日外会誌. 125(6): 579-581, 2024
定期学術集会特別企画記録
第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(1)「がん診療拠点病院とは―がん診療の均てん化を考える―」
5.あなたはがん相談支援センター,どこにあるか知っていますか?
国立病院機構熊本医療センター 外科 丸野 正敬 (2024年4月18日受付) |
キーワード
がん対策推進基本計画, がん診療連携拠点病院, 相談支援, がんとの共生
I.はじめに
わが国のがん対策については,がん対策推進基本計画(以下,基本計画)に基づき,医療提供体制の整備等の政策が進められている.その中で,全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるよう,がん診療連携拠点病院等(以下,拠点病院)が整備されている1).拠点病院の指定においては,国が定める整備指針の中で診療実績や人的配置などが求められるが,それらと同様に,全人的な相談支援を目的にがん相談支援センターの整備が求められている2).
しかしながら,がん患者・家族の3人に2人ががん相談支援センターについて知っているものの,利用したことがある人の割合は,成人で 14.4%,小児で 34.9%とされており,がん相談支援センターの利用率が未だ高くないことが指摘されている1).基本計画の中で,取り組むべき施策として「拠点病院等は,がん相談支援センターの認知度向上及びその役割の理解の促進のため,地域の関係機関等と連携して,自施設に通院していない者も含む患者やその家族等への適切なタイミングでの周知に引き続き取り組む.」としており整備指針においてもやはり周知のための体制づくりについて定められている.
しかし,周知する主体とされている拠点病院側,つまりは拠点病院の医療従事者は,そもそもがん相談支援センターについてどれほど認識しているのかについてはこれまで議論の対象になっていなかった.そこで,今回当院の職員に対してがん相談支援センターに関するアンケート調査を実施することとした.
II.方法
アンケート調査はweb形式にて行い,無記名,選択方式(一部自由記載)とした.対象は当院の常勤職員ならびに専攻医,研修医の合計1,038名とした.
回答者の職種,経験年数に加え,日常業務でがん患者に接する機会があるか,当院ががん拠点病院であることを知っているかなど,合計10項目について調査した(表1).
III.結果
全体の29%にあたる302名より回答が得られた.職種は医師が76名(25%),看護師が161名(53%),その他の医療職が24名(8%),事務職が41名(14%)であった.経験年数は1~2年目が59名(19%),3~10年目が93名(31%),11年目以上が150名(50%)であった.
業務の中でがん患者に接する機会が「大いにある」,「ある」と答えた者はそれぞれ122名(40%),96名(32%)で,およそ7割ががん患者との関わりがある者であった.
がん相談支援センターに関わる質問については,当院ががん拠点病院であることを知っている者は272名(90%),当院にがん相談支援センターが設置されていること知っている者は254名(84%)と多くの者が認識していたが,当院のがん相談支援センターの場所を知っている者は146名(48%)と半数以下であった.また,実際に患者に対してがん相談支援センターの説明や案内をしたことがある者は51名(17%)と少数であった.
医師のみで抽出してみても同様の傾向で,拠点病院であることを認識している者は66名(88%)に対し,がん相談支援センターの場所を知っている者は22名(29%),実際に案内したことがある者は10名(13%)であった.
がん相談支援センターに患者を案内したタイミング(複数回答可,のべ54件)は「患者から希望があったとき」が40件(74%)と最も多く,「初診時」や「治療開始時」はそれぞれ11件(20%),25件(46%)であった.
IV.がん相談支援センターの周知について
整備指針においては,がん相談支援センターの周知について,外来初診時から治療時までにがん患者が相談支援センターを訪問できる(場所の確認も含む)体制を整備することや,院内のわかりやすい場所に掲示をすることなどが求められている.当院においても外来の待合室や院内の廊下などにデジタルサイネージでの掲示や,がん相談支援センターに関するチラシ,冊子が設置されている.その中には当院におけるがん相談支援センターの窓口の場所も記載されている.また,外来診察においてもチラシや冊子は設置されているが,今回の調査からは医療従事者側がそれらを未だ十分に活用できていないことが示唆された.
V.がん相談支援センターのイメージについて
自由記載としたがん相談支援センターのイメージについては「なんでも相談できそう」「気軽には行けなさそう」などといった漠然とした記載が多かったが,「仕事と治療の両立など療養上の制度について聞くことができる場所」「治療費や副作用について質問できる」など一定の認識を得られていることが分かった.
しかしながら,「何をしているか分からない」「まったくイメージがない」など,ここでも医療従事者側の認知度が低いことが伺えた.
また,「疼痛緩和を行うところ」「終末期の患者の相談にのるところ」といったいわゆる緩和ケア,終末期ケアを行う場として認識している記載が散見された.こういった記載が,「がん患者と接する機会が大いにあり」,「経験年数の高い」,「医療従事者からもされていた」.がん相談支援センターは相談支援を提供する場であり,医療行為を行う場ではないことが認識されていないと思われ,周知においてはただ知るだけではなく,正しく理解してもらうことの重要さが問われるところである.
VI.おわりに
がん相談支援センターは全てのがん拠点病院等に設置されており,医療従事者のがん相談支援センターそのものの認知度は高いものの,「実際の」がん相談支援センターの認知度を向上する必要があることがわかった.
がん相談支援センターを利用した患者の満足度は高いとされており1),医療従事者もがん相談支援センターを理解することで,診断早期からの相談支援に繋げることができ,がん治療の質の向上に繋がるものと考える.
今回の調査の結果を踏まえ,改めてがん診療に携わる多くの外科医に問いたい.「あなたは,がん相談支援センターがどこにあるか知っていますか」.
利益相反:なし
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