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日外会誌. 125(5): 393, 2024

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特集

乳癌治療における手術の省略について考える

1.特集によせて

東京医科大学 乳腺科学分野

石川 孝



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手術は固形癌において最も大切な治療法であり,乳癌の場合は乳房と腋窩の局所制御が目的である.乳房に関しては,拡大手術が予後の向上に寄与しないことが証明されてから整容性を保つことができれば部分切除が基本になり,さらに種々の低侵襲性治療も開発されて,ラジオ波焼灼療法が最近保険適応になった.腋窩に関しては,臨床試験の結果に先行して縮小化が進んできた感があるが,センチネルリンパ節に少数の転移があっても腋窩の郭清省略を考慮する段階まで来ている.
手術術式は,その症例の化学療法の必要度によって大きく異なる.術前化学療法によって温存率が向上することが証明されて以来,化学療法が必要な症例に対しては術前化学療法が標準治療となった.さらに薬物治療の進歩によって病理学的完全消失(Pathological complete response:pCR)の症例が増えるとともに,non-pCRの症例に対して術後に薬剤を考慮する(Residual response guided treatment)と予後が改善することが報告されて,術前化学療法の適応が広がっている.さらにpCR率の上昇に伴ってpCRが予想できる症例に対して手術を省略する治療も現実味を帯びている.現時点ではResidual response guided treatmentの重要性や手術を省略した場合の経過観察の煩雑さなどから,最低限の手術は必要であると考えられるが,手術を縮小,省略する試みは多方面で進行している.薬物治療や画像診断が急速に進んでいることを考えると,手術を伴わない乳癌の初期治療が近い将来に実現することは確実である.今回の特集では乳癌治療における手術の省略に対する現状と展望を乳房と腋窩に分けて論じていただいた.

 
利益相反:
講演料など:ファイザー株式会社,MSD株式会社,第一三共株式会社,中外製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,日本イーライリリー株式会社
奨学(奨励)寄附金:大鵬薬品工業株式会社,日本化薬株式会社,協和キリン株式会社,中外製薬株式会社

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