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日外会誌. 125(1): 37-42, 2024

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特集

学会活動,診療・研究にSNS等のツールをどう活用するか

5.SNSを利用した情報共有から働き方改革へ

1) 熊本大学病院 低侵襲医療トレーニングセンター
2) 熊本大学病院 消化器外科

吉田 直矢1)2) , 江藤 弘二郎2) , 馬場 秀夫2)

内容要旨
これまで患者情報の伝達は,カンファレンス等で直接プレゼンテーションできる場合を除くと,主に電話で行われてきた.緊急性のあるイベントが発生した場合,当事者は電話で情報を伝え上司の指示を仰いできた.この場合,電話が繋がらないことがある,タイムリーに情報が伝わる医師が限られる,複数でのディスカッションが困難,画像等の視覚的情報を正確に伝えにくいといった問題があった.これらの問題点を解決するため,熊本大学消化器外科では2021年にTeamsを導入し情報共有に役立ててきた.当科の約3年の経験を基に,social networking service (SNS)を用いた情報共有の現状についてアンケート調査を行った.SNSは情報伝達の即時性,広範な拡散性という特性を持つことから情報共有に有用で,業務の時短や時間外呼び出しの減少等,働き方改革にも貢献する可能性が示唆された.

キーワード
SNS, 情報共有, 働き方改革

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I.はじめに
外科では急患,患者の急変,緊急手術,手術中のトラブル等,短時間で情報を共有し方針を決める状況にしばしば遭遇する.時間外にこのようなイベントが発生すると,当事者は主治医や上級医に電話で連絡し指示を仰ぐことになるが,患者対応を行いながら状況を伝え,的確な方針を決めることはときに困難となる.また電話では画像,映像の視覚的情報が送れないことから,underestimateによって事態の悪化を招くことや,逆にoverestimateによって必要以上に病院に医師を集めてしまうことに繋がる.さらには組織内で全く情報を得られないinformation loserができ,チーム診療に悪影響を及ぼす可能性がある.
これらの対策として,熊本大学消化器外科(以下,当科)では2021年から情報共有ツールTeamsを用いた連絡網の構築を行い,臨床情報の共有,教室内の連絡に利用してきた.social networking service (SNS)は情報伝達の即時性,広範な拡散性という特性を持ち,チーム医療を推進する上で有益な情報共有ツールである.SNSの有効活用は,業務の時短や時間外呼び出しの減少等,働き方改革に貢献する可能性がある.一方で,患者情報の第三者への拡散といった機密性に関するリスクが存在する.
これまでの経験から外科診療にSNSを活用することのメリット,デメリットを示すとともに,働き方改革におけるSNSの有用性についてディスカッションする.

II.当科における2020年までの情報共有の状況と問題点
2023年8月現在,当科は食道,胃,大腸の臓器チームからなる消化管グループと肝,胆膵の臓器チームから成る肝胆膵グループから構成される.各グループには1名のグループ長がおり,両グループを教授が統括する.77病床をスタッフ16名と医員,専攻医が管理している.
2020年まで急患,急変等の予定外の業務連絡は主に電話で行っていた.通常勤務帯は担当医が,時間外は当直がグループ長に連絡し(図1-①),必要に応じてグループ長が該当チームの呼び出しを行い,クリティカルな判断は教授の承認を得る(図1-②)という体制であった.緊急手術等の経過は担当医から教授,グループ長に報告していた(図1-③).その結果,該当チーム以外の医師,チーム内でも連絡を受けなかった医師はinformation loserとなり,数日間状況を知らないことも起こり得た.
当時の電話を用いた情報提供の問題点を挙げてみたい.電話というツールの問題として,①様々な理由で繋がらないケースがある,②画像,ドレーン性状等の視覚的情報を正確に伝えにくい,③複数名でのディスカッションが困難,システム上の問題点として,④タイムリーに情報が伝わる医師が限られる,⑤グループ長に時間外登院の負担が集中する,⑥報告内容から緊急性が判断できない場合,万が一に備え医師を多めに集めてしまう,⑦学会・出張等でカンファレンスを欠席するとしばらく状況が把握できない.

図01

III.SNSを用いた連絡網作成の経緯
2020年末,試験的にSNSを用いた連絡網を運用することになった.これに当たりアプリケーションをCybouz/Garoon,LINE WORKS,Google Workspace,Microsoft Teams,Amazon Workspaceの中から選択することになり,当院の医療情報企画部と以下の点について検討を行った.①医療機関向けセキュリティ機能を有する,②スマートフォン,タブレットで使用可能,③操作が容易でチャット・メール・ビデオ会議機能を有する,④管理者の設定,メンバーの追加と削除が容易,⑤安価,等合計28項目.主な検討結果を表1に示す.
最終的にTeamsを採用することになった.一番問題となったのはセキュリティで,患者情報のやり取りを行う以上,どのツールを用いても100%の安全性,機密性を担保することは困難と考えられた.例えば画像をスマートフォンで撮影してTeamsで送信する場合,それを受け取った医師が画面をキャプチャー,あるいは別のスマートフォンで撮影し,メールや他のSNSを用いて第三者に漏えい・拡散すると,犯人を特定することは困難となる.そこで画像データに関しては,スマートフォンで直接モニタを撮ることはせず,カルテから送りたい画像を選択して院内のTeams専用サーバーに送り,JPEG変換後に配信できるようにした.そうすることで,受け取った医師が画像を二次利用すると,誰がその行為を行ったか追跡できることを確認した.また情報の二次利用のリスクについて医師に指導を行った.
このようにシステムで情報漏えい対策を行いルール化することは必須であるが1),経過表,採血データ,画像,ドレーン性状等の患者情報は,直接画面をスマートフォンで撮影して送る方が簡便で時短効果が高い.臨床の現場では,ルール違反と理解しつつも利便性が高い方法を取ることが十分想定される.しかし当科では過去3年間,情報漏えいの問題は起こっていない.医師が患者情報を拡散するメリットは皆無であり,実際に危惧するような情報漏えいが行われる可能性は極めて低いと考える.ただし,第三者が医師のスマートフォンを見てしまうリスクはゼロではないため,端末のパスワードを難しく設定する,顔認証にするといった個々の対策は必要と考える.
なお,大学病院は頻繁に医師の異動,若手医師のグループ変更があるが,Teams内のメンバー変更は既存の機能を用いて容易に行うことができる.当科では人事異動を把握している医局長を管理者として登録し,異動の度に速やかに反映させている.Teamsのバージョンアップ等のメンテナンス全般は,大学病院の医療情報企画部が行っている.

表01

IV.Teamsによる情報共有の実際
当科においてTeamsで共有している情報は以下の通りである.①病院運営関連(手術予定表,総回診リスト,会議の内容報告)②通常診療関連(初診患者,手術終了・中止,当直の定時報告),③緊急診療連絡(急患,急変,重篤な合併症の発生,緊急手術,術中トラブル)④医局業務(研究会,説明会,その他の医局行事).また各臓器チーム,グループ内では,チャットを用いて⑤重症例の方針の検討,⑥患者相談等を行っている.当科では臨床に関連しない情報であってもTeamsで共有することを許可しており,例えば「研究会開始30分前,至急集合を」「急遽当直の交替を捜しています」といった比較的急ぐ内容は,メールよりもTeamsが良く利用されている.

V.Teamsによる情報共有のメリット,デメリット
Teamsが持つ最大のメリットは即時性と広範な拡散性である.これらのメリットは緊急性が高いイベントの際に特に有用で,ときに情報を見た急患のグループ外のメンバーから貴重な意見が送られてくることがある.また画像,映像が送れることもメリットである.例えばドレーンの性状,創部の異常所見,チアノーゼといった視覚的情報は,電話での伝達より遥かに理解しやすく有用性が高い.2023年8月に当科のスタッフ,医員,専攻医を対象に行ったアンケート結果を見ても,ほとんどの医師がこういったTeamsの持つ特性をメリットと感じていることが分かる(表2).
デメリットはメリットほど多くないが,どの程度の情報まで提供すべきかについては半数以上の医師が難しいと感じていた(表3).これは配信にどの程度軽微な案件まで含めて良いか迷うということよりも,どの程度重要な案件を直接電話で報告すべきかの判断が難しいという意味合いが強い.学生時代からあらゆる情報をSNSで共有してきた若手医師と電話で相談してきたスタッフには,この感覚にズレがあると推測される.また,いつでも即時性を持って広範に情報を送れることが,逆に常にTeamsを気にしておかないといけないストレスになることも挙げられた.時間外の情報発信は慎重に行う等,利用者内のルール作りが必要と考えられた.

表02表03

VI.働き方改革への貢献
SNSによる情報共有のメリットを働き方改革に役立てることが期待されている.当科のアンケートでは,時間外電話回数,時間外登院回数,時間外勤務時間,カンファレンス時間の減少等,SNSが働き方改革に有用であるという意見が少なからずみられた(表4).また精神的,身体的負担の軽減,睡眠時間の確保にも一定の効果がみられている.
以下,医師から挙がった具体例について述べる.①SNS導入前はイベント発生時に直属の指導医→中堅医師→グループ長の順に連絡が必要で,特に方針の食い違いがあると何度も連絡が必要になった.導入後はチャットを用いて複数の医師で状態変化を共有でき,調整の手間が省けた.②画像を送れることで緊急性の判断がつきやすくなり,以前は登院して対応していたことを当直に任せる,指示のみ行うといったことができるようになった.③週末は回診の結果をグループチャットで報告することで当院回数が減少し,また必要なポイントを簡潔にまとめる良い訓練になった.④手術室会議の結果や回診リスト等,必要な情報に直接辿り着けることが時短に繋がった.⑤上司に報告する際のストレスが軽減された.
SNSによる情報共有のメリットの一つである,information loserがいなくなることは,効率的な診療の運営に有用と考えられる.医師は所属チームに関係なく重症者情報を毎日目にするため,当直時にその患者がどのような状況にあるか把握しやすく,初動にかかる時間が短縮できる.ターミナルケアを行っている患者の看取り情報も有用である.どのグループが緊急手術に入り人手が不足している,あるいは手術が中止となり手が余っているといった情報は効率的な組織運営に役立つ.手術中の大量出血等で緊急事態宣言を発出する場合は,電話連絡と同時にTeamsを配信することで,より多くの医師の応援を得ることができる.このように少ない人的資源を効率的に診療に用い超過勤務時間を減少させることは,病棟医の疲労を減少させ,外科のsustainabilityに貢献する可能性がある.

表04

VII.おわりに
これまでの3年間でSNSを用いた情報共有の有用性を実感している.SNSを働き方改革に活用するメソッドを考え,有効なストラテジーを施設間で共有し発展させていくことは,外科診療の持続可能性を高め,最終的に診療のアウトカムの改善といった患者のメリットに繋がる可能性がある.

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版(令和5年5月). https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html

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