日外会誌. 125(4): 371-375, 2024
手術のtips and pitfalls
多発骨折における肋骨固定術のtips and pitfalls
肋骨骨折に対する肋骨ステイプラー(KANI®)を用いた外科的固定術
深谷赤十字病院 外傷・救命救急センター 金子 直之 |
キーワード
肋骨手術, フレイルチェスト, claw-type plate, cerclage, 締結
I.はじめに
多発肋骨骨折に対して,かつては人工呼吸(陽圧換気による内固定)と除痛を主体とした保存的治療が推奨された1)が,治療期間の遷延や人工呼吸器関連肺炎合併が少なくないこと2),胸郭変形・呼吸機能低下・疼痛残存などによるADL(activity of daily living)の低下が問題となり3),近年はSSRF(surgical stabilization of rib fractures)が考慮される4).固定具に関してわれわれは現在,ステイプラー(KANI®,USCI Japan)とロッキングプレート(MatrixRIB®,DePuy Synthes, Johnson & Johnson, USA)を用いており,本稿ではKANI®の使用法と注意点について述べる.手術適応や,より詳細な手術法については参考文献5)
6)を参照されたい.
II.KANI®の使用法
KANI®はプレートと爪から成り,肋骨上下に爪を巻き込んで固定するclaw-typeである.6爪(53mm長)と4爪(37mm長)があり,より強固な固定を望むときや,粉砕がありその前後に長い距離が必要なとき,術野が十分広く取れるときは6爪を用いると良い.幅は16~24mm(2mm毎)があり,肋骨の実測幅+4mmを用いる.高齢者では実測10mmの場合があるが,その場合は16mmを用いざるを得ない.爪を巻き込むには肋骨上下で肋間筋を切離する必要があるが,外肋間筋だけで十分である.骨膜は剥離しすぎないようにする.
III.KANI®の利点・欠点,pitfall
最大の利点は,肋骨に沿った形を用手で容易に作成でき,固定が短時間で完了し低侵襲なことである.傍脊椎で彎曲が強い部分にも適用しやすい.またスクリューを打たないため軟骨も固定できる.ただし三次元に彎曲している肋骨に対し捻れと内外方向の彎曲については加工できるが,頭尾方向の彎曲については補正できない.KANI®はまた,KANI®同士を被せたり,MatrixRIB®に被せても使用できる.
一方で欠点は,固定力がやや弱いことである.爪の巻き込みは所定の鉗子で行うが,肋骨内面では十分に巻き込まれない.これを強くしようとすると,鉗子を強く握り込みがちであるが,これは避けるべきで,特に高齢者では骨を破砕する危険がある.われわれはケリー鉗子で巻き込みを補強している.骨折が大きな転位を伴っている場合や,術後に強い力が働いた場合,KANI®は外れる危険性がある.これを回避するためわれわれは,同社の胸骨閉鎖用ワイヤー「横綱」でプレートをcerclage(締結)しており,これにより術後の逸脱は経験していない.
IV.まとめ
SSRFの概念は古くからあるが,3DCTとチタン製専用プレートの発達により,海外では近年,再認識されるようになってきた.手術適応や詳細な手術法については確立されていないが,少なくともSSRFが保存的治療に劣るという報告はない.本邦ではまだ普及していないが,今後は積極的に行い,症例を集積して検討すべきと考える.
利益相反:なし
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