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日外会誌. 124(4): 348-352, 2023

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特集

外科的冠動脈血行再建術の現状と展望

7.冠動脈内膜摘除の現状と将来

川崎幸病院 心臓外科

高梨 秀一郎 , 和田 賢二

内容要旨
冠動脈バイパス術(Coronary Artery Bypass Grafting:CABG)の症例が重症化していく中で,経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention:PCI)が困難な複雑病変や重症血管病変が含まれるようになってきた.特に左前下行枝(left anterior descending artery:LAD)は末梢側のみだけでなく中隔枝や対角枝にも血流を灌流しており,びまん性に狭窄がある場合に通常の末梢吻合のみではそれらの側枝に十分な血流を確保することは困難である.そのような時にon-lay patch graftingを行ってきた.さらに動脈硬化が著しい石灰化病変の困難な局面において内膜摘除(endarterectomy:EA)を行ってきた.内膜摘除の歴史はCABGよりも古く,一旦は多くの心臓外科医から敬遠されるもoff pump CABG(OPCAB)と併用することにより通常の吻合が困難な場面でも安定した成績をおさめてきた.内膜摘除の実際は確実なrun offを得るために全長に病変冠動脈を切開して行っている.必ず末梢側は正常内膜まで切開を進めることが重要であり,対角枝や中隔枝の入口部分を含めたごく一部が残るイメージで,できるだけ内腔の大半を左内胸動脈で構成するように縫合する.

キーワード
冠動脈バイパス, 内膜摘除, long onlay, オフポンプ, びまん性病変

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I.はじめに
近年,虚血性心疾患の患者は高血圧,糖尿病,高脂血症,腎不全などの併用により冠動脈疾患自体の重症化が顕著に進んでいる.冠動脈の血行再建の適応を考える上で最も重要なことは,その長所と短所を十分に把握した心臓外科医と循環器内科医が話し合い患者にとってより有益な方法を選ぶことである.特にその対象となる血管病変の分布と形態はPCIとCABGとの選択において重要な要素となる.PCIの進歩は著しく左主幹部病変や3枝病変に対してPCIを積極的に行う施設が増えつつある.しかしながらびまん性冠動脈病変はPCIの成功率が低く,遠隔期の成績が劣ることも以前から指摘されている.一方で遠位部に吻合の適した部位が乏しいびまん性病変に対するCABGの成績は術者の技量に大きく依存することとなり,いずれを選択しても難渋する場合が多い.その意味ではびまん性冠動脈病変は冠動脈治療の領域で唯一残された課題といえる.
われわれはこのびまん性冠動脈病変に対して外科的血行再建術としてon-lay patch並びに内膜摘除術を行ってきた.この吻合方法は従来の吻合方法で不可能であった病変部に対する血行再建を可能とする術式である.今回はこの冠動脈内膜摘除を含めたこの術式の意義や方法などについて概説する.

II.冠動脈内膜摘除後の歴史
冠動脈内膜摘除の歴史はCABGの歴史よりも古い.冠動脈への直接手術手技は1950年にVinebergが有茎内胸動脈を心筋トンネル内に植え込むVineberg手術1)に始まる.初めての内膜摘除は1956年Baileyが回旋枝の側壁枝の限局性病変に対して病変抹消から引き抜く形でclosed retrograde endarterectomyを行った2)
1961年にSenningが人工心肺を使用せずに低体温下に冠動脈に内膜摘除を行い,大伏在静脈(saphenous vein graft:SVG)でパッチ縫合閉鎖を行った3).遅れて1962年にSabistonが右冠動脈に対してSVGで冠動脈バイパス術を初めて施行した4).1964年にはKolesovが内胸動脈で初めて冠動脈パイパス術を施行した5)
そこから1960年代後半になって人工心肺の登場と冠動脈造影(coronary angiography:CAG)の導入がバイパス手術を飛躍的に発展させることとなる.1968年にFavaloroが人工心肺を用いてSVGによるCABGの術式が全世界での標準的冠動脈血行再建術式となった6)
CABGが血行再建の標準術式となってから内膜摘除は一部の患者におけるCABGの補助的な手技となった.さらにEfflerの初期の成績において内膜摘除は心筋梗塞の発生率が多いことが示され,その後は多くの心臓外科医から内膜摘除は敬遠される術式となってしまう7)
1980年代に入り積極的に内膜摘除を行っていたJohnsonやBrenowitzの成績に対して8)9),Loopはresurgence of coronary endarterectomyと題して冠動脈内膜摘除の復活を以下に述べた.「内膜摘除は対象患者の変化から(高齢,女性,糖尿病,末梢血管障害)復活に値する手技である.冠動脈のrunoffを改善することなしに効果的な血行再建は不可能である.以下の三つの理由で内膜摘除は復活に値する.①心筋保護の改善により精緻な内膜剥離と吻合の楽しさを可能にした.②内膜摘除を成功するには完全な内膜coreの摘出が必要である.③冠動脈内血栓の予防が実行され内膜摘除後のグラフト開存を向上させる.」10)
1980年代後半からoff pump CABG(OPCAB)が普及するようになり,わが国では世界有数のOPCAB大国として発展していくこととなる.
その中で清水はMills法11)によるclosed EAを1994年から開始する.当時は日本での内膜摘除の手術報告は1989年の平田,宮本らの文献12)くらいであり内膜摘除に対しては依然否定的な見解がなされていた.しかしながら冠動脈手術の長期遠隔予後を重視するなら完全血行再建を目指すべきであり,びまん性冠動脈病変に対しての完全血行再建にはEAが不可欠な手術手技の一つであると清水らの見解であった.
その後1997年にグラフト開存性を高めるためにopened EAと内胸動脈によるlong on-lay patch graftingを報告した13).2003年にはLADに対してoff pumpでの内膜摘除とlong on-lay patch graftingを報告した14).特に2017年に西川らが内膜摘除を行った約10年の188人の成績を報告しており,5年の心血管イベント回避率は74%と長期においても良好な成績を示している15).約20年にわたる経験でOPCABにおける内膜摘除とlong on-lay patchは確立した手術として発展してきた.

III.びまん性冠動脈病変の定義
1976年にRoschらが20mmを超える病変長を有する連続した冠動脈硬化病変を「びまん性」と定義したことが始まりである16).その後にAmbroseらにより求心性,偏心性,多発性といった細かい形態分類も追加された17).現在では「冠動脈造影で75%以上の優位狭窄が20mm以上の病変長を持つ病変」とすることが多く,ACC/AHA分類ではtype Cがこれにあたる.注意すべきことはこの定義はあくまでも冠動脈造影法による評価法であり病変の狭窄の程度を対象血管部位との比較によって狭窄度として表現することである.動脈硬化の疾患の本態は血管壁にあるために,内腔狭窄の有無だけでは真の評価はできない.びまん性病変の場合は動脈硬化の程度が重症であっても冠動脈造影では狭窄度が軽微と表現されてしまう可能性があることを常に考慮する必要がある.

IV.冠動脈内膜摘除後の適応
基本的な対象血管はLADのみであるが,石灰化が強く吻合がどうしても困難な場合は右冠動脈や回旋枝にも内膜摘除を最終手段として行う場合もある.LADを選択する理由は分枝する対角枝や中隔枝などの分枝が多く灌流領域が大きいからである.
LADの支配領域にviabilityを認められない場合は適応でない.陳旧性心筋梗塞であれ完全閉塞病変(chronic total occlusion:CTO)であれ,少しでもviabilityがあれば積極的に行う.判断が難しい症例では心臓MRIや核医学検査や負荷心エコー検査などを追加して行っている.
また内膜摘除を行う症例は多くの場合,術前のCAGで判断できる.CTOで側副血行路の情報だけではLADの情報が不十分な場合は,術中に血管を剥離してから内膜剥離の是非を決断することもある.また術前のCAGではさほどびまん性狭窄を認められなくても,動脈硬化の黄色いsoft plaqueが多発しておりon-lay patch graftingだけで対応できない場合には術中に判断して内膜摘除を行う場合もある.

V.冠動脈内膜摘除 + long on-lay patch graftingの手術手技
グラフトは左内胸動脈の使用を基本とする.内胸動脈は他のグラフトより長期開存率が高く,生命予後改善効果の高いグラフトである.また右内胸動脈に比較して左内胸動脈の方がLADに対して近く,水平に走行しているためにより長い吻合を可能とする.採取の際にはできるだけ長く使用するために中枢側は鎖骨下静脈と交差する付近まで,末梢側は2分岐する少し先までskeletonizeでの採取を心がける.
吻合は特別な状況でない限り左回旋枝から始めて,最後にLADを吻合するようにしている.手術開始前半の方が輸液も入らず心臓の状態が軽いために回旋枝領域や右冠動脈領域の脱転に有利であること,また細かい作業に慣れてきた最後に一番肝心なLADの長い吻合を行うことに有利であると考えている.市販のstabilizerとheart positionerを使用して吻合がどれだけ長くてもほとんどの症例でoff pumpでの完遂が可能である.
LAD吻合予定部位を展開するが,心筋内走行や脂肪組織内走行であれば走行全体にわたって超音波メスにて剥離を行う.血管の動脈硬化部分は外見上と触診で概ね判断できる.LADの末梢側に剥離を進め目標到達地点を探すことが非常に重要である.動脈硬化病変は連続している場合と断続する場合があるが可能な限り正常内膜が連続している部位まで剥離を進める.心尖部を超えて動脈硬化が末梢まで連続して存在する症例はほとんどないが,時にその剥離が心下面に及ぶこともある.生命予後に直結する血管であるLADの再建であるからこそ,末梢への中途半端な妥協は許されない.中枢側の剥離は再建が必要な対角枝や中隔枝が存在する部分までをその目標とする.
末梢側ならびに中枢側の予定部位が決定すれば中枢予定部位より中枢側でsnareを行い,LADの比較的前面部の内膜性状が良い部分をマイクロ剪刀にて切開する.末梢側にはできるだけ前壁中央で切開する.内膜性状が完全に良い部分は広角に切開口が左右対称に開くので,視認できる範囲で性状が良さそうに見えても左右の開きが悪い場合はその奥に動脈硬化が隠れていたり,思わぬ分枝がある場合が多いので少し切開を進めて直接確認する方が良い.中枢側の切開は石灰化が強いこともあるが前壁中央での切開を試みる.
全長の動脈切開が終了すれば内膜摘除にうつる.内膜摘除はCO2 blowerで自然に剥がれてくる部分から行っていく.動脈硬化が著しいために内膜のみが自然に剥がれてくることが多い.内膜剥離を末梢側まで進めて正常内膜まで到達すれば後壁内膜を離断する.末梢側の後壁内膜断端を8-0 polypropyleneの二層連続縫合で外膜に固定して断端形成を行う.中枢側は硬化性病変が連続していることが多く,対角枝や中隔枝の部位も連続して正常内膜まで丁寧に引き抜いていく.中枢側はsnareを緩めて剥離鉗子で切開より中枢側まである程度くり抜いてやる.中枢側は外膜のみをゾンデの2mmを入れて,約1cmほど外膜同士を連続縫合して中枢の断端形成とする.これは引き抜いた残りの動脈硬化した内膜などが吻合部に露出しないようにするためである.内膜摘除した部分は本来血流に触れない外膜が露出しており,血栓形成を起こしやすいためによく洗浄し,残存する内膜断端などを丁寧に除去する.
LITAをLADの切開長に合わせて切開する.LITAのheel部分から連続吻合3針程度かけてパラシュート法でLADにおろしていく.Heelとtoe部分は8-0 6mmを,サイド部分は8-0 8mmを使用して数針変えながら進んでいく.外膜はできるだけ残さないように対角枝の開口部と中隔枝の開口部のぎりぎりを縫合ラインにし,内腔の大半をLITAの内膜で覆い,LADの後壁のごく一部が外膜であるイメージで縫合するのが良い.サイドをある程度進めたら,先にtoe部分までの長さを決定してパラシュート法で先にtoe部分の吻合を完成させてから残りのサイド部分の縫合を行い終了する.終了直前にtoe部分と中枢側の吻合部部にゾンデを通して内腔が確保されていることは確認する.

VI.おわりに
内膜摘除術はびまん性冠動脈病変のため,通常の吻合ができない症例や通常の吻合では重要な側枝に十分な血流が再開することができない症例に対して行われる術式である.特にLADにおいては血管が狭いので単にバイパスを繋ぐというわけではなく,真に血流を再開する部分はどこかということを常に考えた時に,この手技の意義がみえてくると思われる.近年の術後の手術成績も良好であり,今後の更なる疾患の重症化に伴いこの手技の必要とする症例が増加してくると考えられる.

 
利益相反:なし

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文献
1) Vineberg AM, Miller G: Internal mammary coronary anastomosis in the surgical treatment of coronary artery insufficiency. Can Med Assoc J, 64: 204-210, 1951.
2) Bailey CP, May A, Lemmon WM: Survival after coronary endarterectomy in man. JAMA, 164: 641-646, 1957.
3) Senning A: Strip grafting in coronary arteries. J Thorac Cardiovasc Surg, 41: 542-549, 1961.
4) Sabiston DC: The William F, Rienhoff Jr. Lecture. The coronary circulation. Johns Hopkins Med J, 134: 314-329, 1974.
5) Kolesov VI, Potashov LV: Operation on the coronary arteries. Esp Chir Anaesth, 10: 3-8, 1965.
6) Favaloro RG: Saphenous vein graft in the surgical treatment of coronary artery disease. Operative technique. J Thorac Cardiovasc Surg, 58: 178-185, 1969.
7) Effler DB: Endarterectomy in the treatment of coronary artery disease. J Thorac Cardiovas Surg, 47: 98-102, 1964.
8) Brenowitz JB, Kayser KL, Johnson WD: Results of coronary endarterectomy and reconstruction. J Thorac Cardiovasc, 95: 1-10, 1988.
9) Brenowitz JB, Kayser KL, Johnson WD: Triple vessel coronary artery endarterectomy and reconstruction:results in 144 cases. J Am Coll Cardiol, 11: 706-711, 1988.
10) Loop FD: Resurgence of coronary artery endarterectomy. J Am Coll Cardiol, 11: 712-713, 1988.
11) Mills NL: Coronary endartectomy:surgical techniques for patients with extensive distal atherosclerotic coronary disease. Adv Card Surg, 10: 197-227, 1998.
12) 平田 和男,宮本 忠臣,坂田 隆造,他: Coronary endarterectomyの手術方法とその成績.日胸外会誌,37: 94-99,1989.
13) 高梨 秀一郎,清水 幸宏,木村 瑛二,他: びまん性狭窄病変に対する冠動脈血管内膜剥離術症例の検討.冠疾患誌,3: 32-35,1997.
14) Takanashi S, Fukui T, Hosoda Y, et al.: Off pump long on-lay bypass grafting using left internal thoracic artery for diffusely diseased coronary artery. Ann Thorac Surg, 76: 635-637, 2003.
15) Nishigawa K, Fukui T, Takanashi S, et al.: Ten-Year experience of coronary endarterectomy for the diffusely diseased left anterior descending artery. Ann Thorac Surg, 103: 710-716, 2017.
16) Rosch J, Antonovic R, Trenouth RS, et al.:The natural history of coronary artery stenosis. A longitudinal angiographic assessment. Radiology, 119: 513-520, 1976.
17) Ambrose JA, Winters SL, Stern A, et al.: Angiographic Morphology and the Pathogenesis of Unstable Angina Pectoris. J Am Coll Cardiol, 5: 609-616, 1985.

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