日外会誌. 125(6): 554-562, 2024
手術のtips and pitfalls
乳頭乳輪温存乳房全切除術-Nipple-sparing mastectomy-
内視鏡下乳頭乳輪温存乳房全切除術のコツ―非気嚢下外側胸単一切開法
亀田総合病院 乳腺科 福間 英祐 |
キーワード
小切開手術, 内視鏡手術, 乳頭乳輪温存乳房全切除術
I.はじめに
乳癌手術においてよりよい整容性を得るために,乳房の形状に配慮した乳房再建のみならず,整容的に目立たない部位から小切開で根治術を行ういわゆる小切開手術(病変直上切開でない)が普及してきた.その一つにライト付き筋鈎を用いた直視下乳頭乳輪温存乳房全切除術(nipple sparing mastectomy:以下,NSM)がある.さらに,本邦で1996年より内視鏡下NSM(以下,E-NSM)が開始され,傍乳輪切開,腋窩切開より内視鏡を用いることで癌根治性を担保した1).一方,2017年にToesca Aにより報告されたロボット支援下NSM(以下,R-NSM)2)では外側胸単一切開から行うNSMが合併率などで従来法と同等の成績と報告した.E-NSMは経時的に使用機器の低減,手術時間の短縮をはかり,また術式は大きく変遷してきた.本稿ではR-NSMと同様の外側胸単一切開で行うNSMの工夫と注意点について述べる.
II.外側胸単一切開の有用性
前~中腋窩線上で乳頭レベルに4~5cmの縦切開をおく.同切開の利点は直視下操作において,①前鋸筋,大小胸筋外側縁の露出が容易,②鎖骨下・乳房下溝への距離が均等であり同部組織の切離が容易,③術者が座位をとることにより,良視野で直視下大胸筋膜剥離が容易,④センチネル生検が容易,⑤同切開より大小胸筋間を剥離し人工物留置する再建が容易,などがあげられる(腋窩郭清が必要な場合には切開の延長,別切開での対応が必要).非気嚢下内視鏡下操作においても②のことが同切開の利点である.
III.適応
従来法のNSM適応に準じる.しかし,非気嚢下外側胸単一切開によるNSMは,R-NSMと同様にCカップまでの乳房サイズが適応である.漏斗胸などの胸郭変形がある症例や,術前に腋窩リンパ節転移と診断,あるいは疑いの症例は適応外である.
IV.手術の注意点
外側胸小切開であるため,癌根治の担保,術中出血への対処,切離範囲の同定がポイントになる.皮弁作成はメッツェンによる鋭的切離によるため,皮膚近接病変では熟練者による手術操作が必要である.大胸筋浸潤を疑う病変では内視鏡下に盆状切除を行う.術中出血は予防が重要であり,術前カラードップラーで内胸穿通枝の位置をマークする.胸骨傍ではバイポラーシザーを用いて組織を挟むようにして凝固切離していく.小切開から操作では操作位置のオリエンテーションがつかないことがある.術前に乳切位置の色素による点墨と体表を観察している助手との連携が重要である.
V.まとめ
非気嚢下外側胸単一切開によるE-NSMは整容面,コスト面で有用な術式の一つである.癌根治性の担保や術中出血への対処などに対し,本稿で述べたコツとポイントは有用であると思われる.
利益相反:なし
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