日外会誌. 125(6): 567-569, 2024
定期学術集会特別企画記録
第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(1)「がん診療拠点病院とは―がん診療の均てん化を考える―」
1.がん診療の均てん化への取組みの経緯と今後のがん診療拠点病院の在り方
国立保健医療科学院 福島 靖正 (2024年4月18日受付) |
キーワード
がん診療, 均てん化, がん診療拠点病院
I.はじめに
全国どこでも質の高いがん医療を提供することができるよう,厚生労働大臣は,全国に,がん診療連携拠点病院を461 箇所指定している(令和6年4月1日現在).また,小児・AYA世代の患者についても,全人的な質の高いがん医療および支援を受けることができるよう,全国に小児がん拠点病院を15箇所,小児がん中央機関を2箇所指定(令和5年4月1日現在)しており,さらに,ゲノム医療を必要とするがん患者が,全国どこにいても,がんゲノム医療を受けられる体制を構築するため,全国にがんゲノム医療中核拠点病院を13箇所,がんゲノム医療拠点病院を32箇所指定し,がんゲノム医療連携病院を219箇所公表している(令和6年4月1日現在).
これらの医療機関においては,専門的ながん医療の提供,がん診療の地域連携協力体制の構築,がん患者・家族に対する相談支援および情報提供等を実施している.
本稿では,がん診療の均てん化への取組みの経緯を振り返るとともに,今後のがん診療拠点病院の在り方について私見をのべることとする.
II.がん診療の均てん化への取組みの経緯
わが国において悪性腫瘍が死因の第一位になったのは1981(昭和56)年である.このような状況を踏まえ,1983(昭和58)年2月,老人保健法が施行され,胃がん・子宮頸がん検診が開始された.そして,1984(昭和59)年4月,「がんの本態解明を図る」をテーマとした「対がん10カ年総合戦略」(第1次)が開始され(昭和59年度~平成5年度),次いで,1994(平成6)年4月,「がんの本態解明から克服へ」 をテーマとした「がん克服新10ヵ年戦略」(第2次)が開始された(平成6年度~平成15年度).
一方,平成12年7月,森喜朗総理が「メディカル・フロンティア戦略」を国会における所信表明演説で表明し,この中で,初めて,「がん医療の均てん化」という言葉が公式に使われた.そして,平成13年8月,「地域がん診療拠点病院の整備に関する指針」が出され,平成14年3月,地域がん診療拠点病院の指定(当初は5か所)が開始された.地域がん診療拠点病院は,わが国に多いがん(肺がん,胃がん,肝がん,大腸がん,乳がん等)について,地域の医療機関と緊密な連携を図り,継続的に全人的な質の高いがん医療を提供するため,各都道府県において,地域医療計画等との整合性を図りつつ,2次医療圏に1カ所程度を目安に拠点病院を指定することとされたことを踏まえて,知事が推薦する医療機関について,厚生労働大臣が適当と認めるものとして指定するものであった.
しかし,指定要件が明確でない等の指摘があったことから,平成17年4月,「がん医療水準均てん化に関する検討会」から,拠点病院指定要件をできる限り数値を含めて明確化すること,地域がん診療拠点病院を診療・教育研修・研究・情報発信機能に応じて2段階に階層化すること,特定機能病院を指定の対象とすること等を提言する報告書が出された.これを踏まえ,平成18年2月に「がん診療連携拠点病院の整備について」(健康局長通知)が発出された.これが1回目の改定である.
平成18年4月にがん対策基本法が成立し,19年4月に施行され,同年6月,同法に基づく「がん対策推進基本計画」(第1次)が閣議決定された.これを踏まえ,20年3月,「がん診療連携拠点病院の整備について」(健康局長通知)が発出された.これが2回目の改定である.その後,平成26年1月,平成30年7月に,それぞれ第2次,第3次のがん対策推進基本計画を踏まえた改定がなされ,令和4年8月に現行の健康局長通知が発出されている.冒頭でも書いたように,平成6年4月1日現在,がん診療連携拠点病院は461箇所指定されているが,その内訳は,都道府県がん診療連携拠点病院51箇所,地域がん診療連携拠点病院348箇所(うち,4箇所が特例型),特定領域がん診療連携拠点病院1箇所,地域がん診療病院61箇所となっている.
小児がん拠点病院については,平成24年6月の第2期がん対策推進基本計画を踏まえ,同年9月に「小児がん拠点病院等の整備に関する指針」(健康局長通知)が発出され,平成25年2月に小児がん拠点病院が15施設選定され,翌26年2月には小児がん中央機関が2施設選定された.平成30年7月には,第3期がん対策推進基本計画を踏まえた整備指針の改定が行われ,平成31年4月,新たな整備指針に基づき,小児がん拠点病院を改選(15施設),小児がん拠点病院が小児がん連携病院を選定することとなった.さらに,令和4年8月,整備指針の2回目の改定が行われ,令和5年4月,新たな整備指針に基づき,小児がん拠点病院が改選された(15施設).
がんゲノム医療中核拠点病院等については,平成29年12月に,「がんゲノム医療中核拠点病院等の整備に関する指針」が発出され,令和4年8月に1回目の改訂が行われた(現行の指針).
III.今後のがん診療連携拠点病院等の在り方を考える際の視点
今後のがん診療連携拠点病院等の在り方を考える際には,がん医療の需要の変化を踏まえた提供体制を考えることが必要である.がん医療の需要の変化に影響を及ぼす要因として,高齢者人口の変化,がん種ごとのり患状況の変化,治療内容の変化といったものが考えられる.
第4期がん対策推進基本計画においては,「がん医療の高度化や人口減少等を踏まえ,拠点病院等の役割分担と連携が求められている」,「均てん化に加え,拠点病院等の役割分担と連携による地域の実情に応じた集約化を推進」することとされている.
希少がん・難治性がん対策としては,「希少がん中央機関を設置し,診断支援や専門施設の整備等を進めてきた」が「希少がんおよび難治性がんの薬剤アクセスの改善が課題」であり,今後,「高度かつ専門的な医療へのアクセス向上のための拠点病院等の役割分担と連携体制の整備の推進」,「薬剤アクセス改善に向けた研究開発や治験の推進」等が必要とされている.
小児がん・AYA世代のがん対策としては,「全国15か所の小児がん拠点病院と2か所の小児がん中央機関を中心とした,診療の一部集約化と連携体制の構築を進めてきた」,「小児がんの薬剤アクセスの改善が課題」とされており,今後,「地域の実情に応じた拠点病院等の役割分担と連携体制の整備」,「薬剤アクセス改善に向けた研究開発や治験の推進」等が必要とされている.
高齢者のがん対策としては,「高齢化に伴い,高齢のがん患者が増加している」,「拠点病院等における意思決定支援や,地域の医療機関や介護事業所等との連携に取り組んでいる」が,今後,「地域の関係機関等との連携による,個々の状況に応じた,適切ながん医療の提供体制の整備」,「高齢のがん患者に対する医療の実態把握」,「意思決定支援の取組推進」等が必要とされている.
IV.おわりに
今後の在り方を考えるとき,地域によって,現下および今後の高齢化の進展の程度,医療介護を含めた社会資源,地域社会の有り様等は大きく異なっていることを踏まえねばならない.地域の現下および今後のニーズに合う仕組みは,その地域でしか作れないのである.どのように地域をデザインするかは,行政や医療・介護関係者だけでなく,住民も当事者として参加することが大切である.そして,国は,地域がその地域にあった仕組みを作るための道具を提供することが必要である.
利益相反:なし
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