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日外会誌. 125(6): 533, 2024

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会員のための企画

「異種移植の臨床応用を目指すための日本における課題」によせて

藤田医科大学 医学部呼吸器外科学講座

松田 安史



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移植用の臓器は慢性的に不足している.日本臓器移植ネットワークによれば2024年6月末時点で,心臓移植待機患者が835人,肺移植待機患者が611人,肝移植待機患者が409人,腎移植待機患者が14,263人,膵臓移植待機患者が154人,小腸移植待機患者が9人の合計16,281人が臓器移植を希望して待機しており,待機患者は年々増加している.しかし2023年脳死での臓器提供は132例,心停止下の臓器提供は18例であり,臓器移植を受けた患者は592人に過ぎず,移植を受けられないまま亡くなる場合もある.そこで日本はもとより世界的な臓器不足を解決するために遺伝子改変ブタの臓器を使用した臓器移植が行われ始めている.今後慢性的な臓器不足の改善に向けてブタを用いた異種移植は実臨床に応用されていくと考えられる.
異種移植では種を超えて臓器を定着させるため特有の課題がある.ブタに感染しているウイルスなどの病原体が臓器移植により移植されたヒトに感染する危険や,その病原体がヒト同士で感染するリスクが指摘されている.また異種移植に伴う拒絶反応や強い凝固・炎症反応が起きることが指摘されており,異種移植を推進するためにはこれらの課題を克服しなければならない.2016年には厚生労働省により「異種移植と感染症に関するガイドライン」が作成され,動物由来細胞のヒトへの移植指針が示されているが,遺伝子改変動物からの臓器移植を想定した国の指針はないため,「遺伝子改変動物由来の臓器・組織の品質・安全性に関する研究」としてガイドライン作成を目指す作業が2023年に開始された.ドナーとなる動物からの感染症や種を超えた移植臓器に対する拒絶反応が克服され,近い将来には遺伝子改変ブタから摘出された臓器が多くの命を救うことになるであろう.今回の企画が会員の皆様に,遺伝子改変ブタからの異種移植に関する情報提供の一助になればと考える.

 
利益相反:なし

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