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日外会誌. 124(5): 453-457, 2023

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手術のtips and pitfalls

膵体部損傷に対する脾温存膵体尾部切除術

松戸市立総合医療センター 救命救急センター

村田 希吉



キーワード
膵損傷, 膵体部, 主膵管損傷, 膵体尾部切除

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I.はじめに
膵損傷は全腹部外傷の0.2~12%の発生頻度であり,比較的稀である.その治療は主膵管損傷の有無で大きく分かれるため,その評価が重要である1)
循環動態が安定しない場合は画像診断を後回しにせざるを得ないため,術中所見で診断をする.術中ERCPは可能であれば実施し,不可能な場合は半周以上の膵裂傷があれば主膵管損傷ありと判断する.循環動態が安定している場合,腹部造影CTで膵損傷を判断し,主膵管損傷が疑われる際にはERCPで診断を行う.主膵管損傷を伴う膵体部損傷(AAST分類GradeⅢ 日本外傷学会分類膵損傷Ⅲa型)は外科的切除の適応であり,膵管ステントを含む膵温存術は外科的切除に対し有意に死亡率合併症率が高く,慎重な判断を要する2)

II.手術
腹部正中切開で開腹する.胃を頭側に,横行結腸を尾側に牽引し,胃結腸間膜無血管領域から切離を進めると,網嚢腔が開放され膵前面の評価が可能となる.続いて横隔脾ヒダおよび脾腎ヒダ,脾結腸間膜を切離し膵下縁に沿って後腹膜を切開すると膵尾部を脾臓と共に脱転でき,膵後面の観察が可能となる.脾結腸間膜を切離せず下行結腸を左腎とともに後腹膜より授動するとMattox Maneuverとなり,膵の背面に加えて腹部大動脈,腹腔動脈,上腸間膜動脈が観察できる.
主膵管損傷を認め膵の切離部位を決定したら,脾動静脈を膵切離部位の近位で個々に結紮,切離する.続いて健側近位膵に小児用腸鉗子をかけ,魚口形にメスで切離し主膵管を同定結紮し,断端を縫合閉鎖する.自動縫合機を用いる場合,厚い組織に適したカートリッジを用い,十分に時間をかけて圧挫切離する.続いて脾門部で膵尾部と脾動静脈を切離し,膵体尾部を切除する.
膵体尾部切除の際の脾臓温存と摘出については生存率,合併症率いずれも両者に有意差を認めていない3).しかしながら術後の肺炎球菌感染等を考慮すると,特に若年者においては可能な限り温存を試みるべきである.脾温存の際に問題になるのが脾動静脈の温存である.膵の背側に沿って走行する脾動静脈は膵実質に相当数の血管を分枝しており,その一つ一つを結紮しながら脾動静脈を温存する手技は外傷手術の際に時間を浪費する.本稿では当施設で標準術式としている脾温存膵体尾部切除術(Warshaw法)について述べた.上記授動の際に胃脾間膜を温存することが重要であり,短胃動静脈により脾血流を温存し得る.

 
利益相反:なし

図1図2図3図4図5図6

図01図02図03図04図05図06

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文献
1) Mattox KL, Moore EE, Feliciano DV:TRAUMA Ninth Edition. Mc Graw Hill, New York, 2021.
2) 日本Acute Care Surgery学会:Acute Care Surgery認定外科医テキスト.へるす出版,東京,2021.
3) Ho VP, Patel NJ, Bokhari F, et al.: EAST Practice Management Guidelines. Pancreatic Injuries. J Trauma, 82(1): 185-199, 2017.

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