[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (718KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 126(1): 4-6, 2025

項目選択

先達に聞く

リアルワールドデータの臨床研究応用の現状と展望

日本外科学会名誉会員,国立国際医療研究センター 

國土 典宏



<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
特定の治療法の有効性など,医療において重要な問題に対して明確な結論を得るための手法のゴールドスタンダードはランダム化比較試験(RCT)である.しかし,RCTは,対象者の要件,治療方法,データの収集時点等を厳格に定めるため,適用できない疾患や状況が少なくない.特に外科領域では介入の複雑さ,learning curveの存在,適切なエンドポイントの設定が困難,など特有の問題が加わる.
それに対して,近年リアルワールドデータ(RWD)が注目されている.RWDとはRCT以外のあらゆる医学系データを指し,治療効果の比較等を行う場合には解析方法に工夫をこらす必要があるが,前述のようなRCTの多くの問題点はクリアされている.レジストリ,電子カルテデータ,レセプトデータが代表的なRWDである.外科領域でも今後活用が期待されるため紹介したい.

II.レジストリ
レジストリとは,特定の疾患,疾患群,治療等の医療情報の収集を目的として構築したデータベースのことで,予め入力システム等の形で項目を定めてデータを収集する.通常は医療者等がデータを入力するためその負担が大きく,転記によるデータの信頼性の問題も生じる.しかし,有効性の情報等,関心のある項目を設定してデータを得ることができ,有用性が高い.わが国では古くから多くの学会・研究会,研究班,各施設などいろいろなレベルで作成されてきた.最近,国立国際医療研究センター(NCGM)が代表を務めた厚生労働省のクリニカル・イノベーション・ネットワーク(CIN)推進拠点事業によって国内のレジストリの情報を集約し,個々のレジストリの利活用を検討できるようになった.この事業により,わが国の762のレジストリが登録され,その基本情報が検索可能となっている.創薬などへの第三者利用が一部始まっているが,本来アカデミックな目的で始まり,創薬などへの応用を前提としていないレジストリが多く,対策が求められる.
筆者が専門とする肝がんの領域では日本肝癌研究会が1960年代から始めた「全国原発性肝癌追跡調査」という世界に誇るべき患者レジストリが存在し,これまで多くの医学的知見が一流雑誌に報告されてきた.最近ではAIを用いて個々の症例に最適の治療法選択を提案する手法も研究レベルでは開発が進んでいる.これを社会実装するためには商用利用を目的とした第三者利用への道を開く必要があり,次世代医療基盤法の適用(丁寧なオプトアウト)や収拾するデータ項目や患者同意取得(オプトイン)などいくつかの見直しが検討されている.
日本外科学会など外科系学会が運営するNCD(National Clinical Database)も世界に誇るべきビッグデータであり,専門医の診療実績の基礎データとして用いられるとともに外科診療についての多くの知見が得られ公表されていることは言うまでもない.
これからレジストリを作成・運営する研究者等を対象に,レジストリ作成と運営に際して,留意すべき運営体制や予算の考え方,運営開始から終了までの手順等を整理した「レジストリ作成と運用の手引き」も公開されている(https://cinc.ncgm.go.jp/library/guide/).

III.電子カルテデータ
電子カルテデータは巨大な臨床情報データの塊であるが,現状ではデータを電子的に取り出すための設定変更や改修に手間とコストを要することと,医師のフリーテキスト記載から適切なデータを抽出すること等に課題があり,広く臨床研究で活用されるには至っていない.
NCGMは日本糖尿病学会と協働して糖尿病のレジストリJ-DREAMSを2014年から運用しており,電子カルテデータの電子的な取出しと,電子カルテ内にテンプレートと呼ばれる入力フォームを設置して,医師のフリーテキスト記載を構造化した形式での記載に転換することを試みている.2024年3月時点で73施設が参加し,102,000以上のデータが登録されている.
また,テンプレートはベンダーによって規格が異なるが,各ベンダーのテンプレートに変換できる汎用テンプレートの開発にも取り組んでいる.この方式はテンプレートをカスタマイズすることでがんなどの外科領域の研究や感染症にも対応できると期待される.最近,国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(JH)において六つのナショナルセンター8病院の電子カルテデータが6NC-HER方式で連結し,100万例近い症例データを利活用する基盤が完成した.

IV.レセプトデータ
レセプトデータは診療報酬明細書の通称で,保険医療機関が患者の傷病名と行った医療行為の詳細をその個々の請求額とともに審査支払機関を通して保険者に請求する情報であり,DPC (Diagnosis Procedure Combination), NDB (National Data Base)などが含まれる.DPCは全国の1,000以上の施設から収集された入院患者データベースであり,年間700万例を超える.詳細な診療履歴データに加えていくつかの臨床データも含まれており1),これを活用することにより外科に関する重要な知見が得られている.筆者も,超高齢者や透析患者の肝切除の短期成績などについて論文化し,報告した2) 3)
NDBは「高齢者の医療の確保に関する法律」を根拠に,2009(平成21)年から構築・運用されてきた.本来は国および都道府県が医療費適正化計画を立案する際に参照することを目的として作成されているが,2011年度以降は,有識者会議での審査を通過した場合には,研究者らにデータを第三者提供できる仕組みとなっている.NDBの最大の特徴は悉皆性で全保険請求情報の95%以上をカバーすると言われている.また,DPCデータではできない長期的な追跡も可能で,例えば進行がんの患者が6カ月受診がない場合は死亡とみなす,と定義すると簡易的ながら生存期間を推定することもできる.

V.おわりに
今後,RWDは,RCTとともに車の両輪となって創薬や新たな治療法の開発に外科領域でも役立つことが期待される.そのためにはデータの第三者利用への国民の理解と同意取得の簡素化,医療DXのさらなる推進,行政データなどとの連結などの対策が必要であろう.これに必要な法律改正も2024年9月現在検討中であり,改善を期待したい.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


文献
1) 康永 秀生 :DPCデータによる臨床疫学研究の成果と今後の課題. 医療と社会,26: 7-14, 2016.
2) Okinaga H , Yasunaga H , Hasegawa K , et al.: Short-term outcomes following hepatectomy in elderly patients with hepatocellular carcinoma: an analysis of 10,805 septuagenarians and 2,381 octo- and nonagenarians in Japan. Liver Cancer, 7: 55-64, 2018.
3) Shinkawa H , Yasunaga H , Hasegawa K , et al.: Mortality and morbidity after hepatic resection in patients undergoing hemodialysis: analysis of a national inpatient database in Japan. Surgery, 163: 1234-1237, 2018.

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。