日外会誌. 125(6): 549-553, 2024
手術のtips and pitfalls
乳頭乳輪温存乳房全切除術-Nipple-sparing mastectomy-
乳頭乳輪温存乳房切除術+乳房再建―Oncologic safetyと整容性の両立―
聖路加国際病院 乳腺外科 吉田 敦 , 名倉 直美 |
キーワード
乳頭乳輪温存乳房切除術, 乳房再建
I.はじめに
乳頭乳輪温存乳房切除術(Nipple Sparing Mastectomy, NSM)は,乳頭乳輪を温存しつつ,乳腺組織を全切除する手術である.同時に乳房再建を行うことで高い整容性を保てることから遺伝性乳癌卵巣癌症候群のリスク低減乳房切除術に対して行われることが多い手術であるが,乳癌手術においても,全乳房切除術の選択肢として行うことがある.NSMでは乳房の前面に創を作らず,側方や下縁の切開を用いて手術を行うため,手術野の確保など,安全に手術を施行するためのポイントについて手術手技の工夫も含め解説する.
II.適応基準と除外基準
適応基準
A)早期乳癌であること
B)腫瘍乳頭間距離が十分確保されていること
C)患者の乳頭乳輪温存の強い希望があること
除外基準
A)皮膚や大胸筋に進展が予想される進行乳癌,炎症性乳癌
B)臨床上もしくは画像上,乳頭内までの病変進展が予想される場合
C)血性乳頭分泌があり,乳頭分泌細胞診で悪性の所見がある場合
これらの条件を満たす場合,NSMは乳頭壊死を回避しつつ,整容性を保ちながら,安全な乳癌治療を行う選択肢となる.ただし,大規模な質の高い臨床試験はないため,腫瘍学的安全性については注意が必要である1).
III.手術方法と説明のポイント
NSMは図に示した手順で行う.NSMに続いて乳房再建術を行う際にはTE(Tissue expander)を挿入することが多いが,SBI(Silicone breast implant)挿入や自家組織再建を行うこともある.
頻度は稀ではあるが,以下の点に留意する必要がある.乳頭の裏面の組織を残すため,この部位の再発が起こりえること.血流不全による乳頭の部分壊死,変形が起こりえること.再建乳房の形態から,乳頭位置の変位の可能性があること.乳頭の感覚は大きく低下する可能性が高いこと.
以上のことを踏まえながら,実際に手術後の写真を患者に供覧し,整容性の高さとその限界についてお伝えする.
IV.まとめ
腫瘍学的安全性(Oncological safety),手術の安全性(Surgical safety),美容的な安全性(Esthetic Safety)のバランスを考え,十分に患者説明を行う事が大切である.
利益相反:なし
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