日外会誌. 125(6): 585-588, 2024
定期学術集会特別企画記録
第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(1)「がん診療拠点病院とは―がん診療の均てん化を考える―」
7.いつでもどこでも誰からでもサバイバーシップケアが受けられる病院を目指して
1) がん研究会有明病院 乳腺センター 片岡 明美1)2) , 阿部 朋未1) , 植弘 奈津恵1)2) , 吉田 奈央1) , 松永 有紀1) , 春山 優理恵1) , 中平 詩1) , 高畑 史子1) , 井上 有香1) , 山下 奈真1) , 吉田 和世1) , 前田 哲代1) , 稲荷 均1) , 坂井 威彦1) , 中村 美穂2) , 濱口 恵子2) , 高野 利実2) , 渡邊 雅之2) , 上野 貴之1) (2024年4月18日受付) |
キーワード
がん診療拠点病院, 第4期がん対策推進基本計画, サバイバーシップ, Patient flow management
I.はじめに
当院では,それまで診療科や部署ごとに行われていた医療連携と患者・家族支援を包括的に行うため,2021年にトータルケアセンターを創設した(図1).センター内の医療連携部は,初診予約から退院後の生活支援までを一貫して管理するPatient Flow Managementを導入し,がん治療をスムーズに進めることを目指している.患者・家族支援部にはサバイバーシップ支援室があり,複数の診療科の医師,多部門の看護師,薬剤師,管理栄養士,公認心理師,医療ソーシャルワーカー(MSW),理学療法士,チャイルドライフスペシャリスト,事務員がいる.それぞれが専門知識と経験を活かして,がん治療中のその人らしい生活と治療後の長期的な社会生活の充実を目指した様々な取組みについて報告する.
II.サバイバーシップ支援の実際
1.アピアランスケア
患者調査2)では,がん化学療法中は痛みや悪心などの身体症状よりも脱毛や手術痕など外見上の変化が大きな苦痛であると報告されている.当院では,2000年から「帽子クラブ」というボランティア活動3)があり,2022年からは外来にアピアランスケアコーナー(図2)を設置し,ウィッグの試着,ケア帽子の提供,スキンケア指導をはじめ,様々な相談に乗っている.対応者はサバイバーシップ支援室の医師と認定看護師のみであったが,徐々に対応者が増え,2023年度末までに全看護師が対応を経験した.今年度末までに全薬剤師が経験する計画である.さら医療者向けの実演講習会やWEBセミナーによるレベルアップと情報発信も行っている.
2.両立支援
これまで仕事とがん治療の両立に悩む患者は,がん相談支援センターに自分で相談にいけばMSWや看護師が対応していたが,職員が患者の悩みを聞いても,スムーズに繋げる仕組みがなかった.2023年に両立支援チームを結成し,仕事を続けたいがなんらかの困難に直面している患者を早期に拾い上げ,がん相談支援センターに繋ぎ,主治医意見書を提供する流れを構築した.仕事の継続は経済面のみならず,患者のアイデンティティ維持にも重要である.
3.チャイルドAYA支援
小児から39歳までのAYA世代の患者は学業や就労,育児に関する心理社会的問題を多く抱えている4).当院では専用の質問シートを用いて悩みを把握し,月1回の多職種カンファレンスで検討している.また,「CAYAトーク」を企画し,若年患者同士の交流を図っている.さらに,「がんけんキッズ探検隊」を実施し,子ども達の不安軽減を目指しており5),最近は核家族や片親家庭の増加に伴うヤングケアラーや児童虐待のリスクに備えて「虐待防止のための対応フロー」を作成した.
4.妊孕性温存支援
初診時の共通問診票で全ての患者に将来の挙児希望について設問しており,希望がある患者には,がん治療と妊孕性への影響とその対策を記載したハンドブックを提供している5).専門医の受診を希望する患者には,担当医が相談に応じた上で院内の生殖医療専門医に繋げている.がんが治療により根治可能であり,妊孕性低下のリスクがある場合には,連携しているがん生殖医療の専門施設での妊孕性温存を行っている.
5.ACP推進
「みんなでACP」という合言葉のもと,多職種チーム医療としてACPを推進している.院内各所にACPパンフレット(図3)を配置し,希望者はいつでも手に取り,がんになっても自分らしい生活を送るための重要な事項について考えるきっかけとしている.ACPの実践では,時機をみて共通の質問用紙を用いて,個室で面談を行うことが多い.終末期の意思決定や最終的な療養場所の決定ではなく,患者の希望に沿った治療や療養生活に関する意思決定を支援するプロセスを重視している.面談内容は都度,共通のテンプレートに記録し,他職種や他施設との情報共有にも活用している.
III.おわりに
様々なサバイバーシップ支援をフローやマニュアルにまとめ,気になった症例の検討とその過程の記録は,情報共有と標準化に有用である.「すべてのがん患者が,いつでも,どこでも,誰からでもサバイバーシップ支援を受けられる病院」であるために,院外への情報発信を行い,社会全体でがん患者への支援の質を向上させるとともに,そうした社会づくりにも貢献することもがん治療専門病院の重要な務めと考えている.
利益相反:なし
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