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日外会誌. 125(4): 368-370, 2024

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手術のtips and pitfalls

多発骨折における肋骨固定術のtips and pitfalls

ロッキングプレートによる肋骨固定

関西労災病院 救命救急科

高松 純平



キーワード
ロッキングスクリュー, バイコーティカル固定, 胸郭の安定化, 呼吸機能の改善, 疼痛緩和

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I.はじめに
ロッキングスクリューを用いたロッキングプレート(図1)による肋骨固定術(図2)は,固定性が高く本邦でも広く使用されるようになった.構造としては,ロッキングプレートにはロッキングホールというネジ切りされた穴があり,スクリューヘッドにまでネジ切りされたロッキングスクリューがしっかりと噛み合うことで高い固定性が得られる1).一方で,スクリューヘッドにネジ切りがされていないノンロッキングスクリューと違い,プレートに垂直にしか入らず,噛み合って回転が止まるとそれ以上には挿入できない.骨の厚さを測定してスクリューを選べば,胸腔内への過度な突出は回避できるが,肋骨湾曲部での固定ではプレートの圧着が甘くなることがあるため注意して確実なバイコーティカル(刺入する近位の骨皮質と対側の遠位の骨皮質を貫く)固定を心がける.

図01図02

II.ロッキングプレートの適応
肋骨は他の骨と比べると平坦でプレートを圧着させやすくスクリューを刺入しやすい.ただしどの方法が優れていたと証明した研究はこれまでにはなく2),文献的根拠をもって言えるわけではないが,肋骨にドリリングに対する耐久力がある場合はKANI(カニ)/肋骨固定用プレートのような爪で骨を把持するような固定の仕方よりも固定性が高いと考えられ,肋骨骨折の固定には適していると考える.一方で,Ⅲ.の2.でも述べるように脆弱な骨にスクリューを刺入すると骨が破損する可能性があるため,その場合はKANI(カニ)/肋骨固定用プレートの方が優れていると考える.

III.手術時の工夫
1.Three dimensional computed tomography(3DCT)や術直前のエコーによる確認:体位と皮切部を決定するためには,事前に3DCT(図3)や術直前のエコーを活用し,骨折部を把握し手術計画を進める.図4のような腹臥位や側臥位等をとった後にも触診やエコーで再確認を行う.
2.高齢者の骨の脆弱性への注意:スクリューを挿入する際に肋骨が破砕する危険性があるため,懸念がある場合は別の手段(KANI(カニ)/肋骨固定用プレート,固定を補強するためのワイヤーや太めの糸)も備えておく.
3.ロッキングプレートは骨折部を跨いで両側2箇所以上スクリューが挿入できるように長さを調整し,固定性を評価しながらスクリューをそれぞれ2箇所以上挿入する.

図03図04

IV.手術の注意点とpitfalls
1.スクリューの落下:セルフホールディングスクリュードライバーにスクリューを固定し使用するが,触れると容易に外れるため慎重に操作する.
2.スクリュー挿入困難事例:90°のスクリュードライバーを使用しても良いが,1~2cm程度で術野が飛躍的に良くなることもあるため術創を延長するか,別にスクリューを立てるホールの直上に小切開を加え,元の術創から確認しながら固定することも考慮する.

V.まとめ
胸郭の安定化による呼吸機能の改善,疼痛緩和のために肋骨固定術は重要な治療法であり,中でもロッキングスクリューとロッキングプレートを使用すれば高い固定性が得られる.

 
利益相反:なし

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文献
1) Cronier P , Pietu G , Dujardin C , et al.: The concept of locking plates. Orthop Traumatol Surg Res, 96:S17-S36, 2010.
2) de Moya M , Nirula R , Biffl W : Rib fixation:Who, What, When? Trauma Surg Acute Care Open, 27:e000059, 2017.

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