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日外会誌. 125(4): 333-339, 2024

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肺癌外科診療up to date

6.肺癌縮小手術における術前シミュレーション,腫瘍局在同定,切離線同定,切離縁確保戦略の最先端

東京大学医学部附属病院 呼吸器外科

長野 匡晃 , 佐藤 雅昭

内容要旨
近年,小型肺癌に対する肺縮小手術(区域切除または部分切除)の有効性に関するエビデンスが蓄積されてきており,肺縮小手術の適応と重要性はさらに増してくることが予想される.しかし,肺縮小手術においては,腫瘍の同定,切除マージンの確保,切離線の同定などが技術的に困難なケースが存在し,それが局所再発につながることで患者の予後に影響を与えかねない.本章では,肺縮小手術におけるこれらの問題点を解決するための方策として,術前シミュレーション,腫瘍局在同定,切離線同定,切離線確保戦略,それぞれについてこれまでの開発の歴史と最先端技術を紹介する.術前シミュレーションとしては,アプリケーションを利用した3D-CTやクロスリアリティ画像の最大限の利用が挙げられる.腫瘍局在同定の方法としては,術前マーキング法としてCTガイド下および気管支鏡下肺マーキングを,術中マーキング法として可動式CTの利用と術中蛍光イメージングを紹介する.切離線同定としては,VAL-MAPや術中CTマーキングによる肺表面の複数個所マーキングの有用性に加え,ICGを用いた区域間同定法や含気虚脱法について解説する.最後に,切除マージンを確保しにくい深部病変に対する,SuReFindやVAL-MAP 2.0のような中枢側マーキングを用いた切離線確保戦略を紹介する.

キーワード
肺マーキング, 肺縮小手術, 3D-CT, 切離線同定

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I.はじめに
1995年に縮小手術(区域切除および部分切除)と肺葉切除の前向きランダム化試験LCSG 821の結果が報告されて以降,長らく肺癌の標準術式は肺葉切除とされてきた.しかし,2022年にJCOG0802/WJOG4607Lの結果が公表され,病変全体径2.0cm以下かつ充実成分優位(C/T比0.5以上)の非小細胞肺癌において,区域切除の全生存期間が肺葉切除のそれを有意に上回ることが明らかとなった1).同様に,病変全体径2.0cm以下の非小細胞肺癌を対象として北米を中心に行われたCALBG140503の結果では,全生存期間に有意差はなかったが,縮小手術群で肺葉切除よりも呼吸機能が有意に温存されるというメリットが示された2).これらの結果を踏まえ,今後は小型肺癌における肺縮小手術の適応と重要性はさらに増してくることが予想されるが,肺縮小手術には幾つかの問題点が存在する.第一に,胸腔鏡やロボット支援下手術などの低侵襲手術が普及した現代手術において,術中に肺内の小型病変を触知することは困難であることも多く,腫瘍局在の正確な同定が難しいケースは少なくない.第二に,JCOG0802/WJOG4607L試験において,区域切除群で肺葉切除群よりも局所再発率が有意に高い結果であったことが示すように,予後に影響を及ぼしうる十分な切除マージンの確保が難しい場合がある.第三に,解剖学的に規定された肺葉切除とは異なり,縮小手術(特に部分切除)では切除範囲が主観的になりやすく,再現性に乏しいという問題がある.上記のような問題を解決するためには,術前に可能な限りの正確なシミュレーションを行い,術中に腫瘍の局在を的確に同定し,十分なマージンを確保した切離線を同定する技術が求められる.本章では,肺癌縮小手術における術前シミュレーション,腫瘍局在同定,切離線同定,切離線確保戦略,それぞれについてこれまでの開発の歴史と最先端技術を紹介する.

II.肺癌縮小手術における術前シミュレーション
肺癌手術を行う上で,肺門部血管や気管支などの解剖に関する詳細な情報を術前に収集し,それらの位置関係を立体的に理解しておくことは非常に重要である.3D-CT画像は,血管および気管支の分岐や破格の確認と解剖学的パターンの分類に有用であり,その画像に基づく切除プランニングや術前シミュレーションは,術式や切除範囲に関するチーム内のコンセンサスを得ることにも有用である.
2011年に松本らは,異なるオペレーティングシステムを持つ三つの3D-CT解析ソフトウェア(AW/OsiriX/CTTRY)の有用性に関して比較検討した3).区域レベルでの血管の描出に大きな違いはなく,どのソフトウェアも有用である一方,亜区域レベルの血管描出にはソフトウェアごとの違いがあり,正確性に欠けると指摘している.また,当時の3D-CT解析ソフトウェアは,画像構築をするのに時間がかかり,造影CTがないと肺動脈・肺静脈の分離が非常に困難であった.しかし,近年では,単純CTからも簡便に3D-CTを短時間に作成可能なソフトウェアが開発されている.その代表的なものが,REVORAS(Ziostation)4)とSYNAPSE VINCENT(富士フイルム)5)である.これらのソフトウェアでは,いわゆる「ワンクリック」で単純CTから3D-CT作成が可能であり,気管支・肺動脈の切離予定部位を指定することにより半自動的に区域切除解析も行うことができる.気管支あるいは肺動脈の切離予定部位それぞれから,独立した切除プランニングを立てることができるため,解剖の破格など様々な状況に柔軟に対応することが可能である.しかし,半自動的に抽出される肺動脈・肺静脈は,間違って抽出されることがあり,細い分枝については描出されない場合もあるため,ソフトウェアを盲信することなく,自分の目でCTを事前に細かく確認して手術に臨むという姿勢が依然として大事であるということに変わりはない.
さらに,最近ではバーチャル画像と実画像とを融合したクロスリアリティ(Extended Reality, xR)画像の発展も目覚ましい.徳野らは,事前に撮像された患者固有の3D-CT画像から得られたバーチャル像を,胸腔鏡下肺切除術を受けた患者の実際の手術ビデオから事後的に得られた手術シーンに対して位置合わせすることで拡張内視鏡画像を生成するソフトウェアを開発した6).これら医療画像のxRは,手術計画や手術時のナビゲーション,若手医師の医学教育等に幅広く利用されるようになってきている.

III.腫瘍局在同定
深部に存在する小結節の局在を術中に触診で確認することは,開胸手術においても困難な場合があるが,胸腔鏡による低侵襲手術では入っても指1本であるため,腫瘍触診がより困難となる.さらに,ロボット支援下手術では基本的に触診は現時点で不可能である.したがって,特に低侵襲手術においては,触診に頼らない腫瘍の局在確認が重要であり,これまでに様々な方法が報告されてきた.
CTガイド下経皮的マーキングは,CTで腫瘍の位置を都度確認しながらマーカーを経皮的に肺内に留置するものである.この方法で使用されるマーカーとしては,フックワイヤー7),マイクロコイル8),fiducial marker(小線源療法などで用いられる金属マーカー)9),色素10),放射性同位物質11)などがある.フックワイヤー法は,本邦で最も広く行われてきた方法の一つであり,マーカーの先端部に糸が連続していることで,術中に肺表面の糸を容易に確認することができ,術中透視を必要としない簡便で視認性が良い有用なマーキング法である.しかし,ごく稀に空気塞栓という致命的な合併症が発症しうることが最大のデメリットである.CTガイド下経皮マーキングの他のデメリットとしては,肺尖や肩甲骨裏など物理的に到達が難しい場合があること,血管や周囲臓器損傷などの危険性があること,気胸発症リスクが高いことなどが挙げられる7) 12)
気管支鏡下肺マーキングも腫瘍局在の同定に有用な方法の一つである.海外では,CTと電磁場データを合成して作成したバーチャル3D気管支鏡画像を用いて,リアルタイムに磁気センサーの位置情報をみながら,カテーテルを目的の位置まで誘導する電磁式ナビゲーション気管支鏡による色素マーキングが多く行われてきた13).本邦では,virtual-assisted lung mapping (VAL-MAP)法が2012年に開発され,現在では多くの病院で保険診療下に実施されている14).VAL-MAPは,バーチャル気管支鏡を利用して,経気管支的にマーキングが可能な病変近傍の肺表面部位を複数選択し,それぞれに気管支を通じてインジゴカルミンを噴霧する方法であり,1病変に対して複数のマーキングを同時に肺表面に置くことができるのが特徴である.インジゴカルミンなどの色素以外にもバリウムや造影剤を透視下に確認しつつ胸膜直下に注入する方法などもある15).気管支鏡肺マーキング法のメリットとしては,CTガイド下マーキングと比較して出血や気胸などの合併症頻度が少なく,空気塞栓が起こりにくいことが挙げられる(ただしpersonal communicationだが,経気管支マーキングで生検針を用いた際に空気塞栓を起こした事例が海外であったとされるため,先端が鈍なカテーテルを用いるべきと思われる).デメリットとしては,腫瘍近傍に位置する気管支の同定が困難なことがあること,目的とする気管支に技術的に挿入困難な場合があることなどが挙げられる16)
近年になって普及してきたのが,術中CTを利用したマーキング法である.術中に腫瘍近傍に金属クリップなどを留置し,CT撮影して腫瘍とマーカーの位置関係を確認したうえで切除するという方法である17).この方法は,全身麻酔下に行われるため患者がマーキングに伴う身体的負担を感じることがない.また,金属クリップの留置方法を工夫することで,幾度かマーカー位置について修正を加えることができるのもメリットの一つである.一方で,術中CTを施行するためには,Hybrid ORなどの設備ないしは可動式CTを準備しなくてはならず,施設によっては導入が難しい場合もある.また,術中CT撮影には放射線技師や麻酔科の協力が不可欠(肺をしっかりとInflationして,それを維持した状態でCT撮影をする必要がある)というのも留意点の一つである.
本邦では2024年3月時点で使用することはできないが,米国を中心に最近行われているのは,術中蛍光イメージング(Intraoperative Molecular Imaging, IMI)と呼ばれる腫瘍そのものを光らせて同定する方法である18).がん組織に特異的に高発現する分子(例えば葉酸アナログやEGFR抗体など)と近赤外光が当たると光る蛍光剤から構成される物質を体内に投与すると,がん組織に蛍光剤が特異的に蓄積され,術中に近赤外光内視鏡で観察すると腫瘍が光って見えるというものである.

IV.切離線同定
肺縮小手術における切離線同定は,部分切除と区域切除において意味合いが大きく異なる.部分切除においては,「いかに腫瘍から過不足ない切除マージンを想定した切離線を描くことができるか」ということが重要である一方,区域切除においては,「いかに正確に区域間のラインを描出することができるか」ということが重要となる.もちろん,隣接区域に腫瘍が近く,部分合併切除が必要な場合は,どちらの意味合いも含めた切離線同定が必要となる.
部分切除における切離線の正確な同定において大事なことは,複数のマーキングポイントを設置するということである.従来のフック型ワイヤーを用いたCTガイド下マーキングなどは,腫瘍に近接した部位に1箇所のマーキングをすることを基本とするが,1箇所のマーキングでは腫瘍の正確な局在(マーキングからの距離,方向)が定まらず,正確な切離線同定は難しい.VAL-MAPや術中CTを利用して腫瘍周囲に複数箇所(3箇所以上)のマーキングを置くことで,2次元平面における腫瘍の位置座標が確定される(正確には,腫瘍は肺内にあるため,中枢マーキングを併用した3次元座標の特定が有用であるが,これについては次章で詳細に説明する).これらの複数箇所のマーキングを指標にすることで,肺表面における過不足ない切除線を想定し,再現性の高い部分切除が可能になる.
区域切除における区域間同定については,区域間静脈の同定および剥離といった解剖学的操作に加え,含気虚脱ラインや色素を用いて区域間をより明確に同定する方法が開発されてきた19).色素による区域間同定法には,主にインドシアニングリーン(ICG)を用いるものであり,切除する区域の肺動脈を切離後に静脈ラインから投与する方法と切除する気管支の内腔から経気管支的に注入する方法が報告されている.静脈からICGを投与する方法は広く行われているが,赤外光胸腔鏡を必要とし観察可能時間が限られること,多くはないが描出不良な症例が認められるなどの問題がある.経気管支色素注入法では切離区域に色素を均一に拡散させることが難しく,区域間を超えて染まることで正確な区域間の同定が困難になる可能性がある.また,ICGを経気管支的に投与することは,本邦では保険診療上認められていない.一方で,含気虚脱ラインを用いる方法は,①肺全体を膨らませた後に切除予定気管支を遮断し,隣接肺区域の虚脱を待って含気虚脱ラインを同定する方法と,②切除予定区域気管支に術野もしくは経気管チューブにて選択的に送気し,切除予定区域を膨らませ含気虚脱ラインを同定する方法がある.前者は隣接肺の虚脱までに時間を要し,肺全体が膨らむことで胸腔鏡やロボット支援下手術では視野が悪くなる問題がある.後者の方法は短期間で選択的な送気が可能であるが,送気の圧力や流速などの調整に工夫や経験を要する.どの方法にもメリット・デメリットが存在するため,複数の方法を併用するなどしてより正確な切離線同定を安全に行うことが重要である.

V.切離縁確保戦略
局所再発をできるかぎり防ぐために,切離縁をどう確保するのかというのは外科医にとって非常に重要な問題である.これを解決するには,まずどれくらいの切除マージンを確保することが必要かということを考慮しなければならない.一般的には「腫瘍から切離縁まで2cmないしは腫瘍径以上のマージンを確保する必要がある」とされているが,これらの根拠となっている論文はそのほとんどが後方視的な観察研究であり,その切離縁までの距離の測定方法は論文によって様々であることからエビデンスとしてはそれほど確立されたものではない20).最近では,STAS陽性肺がんや,すりガラスを含む肺腺がんなど,切除マージンをさらに多く必要とする/一般則よりも少なくてすむ可能性があるものに関する議論もあり,今後のエビデンスの蓄積が非常に重要である.以降は,一般的に許容されている切除マージンに基づいて議論をしていく.
肺野末梢病変という定義として,「CT上,腫瘍の中心が肺野外套1/3より遠位に位置する」ということが使用されることが多く,JCOG0802/WJOG4607Lでも同様の定義がなされている.しかし,この定義に当てはまる腫瘍であっても,病変が比較的深部に位置しており,病変の局在によっては切離縁の確保に難渋することも少なくない.VAL-MAPの有効性を検証した多施設共同研究の結果では,必要な切離ラインの深さが術前CT上で3cmに及ぶと切除成功率が約10%低下することが示され,このような病変に対しては肺深部の切離線を規定するための中枢側のマーカーが有効になると考えられる.中枢側のマーカーとして現在保険適応となっているのがRadio frequency identification (RFID)技術を用いたSuReFind(ホギメディカル)である21).透視またはCTガイド下にナビゲーション気管支鏡を用いてマーカーを腫瘍近傍の末梢気管支内に留置し,CTによるマーカーと腫瘍の位置関係を把握後,専用の滅菌検出プローベを用いて術中にマーカーの局在を確認しながら肺実質を切離する.深部病変の十分な切除マージンを確保した肺切除において非常に有効な方法であるが,デメリットとしては,マーカー脱落の可能性,専用プローベを含めたコスト,気管支鏡技術およびバーチャル気管支鏡ナビゲーションなどの装備の必要性などが挙げられる.
また,現在薬事申請中である中枢マーキング法がマイクロコイルを併用したVAL-MAP2.0である22).これは,色素を用いる従来のVAL-MAPに加え,血管塞栓用のマイクロコイルを病変より中枢側の気管支内に留置し,適切な肺深部の切除マージンを同定する方法である.従来のVAL-MAPと同様,術前に気管支鏡下に色素でマッピングを施し,連続して気管支鏡下にカテーテルを通してマイクロコイルを留置するため,患者の負担は従来の方法とほとんど変わらない.部分切除の場合は,病変の中枢側のマージンを確保できる位置が理想的なマイクロコイル留置部位となり,区域切除の場合は,肺深部の区域間のマージンを担保できる位置にマイクロコイルを留置するのが理想的である.手術中には適宜X線透視を用いてマイクロコイルの位置を確認し,肺表面にマッピングした色素と合わせて3次元的に切離ラインを想定することができる.2024年3月の時点で保険診療として実施することはできないが,今後,保険診療として早期に実施可能となることが期待される.問題点としては,これらの気管支鏡を用いた中枢マーキングの機器については現段階ではコスト請求できないことが挙げられる.

VI.おわりに
本章では,肺癌縮小手術を安全確実かつ精度高く施行するための方法として,術前シミュレーション,腫瘍局在同定,切離線同定,切離縁確保戦略に焦点を当てて総括した.2023年4月には,福岡大学佐藤寿彦先生を会長として肺精密縮小手術研究会(PSR研究会)が発足し,今後も本邦から肺縮小手術に関する高いエビデンスレベルの研究報告が期待される.本稿が肺癌縮小手術に関する知識の整理,今後の診療に対する一助となれば幸いである.

 
利益相反:なし

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文献
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