医師に執刀機会を与えているが,執刀医は30歳以上のスタッフ医師が主体となる.また当センターの肝移植は平均手術時間がレシピエント8時間33分,生体ドナー4時間40分と比較的長時間の手術で,各施設で鋭意勧められている「医師の働き方改革」に抵触することがある.特に時間が未定・深夜開始の脳死移植の場合は,ドナーチームが提供病院付近へ前泊・機材準備・運搬・臓器摘出・Back tableを行う.休日の緊急手術が多くwork life balanceが良いとは言えない.このため当センターで移植外科は,高度技能習得研修C2水準で申請しているが,何らかの処遇改善を勘案してゆかないと,若手外科医に魅力的な職場にはなり得ない.一方で,本邦に生体肝移植実施施設は70施設あり,このうち小児生体肝移植に対応可能な施設は21施設ある.同様に脳死肝移植施設は28施設で,小児脳死肝移植に対応可能な施設は16施設ある.年間100例程度の極めて限られた小児肝移植症例数(小児脳死肝移植15~20例程度)であることと,人口が約半分の英国が生体脳死含めて肝移植実施7施設のみであることを鑑みると,小児移植施設および移植症例の均てん化・集約化が必要なことは明白である.小児肝移植拠点施設へ症例の機能的集約化を行うことで,高水準の医療を提供できる体制が整備でき,人的・財的資源の分散を防ぎ,若手外科医育成に拠点施設での研修が理想的となり得る.
一方,出生数の減少により子どもの数は減っているものの,個々の小児患者に対してより質の高い医療の提供が求められる時代でもある.臓器移植医療は免疫抑制剤の内服が生涯必要なため,長期間にわたり専門性の高い移植医療提供が包括的に必要とされている.幸い国立成育医療研究センターで後期研修を行った小児科医が全国に勤務しているため,当センター肝移植術後の患者は各地域で経過観察できる体制が確立しつつある.今後は均てん化と機能的集約化のバランスをどのようにとり,全ての患者に質の高い小児移植医療を提供しつつ,どのように若手外科医を育成するかが,われわれ指導医世代が取り組むべき重要な課題であろう.


III.移植外科医のMotivationと働き方改革
医学生や研修医にとって憧れの外科医像は,社会的威信・高度技能・命を救う能力をもつ医師と言われている5).一方で外科医は,その責任の重さ・精神的重圧・多忙さから,「燃え尽き症候群」になりやすいとも報告されてきた.外科医の燃え尽き症候群は,100時間以上/週の労働時間,劣悪な職場環境(自己決定権の無さ・上司や同僚からの無支援・重症患者数増加など),医療事故等で起きやすいと報告されている6).米国で行われた外科系14診療科別のCareer satisfaction調査では,燃え尽き症候群;1位 外傷外科,2位 血管外科,3位 泌尿器科(6位 移植外科,14位 小児外科),うつ病;1位 移植外科,2位 心臓・胸部外科,3位 外傷外科(9位 小児外科),心の安寧低下;1位 外傷外科,2位 移植外科,3位 一般外科,(8位 小児外科),もう二度と外科医になりたくない;1位 血管外科,2位 形成外科,3位 一般外科(13位 移植外科,14位 小児外科),子どもに自分と同じ診療科を勧めたくない;1位 血管外科,2位 一般外科,3位 心臓・胸部外科(13位 移植外科,14位 小児外科)と報告されている.あくまで外科医の自己評価ではあるが,移植外科医はややうつ病率が高いが,小児外科医と同様にCareer satisfactionは高く,子どもにも勧められる診療科であることがわかる6).本邦では日本移植学会の働き方改革委員会で「脳死下臓器摘出に関わる移植医の勤務実態」が調査されたが,比較的厳しい労務環境であることが判明した.移植外科医の勤務実態は①特定の移植医が脳死ドナー情報の第一報を受けることが多く,脳死下臓器摘出準備に強くコミットしている.②移植外科医は臓器摘出の準備から手術まで参加することが多く,長時間勤務が常態化している.③臓器摘出手術には約5名の移植外科医が参加している.④臓器摘出手術の後に休憩を義務づけている施設が少ないことが明らかになった.少ない労働力で働き方改革と同時に,①~④の課題を改善しなければならない.やりがいはあるが多忙な移植外科医のwork environmentを改革するには,一部の脳死臓器移植で運用されている互助制度(他施設連携)の積極的導入・手術機器および物品運搬の負担軽減・機械環流による保存時間延長・地域性を勘案した臓器斡旋などで,労務時間の短縮・人員の有効活用を考慮すべきである7).また若者の外科医離れが言われて久しいが,移植外科医も同様に高齢化・若手減少傾向にある.1994年から2020年までの診療科別医師数推移を見ると(厚生労働省令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-),麻酔科,形成外科,放射線科,精神科,皮膚科が増加している.これら診療科に共通するのは,当直・呼び出しが比較的少なく,勤務時間が見通せる事だと思われる.脳死移植は休日の深夜から実施されることが多いが,Sustainableな移植医療を考えるならば,常識的な時間に手術室が利用できるようにすべきであろう.私見ではあるが,尊いドナーの臓器提供により肝移植で死の淵から劇的に快復し,青春を謳歌している術後の子ども達を診療していると,われわれの行っている小児に対する外科医療は,大変やりがいがあり意味のある美しい仕事だと再認識させられる.当センターでは幸い症例数が多く,著者が壮大な将来の夢を常に語っているせいか,やりがいを求める移植外科の研修希望者は絶えない.一方で昔のように「やりがい,気合い,根性」だけでは人材は集まらないため,リーダーとなる医師自身が魅力を持って,具体的な職場環境改善や,将来の夢を提示しないとならないと考えている.
政治・行政機関・学会の努力により近年脳死臓器提供は増加傾向にある.一方で臓器移植に関わる業務の整備が,やや後手を踏んでいる状況にあるのは否めない.昨今の「臓器提供数の増加に対して脳死臓器移植施設の受け入れ体制が十分でない」という課題も,臓器移植はドナーの尊い提供の意思があって成立する医療であることを社会が充分に認知し,優先的に脳死臓器提供・移植を実施する医療体制整備を行うことが必要である.
IV.国立成育医療研究センターにおける少子化対策イニシアチブ
2019年11月に「成長過程にある子どもおよびその保護者,並びに妊産婦に対して,必要な成育医療を切れ目なく提供するための施策を,総合的に推進することを目的とする理念」である成育基本法が議員立法で施行され,2023年4月に「幼児期までのこどもの健やかな成長に向けた子育て支援や環境づくりに関する施策を一元的に推進する」ため「こども家庭庁」が内閣府外局に発足した.これまで「児童福祉法」「母子保健法」「児童虐待防止法」など,個別の法律で対応されてきた施策を連携し,こどもの健全な育成と療養環境の改善を目的とした行政機関が設立されたわけである.国立成育医療研究センターではこれら子ども支援・家族支援の施策を推進するため,2022年1月認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワークと協同して,「発達や情緒,身体面でのケアが必要となる子どもと家族のアドボカシーサポートプログラム」を開設し,2022年4月「すべてのこどもたちが,笑顔になれる社会を創ります」という理念を掲げ「成育こどもシンクタンク」を組織横断的・専門分野横断的なPlatformとして設立した.さらに2024年10月女性の健康や疾患に特化した研究,ビッグデータを活用した全国の研究機関・自治体の支援,企業等との連携の推進を図る「女性の健康総合センター」を開設した.女性が人生の各段階で様々な健康課題を有していることを社会全体で共有し,女性が生涯にわたり健康で活躍する社会を目指すことは少子化対策にも重要である.Seamlessに小児期から更年期まで伴走型支援を行い,性差を明らかにすることで,女性の健康や疾患に特化して研究を進め,少子化対策の礎になれるよう期待している.具体的には産後ケア・プレコンセプションケア・性差医学・フェムテックを含めたOpen Innovation Center等の実装を考えているが,一般男性の理解を得ることが,女性医療・研究推進における社会の意識・規範の醸成に最も重要な点であることは明白である.
V.少子化時代における海外での小児肝移植医療支援
小児外科手術の教育的側面からも,症例の集約化は喫緊の課題である.少子化の進行は避けられず,希少疾患が対象の小児肝移植においては,海外での手術研修も有益であると考えている.2005年に国立成育医療研究センターの臓器移植プログラム立ち上げから,国内外から手術見学者を受け入れている.2015年1月から2023年末までの8年間で国内264名,海外76名の研修を実施してきた.特にエジプトなど,死後にミイラで埋葬していたイスラム教の国では,宗教的に脳死臓器移植は困難である.ミイラ作成時に心臓以外の臓器をカノッポスの壺に保管し,死後の世界を安寧に旅できるよう祈念するため,死後に臓器を摘出することは不遜であり,必然的に生体移植による臓器不全の治療が主体となるからである.このような国々からの研修生を受け入れ,祖国での小児生体肝移植プログラム立ち上げに尽力してきた.エジプト,インドネシア,カザフスタン,サウジアラビア,イラン,ベトナム,モンゴル,カタール,インド,ネパール,パキスタン,タイ王国,中国,コスタリカ,メキシコなどで小児生体肝移植の手術指導を行ってきた.主に当センターの指導医3名で分担して海外手術指導を行っているが,若手移植外科医を1名同行し,海外の医療事情を経験してもらい,術後現地に1週間残留し術後管理および現地での手術参加をさせて頂いている.厳しい指導と思われるかもしれないが海外施設では手術症例が集約されているため,1週間滞在で数多くの一般外科・小児外科手術が経験でき,若手外科医には大変夢のある教育プログラムだと自負している.
VI.おわりに
子ども達は国の未来を担う希望であり力である.今後の小児医療従事者は疾病のみならず,子ども達がBiopsychosocial wellbeingでいられるようサポーター,そして子育てをするCare giverにとって良きアドバイザーになることが求められる.今後の少子化進行で小児肝移植適応患者数は徐々に減少してゆき,携わる若い医療者も減少してゆくことは否めない.Sustainableな小児肝移植医療体制を維持するために,家族負担が大きい生体ドナーの臓器提供意思に安住することなく脳死臓器提供を今以上に啓発し,移植施設や斡旋のRegion制・機能的集約化・収益化を計り,しなやかに移植医療を推進してゆくことが肝要である.多忙な小児肝移植医療の現場が医療者の「やりがい」だけで成立するのではなく,若手医師にとって魅力ある職場となり,子ども達と家族の夢を叶える場であり続けるよう願ってやまない.そのためにわれわれ外科指導医が変化を恐れず,若い医療者が憧れる臨床研修を提供しなければならない.尊敬する先輩外科医から頂いた言葉「忘己利他」「志高く雑巾がけ」を座右の銘に,著者自身がアクセル踏みっぱなしで外科医キャリアの終盤に至ってしまった反省はあるが,後悔はしていない.ただ自戒の意味も込めて,われわれ外科指導医は時代・世代・こども達に次世代へのバトンの渡し方を試されているのではないかと愚考している.
利益相反:なし
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