日外会誌. 126(1): 7-8, 2025
誰もが輝ける外科の未来へ
育児休業中のスキルアップの1例
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1) 地方独立行政法人市立東大阪医療センター 心臓血管外科 高井 佳菜子1) , 坂田 雅宏2) |
キーワード
女性外科医, スキルアップ, 妊娠・出産, 育児休業
I.はじめに
育児中の女性医師の就労については依然厳しい実態があると思われる.2021年に育児・介護休業法が改正された.この改正で配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者に関する育児休業取得の意思確認が事業主に義務付けられた.また,2022年より「産後パパ育休(出生時育児休業)」を産後8週間以内に計4週間取得することが可能となった.これには,男女の仕事と育児の両立のため,夫が積極的に育児参加できる体制を整えるという狙いがある1).現在男性の育児休業取得率は1割程度だが,男性の育児参加が進めば,働き方や少子化といった社会課題に変化が生じる可能性があると思われる.
確かに昨今は男性医師が育児休業を取得することも報告されている2)が,女性医師が休業を取得することが依然として多い.この期間中の過ごし方について私の事例を提示する.
II.事例
私は当施設で末梢血管外科分野の診療を担当している.自施設に下肢静脈瘤の血管内焼灼術を施行する医師がいなかったことから,育児休業明けに治療を導入すべく,学び直しの機会を得たいと考えた.そこで,下肢静脈瘤の専門クリニックである坂田血管外科クリニックの門戸をたたいた.育児休業中に計12日間,同クリニックでの見学を行い,下肢静脈瘤をはじめとする下肢疾患の超音波検査や血管内治療について勉強させて頂いた.子供の預け先については,育児休業中は就労証明がないため,認可外の保育園とした.クリニックでの見学中に子供の発熱で保育園へのお迎えが必要になり見学を中断したり,保育園で胃腸炎感染者が多く出た日には託児を避けるために急遽子供を連れてクリニックの見学をすることをご許可頂いたりといった,予期せぬ事態にも次々に遭遇した.クリニックの外廊下でガラスの哺乳瓶を床に落としてしまい哺乳瓶が割れ,通りがかったクリニックの医療従事者の方々の親切なご協力のもと,ガラスの破片を残さず清掃するというアクシデントにも見舞われた.このような波乱に満ちた見学の期間を経て,育児休業終了後に職場に復帰してから下肢静脈瘤血管内焼灼術指導医の資格を取らせて頂くことができた.また,出産前には,超音波検査を検査室に依頼していたが,育児休業後には,静脈疾患の超音波検査を一通り自身で施行することができるようになった.
III.考察
令和4年の統計3)によると,診療科ごとの女性医師の割合には大きなばらつきがあり,外科(診療科の詳細は引用文献を参照)の女性医師の割合は依然8.7%と低値である.このような女性医師の偏在の背景には,外科の労働時間が長く肉体的負担が大きいという理由のみならず,妊娠・出産に伴う離職が難しいという固定観念や,離職期間により外科手技のスキルが維持できない不安などが影響しているのではないかと考える.近年では,外科医の時間外労働時間を短縮させる様々な取り組みが散見され,当院でも複数主治医制,休日の病棟当番制など,外科医のライフワークバランスに配慮した体制が整えられている4).
私が今回,このような学び直しの機会を求めた理由として,特に外科医という立場では離職に対する不安が強かったことが挙げられる.手術手技については血管モデルを使用した吻合の練習を休業中に再開したが,それだけでは到底不安は拭えなかった.また,先輩医師で心臓血管外科医かつ研究者の野尻知里先生のご著書5)を読み,産後早期に職場復帰され国際学会で発表したというご活躍について知ったことが,自分にできる範囲で育児休業期間を過ごしてみようという考えにつながった.
クリニックへの見学申し込みは断られる可能性が高いと感じていた.学会や研究会への参加により築くことができたつながりに感謝すると共に,可能性が少しでもあるのであれば,自ら積極的に勉強の機会を求める姿勢は重要なのかもしれないと感じた.
見学に際する注意点として子供の送り迎えによる予期せぬスケジュール変更がありえるため,見学先の施設の先生やスタッフの方々との密な連絡,相談が必要であると思われた.
IV.おわりに
手術や診療を無給見学させて頂く時間を,育児休業中に捻出した事例について紹介させて頂いた.育児休業中の過ごし方,スキルアップ法の1例としてご参考になることを願う.
利益相反:なし
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