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日外会誌. 125(6): 582-584, 2024

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定期学術集会特別企画記録

第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(1)「がん診療拠点病院とは―がん診療の均てん化を考える―」

6.地域がん診療連携拠点病院がん相談支援センターに寄せられる相談

星薬科大学 医療薬学研究室
東京大学医学部附属病院 がん相談支援センター

野村 幸世

(2024年4月18日受付)



キーワード
がん診療連携拠点病院, がん相談支援センター, がん対策基本法, アピアランスケア, インフォームドコンセント

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I.はじめに
平成18年にがん対策基本法が定められ,がん診療連携拠点病院等の整備が進められている.その中で,がん診療連携拠点病院にはがん相談支援センターの設置が義務付けられ,その任務は年々重くなっている.令和4年8月には新たな整備指針が発出され,さらに多くの業務が課された.この中で,まず最初に掲げられていることが「がん患者や家族等が持つ医療や療養等の課題に関して,病院を挙げて全人的な相談支援を行うこと」となっている.発表者は10年以上,地域がん診療連携拠点病院がん相談支援センターのセンター長を務め,寄せられた相談全てのサマリーに目を通してきた.当院のがん相談支援センターでは年間1,000件前後の相談が寄せられている.本発表では,この相談事例から学んだことを報告する.

II.相談の分類別相談件数
当院の特徴上,院外の患者からの問い合わせも多く,外国からの問い合わせもある.図1に東京大学医学部附属病院がん相談支援センターの2023年度のある月の相談内容分類別相談数を示す.この月の相談内容内訳で見ると,アピアランスケアが31件と最も多く,症状・副作用・後遺症が29件,不安・精神的苦痛が27件,治療法に関すること20件と続くが,その次に医療者との関係・コミュニケーションに関することが7件と続く.当院には,苦情に関する相談窓口は「患者相談」として別に設けられており,センターには苦情とは特定できない医療者との関係・コミュニケーションに関する相談がある.がん相談支援センターへの相談は必ずしも患者さんは実名を名乗る必要はなく,カルテとは分離されているため,相談対象の医療者は実名であることが多く,著名な外科医であることも例外ではない.

図01

III.相談事例
外科医が深く関連する相談事例を発表では三つ紹介した.ここでは誌面の関係上2例を紹介する.
相談事例1
・○○区在住の6○歳男性.相談者は本人.
・<主訴>肺がんの手術は,胸腔鏡かロボットか,どっちの方がいいですか.
・<経過>肺がんの手術を受けることになっている.これから,胸腔鏡かロボットか,最終的には本人が決めて下さいと言われている.どっちの方がいいですか.何かその冊子みたいなのは頂いたが,まだ全部読んでいない.それぞれメリット・デメリットがあるでしょう.手術は5時間ぐらいと言われている.迷っていたときに丁度そちらの電話番号があった.
・<対応>相談者の話を聴いた.話のあいだに医師からそれぞれの説明を聞いたかを尋ねた.相談者は,決めないと詳しい話はないようだ,渡された冊子は全部読んでいないと言う.一般的にロボット手術の方が細かい操作が出来るようだ,手術時間は準備が必要なので少し長いかもしれない,胸腔鏡とロボット手術のメリット・デメリット,手術時間の長さと喘息への影響,痛みと術後の回復の経過などを医師に訊き判断材料を揃えた上で決めてはどうかと繰り返し話した.相談者は,それぞれのメリット・デメリットを聞いて判断しようと思いますと言い謝意を述べて終話した.
相談事例2
・○○区在住の7○歳男性.相談者は本人.
・<主訴>取り切れた癌がなぜ再発しているのか.
・<経過>XX病院で胃と膵臓にがんがありステージⅣ,末期,手術は出来ないと言われ,臨床試験に入れてもらった.よく効いてこのまま治療を続ければいいかと思っていたら,内科の先生から手術をした方がいいと言われ,外科に行ったら胃と膵臓,脾臓等臓器を四つ取ると言われた.臓器を四つも取ったら,あとの生活に支障をきたすと考えて,〇〇大にセカンドオピニオンをしたところ,▲先生が大丈夫と言ってくれたのでこちらに来た.でも,手術は同じだった.術後にがんは取り切れた,もうがんは無いと言われた.その後抗癌剤治療を半年していた.11月のPETで最初は小さかったが再発疑いと言われ,この前のPET,2回目では,大きくなっていた.先生から薬を替えると言われた.自分でも先生に聞きたいことは訊いているが,いつも▲先生に押し切られる.手術したとき,全部取れた転移はないと言われた.でも,がんが出てきたのはなぜだろう?気力が萎える,食べられない,今迄出来たことが出来ない.治したい,・・・・・

IV.考察
患者は優れた手術だけではなく,人間として尊重された接し方を必要とする.後者が十分でないと,前者への評価もないと思った方が良いと思われる.また,病状や治療に関する説明は十二分に必要である.ただし,患者によって物事への理解度への違いはあり,患者によって,どの程度の説明が理解可能かつ必要と思われているかも,患者と接して読み取る必要がある.かと言って,過度に怖がらせてもいけない.その上で十分な情報を提供して自己決定を促す必要性がある.また,高飛車で大風呂敷を広げたような態度や説明は後からの誤解を助長する.きちんと科学的説明をする必要がある.
 掲示した事例においては,手術にて取りきれたのは,あくまで「肉眼的」に取りきれたのであり,それでも,ミクロには癌細胞が残存しているから再発するのである.そこのところをきちんと説明をしないと誤解を招く元である.

V.おわりに
外科医として最適な術式を選び,高度な技術で手術を行っても,患者とその家族が納得をし,気持ちの良い診療を受けないと,満足度は低いのである.外科医はその手術のスキルを磨くだけではなく,その技術に驕ることなく,全人的ケアが行えるよう,他人を理解する力,相手が気持ちよくコミュニケーションを取れる話力も磨く必要がある.

 
利益相反:なし

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