[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (867KB) [全文PDFのみ会員限定][検索結果へ戻る]

日外会誌. 125(6): 576-578, 2024

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(1)「がん診療拠点病院とは―がん診療の均てん化を考える―」

4.地方におけるがん診療連携病院における外科医の役割

福井大学医学部附属病院 がん診療推進センター
福井大学医学部附属病院 消化器外科

廣野 靖夫

(2024年4月18日受付)



キーワード
がん診療連携拠点病院, がん対策推進基本計画, 緩和ケア, チーム医療

このページのトップへ戻る


I.はじめに
筆者は消化器外科医であるが,大学のがんセンターや緩和ケアセンターを統括している関係で,日常業務でもがん診療連携拠点病院の要件を意識してきた.さらに2022年度の指定の際に当院が地域がん診療連携拠点病院から都道府県がん診療連携拠点病院へ昇格を目指すことになり,準備責任者として関わった1).担当者との事前協議や県の会議の過程で入れ替えでなく複数指定希望として追加申請することになった.厚生労働省のがん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会での結論は残念ながら“現状通り”となったが貴重な経験を得た2).この経験から現場の外科医が知っておいて欲しいことや役割を述べたい.

II.がん診療連携拠点病院に求められていること
今回,がん診療連携拠点病院等の整備指針の見直しポイントとして「更なるがん医療提供体制の充実」や「それぞれの特性に応じた診療提供体制」などが挙げられた2).含まれる項目はすべての診療従事者の緩和ケアへの対応能力向上,がんリハビリテーションの体制整備,がん相談支援センターの周知に向けた取り組み,希少がん・難治がんに対する対応,小児・AYA世代のがん患者に対する対応,妊孕性温存療法のための体制整備,高齢者のがん患者に対する対応であり,残念ながら外科医にとって最新医療技術であるロボット手術は入っていない.同様に拠点病院が毎年提出する現況報告書にもロボット手術の件数の記載欄はない.悪性腫瘍手術件数も報告するが基準値を超えているかが重要であり,地区内の順位ではない.先に述べた様々な医療体制の充足状態などの報告が目的となっている.学会の専門医数を記載する項目はあるが,この多寡だけによって施設認定に大きく影響することはなく,あくまでも参考データである.また対応可能ながんについて専門的な知識および技能を有する手術療法に携わる医師数は一人以上の配置が必要とされるが,通常は問題なく配置可能であり,それよりも緩和ケアチームの専任医師,放射線治療に携わる専従医師,専従の病理診断医などを一人以上配置することの方が地方病院では苦慮する場合があると思われる.
上記要件の方向性は,がん対策推進基本計画に打ち出されており,がん医療の充実させるべき項目には,放射線療法・薬物療法と並び手術療法が掲げられているが,そこには「患者が,病態や生活背景等,それぞれの状況に応じた適切かつ安全な手術療法を受けられるよう,標準的治療の提供に加えて,科学的根拠に基づく,ロボット支援手術を含む鏡視下手術等の高度な手術療法の提供についても,医療機関間の役割分担の明確化及び連携体制の整備等の取組を進める」と記されている3).ロボット手術に代表される高い技術を要する手術療法のような,全ての施設で対応が難しいようなものについては,医療機関間で連携し地域の実情に応じて集約化を行う等,連携体制の整備が必要とされ,がん診療連携拠点病院すべてが行うことは求められていない.
では,すべてのがん診療連携拠点病院で提供が求められているものは何かだが,まずはチーム医療の推進である.これは患者やその家族等が抱える様々な苦痛,悩み,負担に応え,安全かつ安心で質の高いがん医療を提供するために多職種によるチーム医療の推進が必要であるとの認識から,従来重視されてきた緩和ケアチームに加えて,口腔ケアチームや栄養サポートチームなどのチーム医療も提供体制の整備を進めることが求められている.緩和ケアは4期では「がんとの共生」項目から「がん医療」項目に変更となり,さらに重視されており,緩和ケア研修会の開催実績も拠点病院の指定には必須である.また,がん相談支援センターの設置や専従がん相談員の配置も必須であり,指針には「外来初診時から治療開始までを目処に,がん患者及びその家族が必ず一度はがん相談支援センターを訪問(必ずしも具体的な相談を伴わない,場所等の確認も含む)することができる体制を整備することが望ましい」とされ,外科医も自施設の相談員や支援センターの場所を確認して,患者やその家族に教えられるようにしなければいけない.

III.緩和ケアを含めたチーム医療
外科医は医療現場ではリーダー的な役割を果たすことも多く,がん治療や周術期管理などを通してチーム医療にも関わることが多いと思われる.実際,筆者がいる福井県や北陸では,拠点病院を含めた多くの病院で外科医が緩和ケアチームや栄養サポートチームに関わっており,筆者自身も現在両方のチェアマンを務めている.大きな病院に在籍している時は既存のチーム医療や多職種サポートから様々なケアを助けてもらっていた外科医も,異動先の病院では,がん治療の中心的存在として,手術以外の薬物療法や緩和医療などに従事することも多く,様々なチーム医療で活躍することが期待される.がん医療の現場で連携を通して外科医に求められていることを図1に示す.最初に述べたがん診療連携拠点病院の整備指針の見直しのポイントとして挙げられた多くの項目に対する理解・協力が求められている.

図01

IV.おわりに
外科医にとって最新技術の習得は言うまでもなく大切なことである.その上で,チーム医療の場でリーダー的な役割も果たせるように,多職種との連携を重視して日常診療に従事してほしい.また,診断時からの緩和ケアが提供されるように基本的な緩和ケアの習熟することを願う.外科医は病院の幹部になることが多く,がん診療連携拠点病院の要件に触れることも多いと思われ,意識していただければ幸いである4)

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


文献
1) がん診療連携拠点病院等の整備について.2024年8月29日. https://www.mhlw.go.jp/content/000972176.pdf
2) 第22回がん診療連携拠点病院等の指定に関する検討会 資料1.2024年8月29日. https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001040599.pdf
3) 「がん対策推進基本計画」(令和5年3月28日閣議決定).2024年8月29日. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001138884.pdf
4) 小寺 泰弘 :外科医が担うがんの緩和医療について病院を統括する立場で想うこと.臨外,77(10): 1146-1148, 2022.

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。