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日外会誌. 124(6): 578-580, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第123回日本外科学会定期学術集会

特別企画(5)「若手教育の光と影」
3.Wearableカメラを用いた手術の復習がもたらす効果

茨城県立こども病院 小児外科

益子 貴行 , 清水 咲花 , 清水 徹 , 渡邉 揚介 , 東間 未来 , 矢内 俊裕

(2023年4月29日受付)



キーワード
外科教育, Wearableカメラ, Non-Technical Skills for Surgeons, 双方向性

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I.はじめに
若手外科医の教育において,指導医(trainer)が同様の指摘を繰り返さなくてはいけない状況に際し,表出すべきではない失望感を露わにしてしまうということも少なくないと思われる.しかし,そんな指導医もかつては術中に受けた指導を業務後に復習しようにも多忙に紛れて忘却したという経験も少なからず持ち合わせている.小児期に手術が必要な先天性疾患は一定の頻度でしか発生しないため,少子化に伴い小児外科の研修医(trainee)が執刀できる症例数が減少することは自明の理である.また,医療は日進月歩であり,20年前には絵空事であった手術が日常的に行われ,日々生活している社会の変革も甚だしくdiversion&inclusiveといった20年前の医局には存在しなかった言葉も議論の余地なく受け入れる風潮になっている.したがって,現代の小児外科traineeにとって手術手技を効率よく習得すること,現代のtrainerにとっては自身の経験に偏らないストレスのない指導を行うことは本質的な課題である.当科ではtraineeがWearableカメラで手術を記録して復習しており(以下,本法),それによってもたらされる双方向性の効果を報告する.

II.Wearableカメラの活用方法
術中に使用しているWearableカメラは,重さ76g程度で,traineeの右側頭部に装着し,4K画像でブレ補正があり,録音と同時に録画ができる.バッテリーと接続すれば24時間でも撮影が可能であり,拡大鏡やヘッドライトも同時に装着できる(図1).業務終了後にデータをメモリーからダウンロードし,個人で再生して指導内容をsummarizeする.復習にも予習にも活用しうる.

図01

III.考察
当初は視覚的な手技の復習を想定していたが,術中の関心領域を拡大視できるわけではなかった.一方で,術野と音声を連結するとほぼ正確に指導内容を追想できることが判明した.この復習内容をもとに次回の手術を予習し,シミュレーターで補ってから手術に臨むことが可能である.こうした効果は意外にも,内視鏡手術においても有用であった.これまでスコープで記録した動画のみで学習していた内視鏡手術も,身振りや指示語によって受けた指導を追想しうるので,術野カメラの記録を見返すだけでは得られない手技のコツや注意点の理由まで復習できた(図2).助手として装着した際には,指導医の手術の進め方や行き詰まったときの雰囲気の改善方法も学習しうる.また,指導医がデータを見返すことで,術中に指摘した点や自分の発言を振り返ることが可能であり,指導の効率を改善し,感情的な発言の回避につながりうる.指導医にとっても教育効果があるといえる.
手術を画像のみで採点しようとする際には,traineeの手技の至らない点が目について減点法で評価しがちであるが,採点者が自ら指導している音声とともに採点しようとすると,手技の至らなさが指導力の足りなさに起因することに気づき,それにもかかわらず操作が達成できている点にも気づけるようになり,加点法で評価するようになっていた.何が足りなくてその手技が上達しないのかを指導医が気づくと,より指導力が向上し,それに伴ってtraineeの手技が向上することは若手教育の光となりうる.
手術の質の向上を評価する方法として,欧米ではOSATS1)やGOALS2)などの尺度が存在する.これらの評価方法は,採点者が主観に基づいて評価を行うものであり,本邦の外科traineeのみならず指導医にも馴染みが浅い.コーチングなどと同様に,評価する側とされる側がお互いに価値と必要性を共有していなければ,それぞれの採点に乖離が生まれることが想定され,その評価の整合性には疑念が残る.
そうした課題を踏まえると,Wearableカメラのより効率的な使い方として,お互いの気づきにさらなるシナジーが加えられるように,traineeのみならず指導者と供覧することを提案したい.しかし,多忙な本邦の外科医にとって,その時間を確保するのは容易ではない.早送りで再生しても手術時間の60%程度の時間を要するため,Aiなどの技術を駆使して編集し,より短時間で復習できるようになることにも期待したい.

図02

IV.おわりに
本邦の外科教育は発展の途上であり,それでもなお欧米を追随するのではなく,本邦ならではの様式で成熟するのが理想的だと筆者は考えている.
Wearableカメラを用いた手術の復習によって,手術手技のみならずNon-Technical Skills for Surgeonsまで復習しうる.また,音声と視覚を連結した復習は,開放手術のみならず内視鏡外科手術においても有効である.なにより,traineeばかりでなく指導医も,双方が互いに学び合える有用なツールである.

 
利益相反:なし

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文献
1) Martin JA, Regehr G, Reznick R, et al.:Objective structured assessment of technical skill (OSATS) for surgical residents. Br J Surg, 84:273-278, 1997.
2) Vassiliou MC, Feldman LS, Andrew CG, et al.: A global assessment tool for evaluation of intraoperative laparoscopic skills. Am J Surg, 190:107-113, 2005.

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