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日外会誌. 124(5): 382, 2023

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会員へのメッセージ

医療事故調査制度の現況

日本外科学会医療安全管理委員長,千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学 

大塚 将之



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2015年10月よりスタートした医療事故調査制度は8年目を迎えている.ここでいう医療事故とは,提供した医療に起因し,あるいは起因すると疑われる死亡・死産であって,それを予期しなかったもの,と定義される.対象となった医療事故が発生した場合,医療機関は,遺族への説明,医療事故調査・支援センター(以下,センター)への報告,必要な調査の実施,調査結果について遺族への説明およびセンターへの報告が法的に求められている.これらの報告(院内調査結果報告という)は整理・分析され,再発防止に役立てられる.医療機関または遺族から調査の依頼があったものについては,センターが調査を行い,その結果を医療機関および遺族へ報告されることもある.すなわち,本制度は院内調査,自主的な取り組み,を基盤としたものであり,医療者・医療機関のプロフェッショナル・オートノミーに委ねられている.その際,この制度の目的が,あくまでも医療事故再発防止により医療の質・安全を高めることであり,決して医療者・医療機関の責任を追求するものではないことは強調されている.
翻って7年5カ月が経過した本年2月時点での医療事故報告は2,606件,院内調査結果報告は2,255件であり,平均すると月約30件程度の報告が行われていることになるが,医療安全への関心が高まるなか,増加しているかというとそうではなく,本制度開始当時からほぼ変わらない数字となっている.また,この数は当初予想されていた数字よりもずっと低いものである.これについてはセンターでも分析はされているが,国民をはじめ医療者・医療機関でも本制度が十分に浸透していないこと,医療者・医療機関の責任を追求するものではないとはいえ,心のどこかに法律上の責任の有無を問うための資料に用いられるのではないかという危惧がぬぐえないこと,事例が予期したものか予期しなかったものか,診療に起因したか,しなかったかなどの判断が医療機関や医療者個人でもバラツキがあること,などがあげられている.特に,医療安全管理組織がしっかりしているはずの特定機能病院のなかでも1度も報告経験のない病院が存在することは,本当にこのような事例が存在しないならば賞賛されるものではあるが,統計的にも考えづらいのではないか,と指摘されている.
日本外科学会(以下,本学会)はこの制度の支援団体である一方,本学会の会員が所属する外科系診療科は,この医療事故死亡例に遭遇する機会が他の診療科よりも多いことが明らかになっている.2016年の会員へのメッセージで,当時の本学会医療安全管理委員長であった松原久裕教授が,本学会顧問弁護士であった児玉安司先生の言葉として,この法律は自主的な取り組みを尊重する罰則等のないソフトローである,と書かれているように,本法律・制度は,医療者・医療機関に対する社会からの信頼に基づいたものであることを改めて確認し,われわれはそれを裏切らないように,そして,さらなる信頼を得られるように,本制度を積極的に活用し,医療事故再発防止の観点から医療の質・安全を高めることに努めるべきであると考えている.

 
利益相反:なし

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